例えば、竜ノ口の法難場面では、一瞬天より降った雷火が、日蓮を斬ろうとする処刑者の刀を三段に断つ、あるいは日蓮が荒天の海に題目を書くと、金色でその文字が浮び、忽ち嵐が凪いでしまう。いわゆる波題目の奇蹟、更に大地震あり、最後に蒙古十万の軍船が博多湾を埋め、数々の戦闘場面を経て、クライマックスの大暴風雨で、全船団が海の藻屑と消え去る凄まじいスペクタクル・シーンまで、かの『十戒』をしのぐものとして、大映スコープ総天然色の大画面を圧し去ることは疑いありません。
また、スタッフについても、最初より四班編成で劇と特撮とが同時にスタートし、ロケにセットに緊密な連絡のもと、渾然たる作品を作り上げるもので、今回のロケでは鳥取の大砂丘に、富士の裾野に、エキストラ数千の大戦闘場面を約十日間にわたって展開することになっています。
配役についても、渡辺邦男監督が、「日蓮を演ずるにはこの人をおいてない」と折り紙をつける長谷川一夫をはじめ、北条時宗には市川雷蔵、鎌倉の若武者に勝新太郎、梅若正二、日蓮の弟子に黒川弥太郎、林成年、日蓮を慕う健気な白拍子に淡島千景、武家娘に叶順子(時代劇初出演)らほか、大映のオールスターと新劇人を網羅した大キャストを組み、一ヵ月半にわたって延人員十万を数える大撮影を展開する壮観は、全く映画界未曾有のものといえましょう。
○物語は大変長いため、割愛させて頂きましたのでご了承下さい。
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