次男坊判官

  

1955年3月25日(金)公開/1時間23分大映京都/白黒スタンダード

併映:『暁の合唱』(枝川弘/香川香子・根上淳)

製作 酒井箴
企画 浅井昭三郎
監督 加戸敏
脚本 衣笠貞之助
撮影 武田千吉郎
美術 太田誠一
照明 岡本健一
録音 大角正夫
音楽 山田栄一
スチール 藤岡照夫
助監督 渡辺実
出演 浅茅しのぶ(寿女郎)、峰幸子(お八重)、市川小太夫(榊原重蔵)、潮万太郎(梅の三吉)、浦辺粂子(おしげ)、杉山昌三九(谷山猪十郎)、南條新太郎(遠山金之丞)、羅門光三郎(熊蜂の権六)、若杉曜子(大黒女郎)、橘公子(お静)、大美輝子(布袋女郎)、荒木忍(彫鳶)、東良之助(越後屋彦兵衛)
惹句 『腕でこい、度胸で来い、桜のいれずみ伊達じゃなアない、剣が躍って恋が泣く雷蔵が痛快の大殺陣身は旗本でありながら、何を好んで町人ぐらし、若殿姿がたまらないと人気わきたつ雷蔵の魅力満開明るい恋の花が咲き、白熱の剣が舞う痛快時代劇』『きった啖呵にもろ肌ぬげばパッと咲き出す真紅の桜魅力満開の雷蔵が痛快の大殺陣』『にっこりわらって悪を斬る痛快 雷蔵売出し時代劇』『腕も度胸も日本一桜の肌に鉄火の啖呵美男雷蔵大捕もの大暴れ

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解 説 ★

山根貞夫のお楽しみゼミナール

 兄に家督を譲るために、家を捨て江戸の町へ飛び出した若き日の遠山の金さんの物語。のんきで純情で、剣を持ったら滅法強い若様侍が江戸の下町へやってきた。そばやの出前持ちから色町、鉄火場、はては刺青師の居候。背中に彫った桜も鮮かに悪代官をやっつける痛快時代劇。

 『次男坊判官』は1955年の大映作品で、市川雷蔵のデビューから7本目。単独の主演作としては3本目にあたる。題名から見ても、明らかに一つ前の作品『次男坊鴉』との連続性において発想されたにちがいない。『次男坊鴉』での役が、やくざ=実は旗本の次男坊というのだから、金さん=遠山金四郎へは一直線である。いうまでもなく“遠山の金さん”は時代劇ヒーローの定型で、戦前から多くの男優が演じてきた。新スター市川雷蔵を売り出すのにその切り札を使用しない手はなかろう。

 ・・・若殿姿がたまらないと人気わき立つ雷蔵の魅力満開!この映画の惹句の一部である。こんな惹句もほかにある。・・・一作ごとに魅力をます、雷蔵がまたまた見せる剣の冴え!当時の市川雷蔵売り出しの勢いがよくうかがえよう。ことに“若殿姿”が強調されている点に、雷蔵=爽やかな気品というイメージが見て取れる。念のいったことに、映画では、まるで惹句を証明するかのように、蕎麦屋の離れにいる主人公に、近所の若い娘たちが“若様”と嬌声をあげるシーンが、ちゃんと描かれる。

 脚本は衣笠貞之助。戦前からの時代劇の巨匠で、とりわけ林長二郎時代の長谷川一夫を人気スターにしたことで知られる。大映としては市川雷蔵を長谷川一夫に追いつく時代劇スターにしたかったのであろう。この直後、雷蔵は脇役ながら初の現代劇『薔薇いくたびか』において監督衣笠貞之助と初めて仕事をすることになる。監督の加戸敏も、大映で長谷川一夫と多く組んでいた時代劇のベテランである。ここにも雷蔵売出し作戦の狙いがあきらかであろう。

 ところで“遠山の金さん”は武士なのに町人になり、その間、髷を変えるが、この映画のように髷を結い直すシーンがあるのは珍しい。桜の刺青を入れるくだりもある。そんな新鮮さこそが市川雷蔵の魅力といえよう。(キネマ倶楽部・日本映画傑作全集ビデオ解説より)

★好評『次男坊鴉』の後を承けて、いわば姉妹篇として製作される『次男坊判官』は、若殿姿に一番魅力があると称せられる市川雷蔵が、遠山金四郎になって、颯爽たる刺青判官振りを見せるもので、まさに打ってつけの企画といえましょう。

★製作酒井箴、企画浅井昭三郎の下、名匠衣笠貞之助書卸しの苦心の脚本を、好調加戸敏監督が、名コンビ武田千吉郎のキャメラを以て、野心をぶっつける娯楽時代劇です。

★配役陣は、前述の通り市川雷蔵が若き日の遠山金四郎に扮して、痛快な活躍をするのに対して、大映初出演の浅茅しのぶが、大映のホープ峰幸子と艶を競うのを初め、市川小太夫、潮万太郎、羅門光三郎、浦辺粂子、若杉曜子、橘公子、大美輝子以上四十名になんなんとする大キャストを以て臨んでいます。

★後年の名奉行遠山左衛門尉景元の若き日、旗本の妾腹の次男に生れた遠山金四郎は、病身の兄に家督をゆずる為、わざと武士を捨て市井へ身を投じるが、町人の世界になれないままに、かもし出すおのずからなるユーモアから、やがて彼の発見した尨大な組織を持つ社会悪に対する怒りとなり、ここに単身独力を以て、痛快な活躍となる物語で、そのかげに二つの恋の花さき、愉快な相棒のふりまく笑と共に、渾然たる娯楽作品を形作っているものです。(公開当時のパンフレットより)

 

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金四郎のイレズミに毎日二時間

=大映京都「次男坊判官」=

 市川雷蔵さんの次男坊シリーズ『次男坊判官』はおなじみ名奉行、若き日の遠山金四郎を描く大映じまんの時代劇です。遠山の金さんといえば、双肌のイレズミで有名です。もちろんこの映画でも見事なイレズミが売物ですが、御本人の雷蔵さんにしてみれば、このイレズミが大変です。

       

 美術部の高橋さんの手によって背中に桜、右腕に昇り竜左腕に下り竜が描かれる時間がざっと二時間。このあいだ上半身ハダカでじっと坐っている雷蔵さんも、撮影中毎日この難行がつづくのですからまったくラクではありません。撮影がはじまる直前にすでにくたびれてしまいます。「イレズミは痛いというけれど、このイレズミは寒い」などと冗談をいいながらもがまんしているそのシンボウ強さには頭が下るというものです。

 そこでスナップのカメラをむけると「イレズミばかり写さんと、金さんの顔も写してや」とニヤリ。またこの映画では潮万太郎さんが梅の花を背中に散らしたイレズミで金四郎と威勢のいいところを競っていますが「カラー映画でないのが残念です」と口惜しそう。イヤまったく。(平凡55年5月号より)

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 いったいに、講談の面白さというのは、話術のよさにあると思います。しかし、時代劇を講談に徹して撮ろうと考えても、これは余程講談に精通した人でないと、映画にあてはめる技術は大変むずかしい仕事なのです。その意味では、初期の衣笠(貞之助)さんにいろいろ傑作があったと記憶しています。

 しかし、私は講談の面白さをそのまま映画へ移し変えることに、乏しい才能を絞るよりも、面白さのポイントのおき方を変えることによって、私は私なりに、違った面白さを再現しようと考えたのです。つまり大映京都の『次男坊判官』では一応講談の面白さというものを忘れ、そのネタだけを頂いて、若い日の遠山金四郎を描いてみることにしました。『次男坊判官』の次男坊という言葉から受ける感じは、総領息子とはおのずから違った無軌道さ、若さといったものが多分にあり、そういったものが、この映画を通じて描き出せたらと思っています。

 そこに、市川雷蔵’という若いスターを持って来た狙いもあるわけです。次男坊として解放された形におかれた青年を描いて行くことによって、この映画を見る若い人たちに多分の共感を与えることになりはしないかと考えている次第です。

(西日本スポーツ03/23/55より)

(オールスポーツ03/26/55より)

★ ものがたり ★

 旗本の若手で小太刀を取って無双と謳われる遠山金四郎は、上野東照宮の奉納試合で、紅組の大将として出場したが、予想を裏切って敗れた。金四郎の兄金之丞は病身のため、家督をこの機会に弟に譲る意思を抱いていたが、次男坊でしかも妾腹の金四郎は、この兄に義理を立て、わざと試合に負けて、その日から武士を捨てたのである。間もなく、金四郎は家来筋に当る板橋宿の蕎麦屋長吉の居候となり、侍姿のままで薪割りを手伝ったり、出前を買って出たりして、宿場の娘や女郎の評判になった。

 金四郎が逃避すればする程、金之丞もまた金四郎に義理を立てて、飽くまでもその所在を探させたが、これを知った金四郎は思い切って、髪まで町人髷にしてしまった。彼は髪床で知り合った梅の刺青が自慢の三吉という威勢のいい若者と意気投合し、大いに飲み歩き、その余勢で、賭場へ乗り込んだ。

 それは日本橋の米問屋越後屋が、遊女屋の俵屋を買い切った花会だったが、ぐでんぐでんの金四郎が向う見ずに張る丁半度胸が効を奏したのか、場の有金を一人占めにしてしまった。この花会の肝入りをしていた権太は、それを知ると子分に金四郎を放り出させようとしたが、酔って正気を失っていてもさすが金四郎、寅次はおろか用心棒の谷山猪十郎まで投げ倒し、お職を張る寿女郎の部屋へ逃げこんだ。寿は金四郎を一眼見て心を惹かれたが、権太たちの追求の眼をくらます為、彼女の父で刺青師彫為の家へかくまってやった。金四郎は彫為に頼んで背中一面に見事な遠山桜の刺青を入れさせ、飽くまで町人になり切る覚悟を示した。

 丁度その頃、越後屋が江戸周辺の米を買占め米価の吊上げを計ったので、町内の住民は非常米の倉を開けようとして大騒動を起したが、肝心の倉番直助は酒に酔って話にならず、これを見兼ねた娘のお八重が、自ら鍵をもって倉へ駆けつけた。しかし直助は越後屋の手先権太に酒を飲まされ、既に米を売っていたので、何も知らぬお八重が、真相を知った町内の人々の激昂に殺される事をおそれ、救いを近所の彫為に求めて来た。傍で話を聞いた金四郎は彫為に代ってお八重を救うために倉へ駆けつけたが、その時既に気丈なお八重は事実を確かめる為、単身権太へ掛け合いに俵屋へ出向いた後だった。

 好色な権太はお八重を見ると、無法にも彼女を手籠めにしようと絡みついたが、突然襖を蹴倒して姿を現したのは金四郎だった。金四郎は権太からお八重を救うと、彼女に代って権太からきびしく背後関係を聞き糺そうとしたが、返答に困った権太は子分たちと共に金四郎に斬りかかった。ここに金四郎、不正を憎む怒りがこみ上げて来て、権太一味をさんざんに叩きつけたが、そのはずみに脱げた着物から現われたのは、彼の背中一面に入れた目の醒めるような桜の刺青・・・。権太たちは完全に圧倒された。

 計らずも事件の渦中に捲き込まれた金四郎、社会悪糾明の為に乗り出したが、越後屋一味には、悪代官榊原重蔵が控えて居り、直助の怪死、金四郎の身辺には寿女郎とお八重の恋、殺人鬼猪十郎の邪剣が渦巻き、事件はいよいよもつれて行く・・・。(公開当時のパンフレットより)

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“遠山の金さん”

 遠山の金さん(とおやまのきんさん)は、江戸町奉行・遠山金四郎景元を主人公にした時代劇。講談・歌舞伎で基本的な物語のパターンが完成し、陣出達朗の時代小説「遠山の金さん」シリーズ(たつまき奉行・火の玉奉行・はやぶさ奉行・長脇差奉行・喧嘩奉行等)などで普及した。現在は、春陽文庫山手樹一郎長編時代小説全集=14「遠山の金さん」等で手軽に読める。

 水戸黄門と同様、「気のいい町人」が最後に「実は権力者」の正体を明かして悪を征し、カタルシスを得る。事件を「奉行の景元」が「遊び人の金さん」として内偵、悪人を一網打尽にする。一網打尽にする直前に片肌脱いで、桜の彫り物を見せつける。お白州になると、被害者は悪行を訴えるが悪人は犯行を否認し、被害者が唯一の証言者である「遊び人の金さんが全て話を知っています。金さんを呼んでください」と叫び、そこで、奉行は一転、「遊び人金さん」であることを示すために片肌脱いでその正体を明かす。ここで、悪人は恐れ入って、刑に服すことになり、一件は目出度く落着となる。

墓所は、東京都豊島区巣鴨本妙寺に

遠山景元(とおやま かげもと)、寛政5年8月23日(1793年9月27日) - 安政2年2月29日(1855年4月15日))は江戸時代の旗本で、天保年間に江戸北町奉行、後に南町奉行を勤めた人物。テレビドラマ(時代劇)“遠山の金さん”のモデルとして知られる。正式な名のりは遠山金四郎景元(とおやま きんしろう かげもと)。官位は従五位下左衛門少尉。wikipediaより

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