銭形平次捕物控・幽霊大名

1954年9月29日(水)公開/1時間30分大映京都/白黒スタンダード

併映:『月よりの使者』(田中重雄/菅原謙二・山本富士子)

企画 辻久一
監督 弘津三男
原作 野村胡堂「報知新聞」連載
脚本 八住利雄
撮影 牧田行正
美術 上里義三
音楽 渡辺浦人
録音 海原幸夫
助監督 市川俊男
出演 長谷川一夫(銭形平次)、長谷川裕美子(百合)、中村玉緒(たより)、柳永二郎(依田和泉守)、村田知栄子(おえん)、沢村国太郎(笹野新三郎)、井川邦子(お静)、神代錦(村岡)、渡辺篤(八五郎)、香川良介(稲垣小太郎)、荒木忍(堀田相模守)、東良之助(酒井左衛門尉)、富田仲次郎(曇海)
惹句 『女をもてあそび、人を斬り、領民を苦しめる悪大名と、生き写しの盲目の殿様とは?天下の名器をめぐって謎の虚無僧、男装の美女、妖艶のお局様、祈祷する怪坊主、覆面の暗殺団、善悪入り乱れる中にお馴染み平次さっそう登場』『待ってました長谷川の平次。謎の大名屋敷に秘められた悪事を暴け』『色慾大名の魔手に恋女房お静がさらわるどんでん返し、底なしの井戸にいどんで、平次快心の投げ銭が飛ぶ』『まだかまだかの熱望に応えて日本一長谷川平次、投げ銭握って颯爽登場』『期間は三日待ったなし四文字の謎を解かねば・・・一人−二人、恋女房お静の命も、平次の命も無い

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 作者からも平次のイメージにピッタリだと褒められたくらい長谷川にとっては当たり役で、49年の『平次八百八町』の第1作から61年の『銭形平次捕物控・美人鮫』まで、全18本が作られた。本作はシリーズ第7作。

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◆ かいせつ ◆

★長谷川一夫の銭形平次は既に一定した信用と興行的な安定性をもったシリーズとして定評があり、この『幽霊大名』は原作者野村胡堂が報知新聞に先頃発表、連載して大人気を博した作品である。

★企画は辻久一、原作は先述の通り野村胡堂で、これを八住利雄が脚色し、新人監督弘津三男がメガホンをとった。

★撮影は『花の白虎隊』に続いて牧田行正が当り、録音海原幸夫、音楽渡辺浦人、美術上里義三、照明加藤庄之丞とベテランスタッフで臨んでいる。

★出演は、『鉄火奉行』に次いで颯爽長谷川一夫が投げ銭にぎって登場し、篇中の人気者ガラッ八にはユーモラスな味を出す渡辺篤が扮し、正か邪か二つの顔の幽霊大名に市川雷蔵が扮して出演するほか、神代錦の側女、村田知英子の妖婦、長谷川裕見子の純情娘、井川邦子の平次女房お静、関西歌舞伎の人気者中村扇雀の妹中村玉緒の謎の小娘と異色ある豪華な顔合わせを展開し

★これを助けて、柳永二郎、沢村国太郎、香川良介、荒木忍、東良之助、富田仲次郎、大邦一公、金剛麗子などが競演の火花を散らしている。

★内容は、大名の家に生まれた双生児の兄弟が、性格境遇を異にするため、重大なお家騒動が起り、領内の民衆の生活のみならず、江戸府内の治安まで大混乱に陥る−その危機を救うため銭形平次と八五郎が数々の苦難をのりこえての活躍を描くもので、そのスケールの大きさと起伏の多い筋立は秋一番の大衆娯楽篇として大いに期待されるべきものである。(公開当時のプレスシートより)

  

 大映では先月から、長谷川一夫十八番の銭形平次捕物控『幽霊映大名』の撮影を開始した。これは本紙に連載中、好評を博した野村胡堂原作の長編「幽霊大名」の映画化で、八住利雄のシナリオである。 

 さきに大映が製作した平次捕物控『金色の狼』は、本紙連載の「水車の音」を改作したののだが、『幽霊大名』は原作が映画的な物語なので、シナリオはほとんと原作そのままになっているようだ。

 金森三万八千石のお家騒動を背景にしたもので、瓜二つの容姿をもちながら、心は白と黒の違いの双生児の殿様が、性格、境遇を異にするため重大なお家騒動がおこり、善悪入り乱れての暗闘に、領内の民衆の生活ばかりか、江戸府内の治安まで大混乱に陥ってしまう。そこで銭形平次とおなじみの八五郎が、危機を救うため事件解決に乗り出すという筋書き。

 演出は、永年伊藤大輔や森一生の助監督をしていた弘津三男の昇進一回で、平次はいうまでもなく長谷川一夫。子分のがらっ八にははじめエノケンを予定したが、これがダメになったため、今回は渡辺篤ときまり、珍しく松竹の井川邦子が、花井蘭子、長谷川裕見子、日高澄子、高杉早苗、霧立のぼる、山本富士子につぐ七人目の女房お静役で出演。

 双生児の殿様には市川雷蔵の二役、謎の妖艶な女村岡は宝塚の神代錦、小女たよりは扇雀の実妹中村玉緒、毒婦おえんは村田知英子といった顔ぶれ、その他のキャストは次の通り。稲垣小太郎(香川良介)、娘百合(長谷川裕見子)、笹野新三郎(沢村国太郎)、曇海(富田仲次郎)、町奉行依田和泉守(柳永二郎)。完成は今月末の予定。

 長谷川の平次に対し子分の八五郎は、これまでアチャコ、佐々木小二郎、益田キートンが扮していたが、四人目の渡辺篤は、ラジオ東京の人気番組「銭形平次」で八五郎を演じているものの、映画ではこんどがはじめてである。

 ラジオでは三年も八の役 渡辺篤は語る

そこで感想をきくと、「ラジオでは足掛け三年、八五郎をやってきたが声だけなので、この点一つに集中すればよいのだが、映画では姿がハッキリ出てしまう。何か老けた八五郎になって、長谷川さんがやりにくいのではないかと心配しています。もっともアチャコさんは私より年上ときいてホッとしているんですが・・・。がらっ八という男は、江戸ッ子の一面をあらわしているんでしょうね。純情で、オッチョコチョイで、親分思いで、フェミニスト。しかし彼は決して馬鹿じゃない。ときどきこったことをいって親分を驚かすことがよくあるんですからね。こんどの幽霊大名では、八五郎が屋根から屋根へ走り回ったり、木の枝から枝へとびうつったり、ターザンのような冒険もやることになっています。もっともむずかしいところは、カメラがごまかしてくれるでしょうがね」(スポーツ報知 09/08/54)

 

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山根貞夫のお楽しみゼミナール

 市川雷蔵はこの『銭形平次捕物控・幽霊大名』で、二役を演じる。しかも、いっぽうは悪人の役である。深読みするなら、もしかしたらこれも新人対策で、まったく対照的な二つの役柄を演じさせ、新人の芸の幅を広げるとともに、その新人の個性を見分けようとしたのかもしれない。

 それはさておき、市川雷蔵は二役をナイーブに演じ分けているが、善玉のほうも悪玉のほうも、暗く寂しげな表情がなんとも印象深い。やがて大スターになってからも、市川雷蔵の個性は陰影の深さにあり、それが、すでにこの映画出演第二作に色濃く発揮されているのである。

 『銭形平次捕物控・幽霊大名』のいちばんの見ものは、むろん長谷川一夫の平次の活躍であるが、それに加えて、市川雷蔵の魅力も無視できない。市川雷蔵はこの直前、『花の白虎隊』でデビューして、これが二本目の映画にあたる。

 『花の白虎隊』は、ほかに勝新太郎と花柳武始もデビューし、いわば新人売出しの映画であった。市川雷蔵はそれにつづいては長谷川一夫と共演したわけで、明らかにこれは、右も左もわからない新人を、年季のはいった大スターと共演させることによって鍛えようとの狙いにちがいない。

 映画の黄金時代には、こういうケースがよく見られた。他社の例をあげれば、のちに事故死した赤木圭一郎も、いまなお大活躍している渡哲也も、最初期には、すでに絶大な人気を誇っていた石原裕次郎との共演作で売り出され、日活アクションの隆盛を築いた。いうなれば、新人がトップ・スターの胸を借りて成長するのである。

 市川雷蔵は、つぎの作品『千姫』では“グランプリ女優”京マチ子と共演している。また、中村玉緒が前年に松竹でデビュー後、東映作品にも出て、この映画で再デビューしているのも、同じ事情であろう。

 

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ものがたり ◆

 捕物名人といわれる町方御用聞の銭形平次は、大名屋敷へ足を踏み入れるのは初めてであった。

 事のおこりはこうである。その頃、江戸の町を夜毎戦慄させる辻斬り、婦女子誘拐の元凶が、三万八千石の金森少輔頼錦の屋敷にひそんでいるらしい。その屋敷の回りに毎夜のように幽霊が現われる。領民達が頼錦の悪政に耐えかねて直訴を企てているという噂があり、これらを打ち消すために、将軍家に「武蔵野の茶入れ」という家法を献上して取り入ろうと金森家で企んでいる。などと取り沙汰されている折から、与力笹野新三郎の秘かな探索依頼があったからである。

 ところが、その帰路、早くも覆面の侍に襲われた平次、家に帰ってみると恋女房の姿はなかった。「事件から手を引き小判百両を用意するならばお静は返す」と記された脅迫状が残されていた。そして、次の日、新三郎はお役御免となってしまった。平次は、その背後に金森家の存在することを覚ったが相手は大名、しかも江戸市民の平和が関わっているとあって、一の子分八五郎と共に勇みたつのであった。

 翌る日、留守を預かる八五郎は、少女たよりからお静の居場所へ案内すると言われた。平次になりすました八五郎は、妻恋坂の或る家に招かれたのだが、御守殿崩れの村岡に見破られv、結局は酒で酔いつぶされてしまう。ところが、酔いが醒めてみると、酌をしてくれた篠路と名乗る女が絞殺されていた。

 一方、平次は、不意に投げ込まれたお静のかんざしに巻き付けられた結び文で彼女はお堀端の武家屋敷の隣にいることを知るが、折から屋外を徘徊する怪しい人影を追うと、「金森中垣小太郎娘百合」と書かれた守札を落として去っていった。

 さらに奇怪なことに、篠路の遺体が通夜の席から消えてしまった!

 怪しい虚無僧が監視しているとは露知らず、お静の手紙を頼りに武家屋敷を探す平次は、少女たよりの後を追うが、不意に、黒頭巾の女村岡に或る邸に招き入れられる。彼女は、お静の娘時代、水茶屋で一緒に働いていたお村だった。このお村自身も金森家の犠牲になった一人、平次とは昔馴染みなのを利用され、金森家の当主から現在行方不明中の「武蔵野の茶入れ」を探してもらえと命ぜられていたのだ。もちろん、平次が承知すればお静を返すという条件であるが、平次の正義心はこれを断らせる。お村の媚態から逃れた平次は、またたよりに案内されてお静の幽閉場所へ連れて行かれたところ、そこには八五郎も一緒だった。平次は、お静救出をたよりに頼み、八五郎と邸内に踏み込むと、昼もあざむく灯火を点した広間では半裸の女達が舞い金森頼錦が酒池肉林の宴を開いていた。

 命からがら邸内から脱出した二人を、今度は百合という娘が小さな屋敷に導き入れた。そこには、先刻の頼錦と瓜二つの男が、しかも病み呆けた姿で彼らを待っていた。彼の語るところによれば・・・金森家には万之助、千之助の双生児があり、万之助が家督を継いだが、眼を病んだため、学者の家に預けられていた千之助が当主となった。しかし千之助は曇海等の悪計に乗せられて、辻斬り、美女誘拐と放埓三昧の日々を送るようになった。そうこうするうちに、千之助には万之助が邪魔者となり、これを殺そうと企んだが、「武蔵野の茶入れ」のありかを万之助が知っていると睨んで、いまだに手を出せないでいるのだった。

 そして、金森家の行方と領民の動きに日夜心を痛める万之助は、夜毎千之助の住む屋敷の周囲をさまよい歩くようになったのだった。だが、彼とても『阿嬌の室』と書かれた書付を持つのみで、茶入れのありかを知るよしもなかった。

 万之助は苦しむ領民のためにも、江戸の治安のためにも、茶入れが千之助の手に渡らぬうちにこの四文字の謎を解いてほしいと懇願した。平次はこの双生児兄弟のお家騒動から事件の概略を握った。しかも百合とたよりは姉妹で、父の稲垣小太郎を助けて万之助のために働いていたのだった。

 謎の四文字をめぐって再び平次の活躍が始められた時、突然、万之助がどこかにつれさられたという知らせが百合によってもたらされた。平次は敢然、逆さ十手に投げ銭握って三万八千石の屋敷に乗り込んだが・・・。(公開当時のプレスシートより)

 

◆ 映画評

-「キネマ旬報」-滋野辰彦

 捕物映画は話の底が早く割れては面白くなりようがない。この映画も金森家の当主千之助が目を病んだので、瓜二つの双生児万之助を身替りにして御家を乗っとろうとする陰謀が分ると同時に、後は何ということもつまらない。

 悪僧曇海という人物も、平凡な鋳型にはまった人物であり、お家騒動がひどく安っぽいチャチな感じをあたえる。男装の娘や不思議な少女の出現も、甚だ意味ありげに見えながら、訳が分ってみると何だということにしかならない。

 新人弘津三男の第一回監督作品であるが、はじめの導入部は慎重な演出で乱れがない。キャメラの位置に変化がすくないため、ショットの転換に鋭さが足りない。そのため次第に展開が単調になり、後半で乱れてくる。新人らしい鋭さがないのは、日本映画の演出定石を守りすぎているためだろう。

 長谷川一夫の平次は相変らず艶があり、体のきまり方にも工夫があるけれど、アップでは少し肥りすぎが見えた。渡辺篤の八五郎は年をとりすぎ、映画では無理である。市川雷蔵は役の暗さを出していたのがよかった。神代錦には舞台的なきどりと堅さがあった。捕物映画は数多く作られるが、分りきった筋をごたつかせるだけで、スリラアの表現に欠けている。それをもう少し考えて作る必要がある。興行価値:長谷川一夫の銭形平次ものだが、あまり出来のいい作品とは云えないから、大した成績は期待できまい。

良心的演出の娯楽作品

 すっかり板についた長谷川一夫の銭形平次である。手なれた役だけに楽にこなせるところを、ちょっとした動きにも一工夫あるのは、さすが長谷川らしい勉強である。もちろん平次の活躍が中心だが、事件そのものもまた平次以外の登場人物にも相当“芝居”があるだけに映画としてはハバもあり面白味もます。

 双児の殿様(市川雷蔵の一人二役)をめぐるお家騒動の話だが、事件解決に苦労する平次への女房お静(井川邦子)と八五郎(渡辺篤)の“主人大事”の内助ぶりがキレイに描かれている。

 弘津三男監督昇進最初の作品だが、話の運びも迅く、娯楽時代劇のつくれる人として期待しよう。とかく“芸術づき”リクツが先に立ってラクに娯しめる作品の出来ない監督が多く、また娯楽映画といえば十年一日、“投げやり”としか思えぬ映画ハンランの時だけに、娯楽映画にまともに精進する若い監督の誕生は嬉しい。

 長谷川の好演のほかに、久しぶりに井川邦子が良い味を見せ、平次への愛情をまことによく出した“よき女房ぶり”であり、お色気も充分ふくんだ演技、渡辺のガラッ八も良い。特筆ものは市川雷蔵の映画進出、カブキから映画へ出ている他のどの役者よりもよい素質をもっている。容姿もよく貫禄もあり、スターらしい味もある。大成する人だ。 (読売新聞 昭和29/10/1より)

舞台か映画 か雷蔵の心境

 舞台当時からその風さいがもっとも“映画にむく”といわれ、各社から注目されていた市川雷蔵は、大映作品『花の白虎隊』で映画デビュー以来、『幽霊大名』『千姫』に出演、現在美空ひばりと『お夏清十郎』を撮影中である。次代の時代劇スターのNo.1とさえいわれる彼に今後の歩む道をたずねると、

「生意気なようだが、両方で勉強します。映画はまだわずかな本数ですが予想外の勉強になりました。第二作の幽霊大名で大先輩の長谷川(一夫)のオジさんからいろいろと教えていただいたことはすべて僕の気づかないようなことばかりで、舞台との違いは大変なものです。映画ではキャメラがすぐ前にあって、クマなく見通される感じですから、舞台では動きでみせられるところも、映画では内向的な演技でないとオーバーになってしまう。この点、映画の方が舞台より“腹芸”が一層必要のように思います。舞台と映画の両方から、僕は教えられ、学び、戦い、一人前の俳優になりたい一心です。」と語る。

 ・・・彼の希望は少なくとも年二ヶ月、映画は四本程度、舞台と映画で学びとったものを交流して両者を生かすことだという。 (読売新聞 昭和29/10/14より)

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◆野村胡堂

 明治15年10月15日岩手県紫波郡大巻村(現紫波町)に生まれる。明治35年盛岡中学卒業後、明治40年東京帝国大学法科に入学、明治43年卒業を目前にして父の死亡により退学。同年郷里旧彦部村出身、日本女子大学卒の橋本ハナと結婚。

 明治45年報知新聞社に入社、政治部に配属、記者生活に入る。大正3年政治面の政閑期の記事「かこいもの」に初めて胡堂のペンネームを用いる。

 大正13年「あらえびす」のペンネームを使って報知新聞のコラムに音楽漫談「ユモレスク」を連載。昭和6年に文芸春秋社「文芸春秋オール読物号」に“銭形平次”を創作掲載、以後27年間書き続ける。昭和24年補物作家クラブを結成し、初代会長に就任。昭和32年眼疾患悪化のため「オール読物」8月号の銭形平次「鉄砲の音」で創作活動を閉じる。昭和33年菊池寛賞受賞、昭和34年紫波町名誉町民に推挙、昭和35年紫綬褒章受章、昭和38年4月14日肺炎により死去。従四位勲三等瑞宝章を贈られる。(野村胡堂・あらえびす記念館公式HPより)

『銭形平次捕物控』(ぜにがたへいじとりものひかえ)

 野村胡堂による小説。銭形平次は半七、右門に次ぐ捕物帖の三番手、昭和6年から同32年まで「オール読物」連載され、総計三百八十三話。捕物帖の歴史の中で最長・最大のシリーズとして多くの読者に親しまれている。

 神田明神下に住む岡っ引の平次(通称:銭形平次)が、子分の八五郎(通称:ガラッ八)と共に卓越した推理力と寛永通宝による「投げ銭」を駆使し、事件を鮮やかに解決していく。平次は架空の人物であるが、設定から神田明神境内に銭形平次の碑が建立されており、銭形平次の顔出し看板も設置されている。

 なお、富士見書房時代小説文庫や光文社時代小説文庫などで手軽に読める。

 

 

 

 

 

 

◆長谷川一夫の銭形平次シリーズ

 野村胡堂の原作を長谷川一夫主演で、映画化したシリーズ。
1949年の『平次八百八町』を第1作に、1961年の『銭形平次捕物控・美人鮫』まで、全18本が作られた。長谷川一夫扮する銭形平次が、次々に起こる難事件を助手の八五郎を足がわりにし、天才的な頭脳で解き明かしてゆく。作品としては今ひとつだが、山本富士子、香川京子といった綺麗ところの共演は楽しめる。テレビでは大川橋蔵が長谷川一夫に比する当たり役にしたほか、大谷友右衛門、里見浩太朗(1963)などの版もある。

年 度

題  名

会 社

監 督

平次役

ガラッ八役

お静役

1949

銭形平次捕物控

平次八百八町

新東宝

佐伯 清

長谷川一夫

花菱アチャコ

花井蘭子

1951

銭形平次

大 映

森 一生

長谷川一夫

佐々木小ニ郎

長谷川裕見子

1951

銭形平次

恋文道中

大 映

冬島泰三

長谷川一夫

花菱アチャコ

1952

銭形平次捕物控

地獄の門

大 映

森 一生

長谷川一夫

花菱アチャコ

高杉早苗

1953

銭形平次捕物控

からくり屋敷

大 映

森 一生

長谷川一夫

花菱アチャコ

霧立のぼる

1953

銭形平次捕物控

金色の狼

大 映

森 一生

長谷川一夫

益田喜頓

山本富士子

1954

銭形平次捕物控

幽霊大名

大 映

弘津三男

長谷川一夫

渡辺 篤

井川邦子

1955

銭形平次捕物控

どくろ駕籠

大 映

田坂勝彦

長谷川一夫

榎本健一

南 悠子

1956

銭形平次捕物控

死美人風呂

大 映

加戸 敏

長谷川一夫

川田晴久

阿井美千子

1956

銭形平次捕物控

人肌蜘蛛

大 映

森 一生

長谷川一夫

堺 駿二

阿井美千子

1957

銭形平次捕物控

まだら蛇

大 映

加戸 敏

長谷川一夫

堺 駿二

1957

銭形平次捕物控

女狐屋敷

大 映

加戸 敏

長谷川一夫

堺 駿二

阿井美千子

1958

銭形平次捕物控

八人の花嫁

大 映

田坂勝彦

長谷川一夫

榎本健一

阿井美千子

1958

銭形平次捕物控

鬼火灯篭

大 映

加戸 敏

長谷川一夫

本郷秀雄

阿井美千子

1958

銭形平次捕物控

雪女の足跡

大 映

加戸 敏

長谷川一夫

船越英二

阿井美千子

1960

銭形平次捕物控

美人蜘蛛

大 映

三隅研次

長谷川一夫

三木のり平

 

1961

銭形平次捕物控

夜のえんま帖

大 映

渡辺邦男

長谷川一夫

ハナ肇

宇治みさ子

1961

銭形平次捕物控

美人鮫

大 映

三隅研次

長谷川一夫

船越英二


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