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録音技師からみた映画について語る林さん(京都市右京区) |
京都の大映などで録音技師として映画製作に携わった京都市右京区の林☆(つち)太郎さん(85)が、このほど回想録「映画録音技師ひとすじに生きて−大映京都60年」を出版した。撮影の裏話、名優や名監督との思い出など貴重な証言が多く、裏方からみたもう一つの日本映画の姿が浮き彫りになっている。
■「羅生門」の秘話や名優の思い出記す
林さんは活動写真好きが高じて1937(昭和12)年、15歳で日活京都撮影所録音部に入社した。無声映画からトーキー映画へ移っていく時代で、録音技術は新しかった。42年には、戦時下の企業統合により大日本映画製作株式会社(大映)の勤務となった。
本書には、入社当初「笑う(省く)」や「ばらす(片づける)」などといった特有の業界用語に苦労させられた話、終戦後、インドネシア・セレベス島(現在のスラウェシ島)で捕虜となり、現地で劇団を結成したエピソードもある。
復員後は大映に戻り、京都映画界の黄金期を体験した。名作「羅生門」(黒澤明監督)の裏話、二代目中村鴈治郎さんや長谷川一夫さんの思い出なども語られている。相手が大物俳優でも、せりふや発音の間違いを指摘することもあったという。
録音技師としては53年の「水戸黄門 地獄太鼓」(荒井良平監督)でスタートし、「弁天小僧」(伊藤大輔監督)などの作品で活躍、94年の「RAMPO」(黛りんたろう監督)を最後に引退した。
林さんは「日本映画の創成、全盛、衰退などを経験した者として、当時のことを書き残したかった。活動屋人生を知ってもらうことで、京都映画の復権につながれば」と話している。草思社刊。2310円。
☆=「土」の右上に「、」が付きます。(京都新聞電子版03/13/07より) |