色彩的には中性と久我ちゃん!
久我 ええ。私、天然色映画って今度がはじめてなんですが、最初に肌の色やメーキャップを分光器で測定されたりなんかして、一寸おどろきましたわ。
雷蔵 あれは僕も「千姫」の時にはやらなかったのですが、溝口先生が「楊貴妃」の時に初めて試みられたのが、大変結果がよかったので、今度は大々的にやることになったのだそうですよ。
久我 赤坂の色彩研究所の実験室に坐らされて、十分間ばかりで計って貰ったのですが、あの分光器で科学的に分析したら、皮膚の色素の関係が解るんですってね。つまり、皮膚の色の出来上り具合が曲線に出てくるのでしょう。基本的なメーキャップの参考にとても便利な訳ね。
成年 これは大映だけの専売だそうですね。
久我 その結果がね、私の場合、皮膚の色が男の平均と女の平均との中間ぐらいで、いうなれば中性なんですって。(笑声)ふだんでも私は中性みたいだと云われているのですが、それが肌の色で初めて科学的に照明された訳よ。
雷蔵 ところが、僕の分光曲線はどうも女性に近いらしい。
成年 これはえらい夫婦が出来上りそうだな(笑声)
久我 とにかく、そんな手間や費用をかけて素顔とメーキャップとドーランの関係をあらわした表が出来たのですし、これ以上陽焼けしてはいけないというのが、お互いにつらいですね。
雷蔵 僕もこの二週間ほど、撮影がなかったのに、日中外へ出歩けないから、自動車でパーッと映画館へ馳けつけ、映画を見終ると又自動車でパーッと他の映画館へ・・・(笑声)だから、今いった弓の稽古なんかも、いくら時間があっても、ちょっとの間しか出来ない。見学者に記念写真に入ってくれと頼まれるのが一番コワイですね。
久我 お部屋からセットへ通う途中なんかに、見学の人たちからサインを頼まれても、まず陽影を探して飛込み、それからおもむろにサインするという具合。(笑声)
雷蔵 ちょっとの間でも、日に焼けたらコワイという恐怖感に似たものがあるんですね。
成年 ちゃんと王朝時代の扮装をして、髷の上から「革命児サパタ」みたいなつば広の麦藁帽子をかぶって、セットへ通う僕等の姿は、けだし天然色映画でなければ見られぬ珍景ですよ。
雷蔵 その帽子も親切で貸してくれたのとはちがう(笑声)
久我 いま撮っている西オープンセットの「時忠の家」でも、ビーチ・パラソルの下へ入ったが最後、撮影が始まるまで、一歩も外へ出られないんでしょう。あれがとてもつらいわ。
雷蔵 その撮影が例によってなかなか始らないしね(笑声)
成年 とにかく、僕はこの暑い三ヵ月間、水泳が出来んということが、一番つらいですね。野球だってナイターしか見られないし・・・何しろ、夜しか外出できないんだから。
雷蔵 いい口実になるね、成年さんの夜歩きの。(笑声)
成年 結局、日中はどうしてもリハーサル(下稽古)をやるより他はない。
雷蔵 何のリハーサルか知らないけれどね。(笑声)
久我 私も十年近い映画生活で、撮影もしないでお宿に一ヵ月近くもブラブラしていたのは今度が初めてなんです。それが今のような訳で、映画に行くか、お宿で本を読むかするより仕方がないのでしょう。まあ、ずいぶん勉強したといえばいえますけど・・・・。