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 観終った後、頭が痛いのを感じましたが、これは全編余りにも大声で喚き立てる台詞の多かった為ではないかと思われます。特定の人達を除く一般観客に、宗教臭の強いあの映画を長い間、飽きさせずに見せる為には、ああしたストーリーと台詞が必要なのかも知れませんが、もう少し静けさがあっても好かったのではないでしょうか。

 又、あの映画はカラーフィルムだったので、戦いのシーン等余りに印象が強烈で、一寸どうかと思いましたが、海の色や、衣裳の美しさ等は、カラーの持つ好さを充分発揮していたと思われます。

 前に外国映画でやったカラーとモノクロームの合併等、どうかしら等とふと思ったりしました。最後の蒙古の軍船が、海の藻屑と消えるところはさすが大映が誇るだけあって、中々物凄く、思わず息をのんでしまいましたが、最後の一艘が沈むまで見せられたのは、一寸飽きが来ました。

 日蓮をテーマとしている以上、日蓮の出るシーンが多いのは無理のない事と思われますけれど、時宗をめぐる幕府要人の動き等も、もう少し詳しく表わしても好かったのではないでしょうか(それも雷蔵さんの英姿を、もっと沢山スクリーンに見たかった潜在意識から)、でも、どんな時でも彼は真面目にその役に取組んでいることです。

 時宗の役でも、天成の品の好さと気魄が、あの役にはぴったりでしたね。本当にあれ以上の配役は望めないのではないかと思いました。そうした細かい表情の動きの巧みさ、それは『炎上』の時にもつくづく感じた事ですが、彼は今に立派な性格俳優になるのではないでしょうか、本当に楽しみなことです。

 最後に、何時迄も変わらない誠実さと、演技力の向上、それと彼の幸を祈ってやみません。

(北多摩) 


 求道の遍歴を終えた蓮長が、清澄寺での初説法の時「現在の仏法はすべて邪法、法華経以外には真の平和、幸福は得られぬ」と説いた事から、清澄寺から追い出され、日蓮と名を改めて幾多の生命の危機に追いやられ乍らも、連日“南無妙法蓮華経”の旗をかかげ、辻説法を行い、最後までその信念を曲げず、未曾有の国難を克服する、清らかな人格と燃ゆる様な情熱、全く役柄にうち込みきっている長谷川一夫さんは最高の力演だったと思う。

 それに加え、雷蔵さんの北条時宗も日蓮に負けない程のすばらしい演技を示された様に思う。時宗の日蓮の信念を思う心が、ほのぼのとした温かさを感じさせ、ついには自ら頭を下げて日本の為に、是非力をかりたい・・・といった場面が、今でもはっきり頭に浮かぶ。

 “蒙古襲来”のシーンで、先般撮影所見学の時、マンモス・プールに於けるトリックが解ったら十万円上げる、と云われたが、実際見る者に相当な迫力を与え、ただ驚異の眼をみはるばかりであった。

 特に竜ノ口の法難場面で、一瞬天より降った雷火が、日蓮を斬ろうとする処刑者の刀を三段に断ち、或は、日蓮が荒天の海に題目を書くと金色でその字が浮かび、忽ち嵐が凪いでしまう。クライマックスの大暴風雨では全艦隊が海の藻屑と消え去る凄まじいスペクタクル・シーン、全く規模と云い、配役と云い、特に全体を通じての音楽は心深くひびかせる効果十分、全大映の総力を十二分に駆使された渡辺監督の情熱のこもる、一世一代の大作ではなかっただろうか。

 私は法華経の尊さも何も解らなかったが、歴史の事実から飛躍して自由に創作したものとは云え、その偉大さを今更ながら痛感した有様です。久しぶりに、大いに楽しむ事が出来たことを心から喜んでいます。これを機会に、益々雷蔵さんの演技の向上を祈ってやみません。

(尾道)


 まさに題名の通りの内容で、立役者は日蓮と神風なのである。だから日蓮の立派さと神風の凄まじさには文句が無いが、時宗に関しては一寸不満があった。と云っても雷さんの演技にではなく、演出に対してである。 

 第一に、時宗が初めて登場するシーンが実に呆気無い。今か今かと時宗の華麗な登場振りを期待していたら、肩すかしを喰わされた感じだった。渡辺監督はサービスが悪い?物語の主要人物は、矢張りもっと印象的な出方をしないと映画が引き締まらない。それに時宗の性格も描き足りない。若くて聡明な為政者にはなっているが、元の使者を追い返す有名な話を省略してあるので、その剛胆さが出ていない。時宗対蒙古の対決は描かれていず、専ら対日蓮との関係を追っているので、為政者としての時宗の大きさが出ていないのが物足りなかった。その代り日蓮は実に偉大なる人物で、嵐も呼び嵐を起して蒙古の大軍を調伏するなど一寸現実離れがしすぎる気もする。

 問題のスペクタクルシーンは、まだ一寸変化に乏しいが、それでもあれだけ凄まじさを出せれば成功だと思う。スタッフの人達は随分苦労をされた事だろう。雷さんの良かったのは日蓮との問答シーンで、長谷川日蓮の貫禄に一歩も譲らぬ、凛とした気魄を感じさせてくれた。専門家の批評も「名調子」とあったが、これからも大いにセリフの勉強を積んで戴きたいと思う。

(札幌)


 この映画は日蓮に重点を置かれて書かれた為、長谷川さんの一人舞台が多く、私の期待に反して雷蔵さんの扮する時宗は、出演場面少なく、私の想像していた北条時宗のイメージとかけ離れた感じをシナリオから受け、ちょっとばかりがっかりしましたが、ワイド一杯にくり広げられるスペクタクルに息つく暇もなく、作品にひきつけられ、素晴しい特殊撮影とカラーはさすがは大映と眼を見はるのに充分でした。

 雷蔵さんの時宗は、若さと情熱にあふれた貫禄ある演技で、僅かなシーンながら光ってみえ、特に鎌倉評定所での日蓮との対決、「待たれい」鋭い声をかけて、「命をかけて御返事を承りたい」と気魄の入った長谷川さんとのセリフのやりとりは、拍手を送りたい様なあざやかな場面でした。長谷川さんの日蓮は、長い芸道生活を一筋に生きて来た人らしく、素晴しい熱演でした。

 この終りに、もう少し雷蔵さんの時宗がスクリーンに活躍してくれたら、もっと楽しいものになっただろうとファンとしての不満を述べ、一回サラリの感想をしたためます。

(東京)

(「よ志哉」 第8号 11/25/58発行より)