花頭巾

 

1956年7月25日(水)公開/1時間24分大映京都/白黒スタンダード

併映:「ねんねこ社員」(斎村和彦/北原義郎・八潮悠子)

製作 武田一義
企画 高椋
監督 田坂勝彦
原作 村上元三
脚本 衣笠貞之助
撮影 武田千吉郎
美術 太田誠一
照明 大角正夫
録音 古谷賢次
音楽 渡辺浦人
スチール 浅田延之助
出演 山本富士子(由美)、勝新太郎(久米寺舜馬)、林成年(朱童子)、阿井美千子(奈美)、杉山昌三九(中迫丹下)、夏目俊二(鳥貝志馬)、鳥居香月子(千鶴)、石黒達也(御嶽の間那志)、黒川弥太郎(赤平乗昌)、羅門光三郎(竜ヶ瀬逸当)、荒木忍(津築権兵衛)、香川良介(巻山源庵)、東良之助(大隅屋与兵衛)、葛木香一(中城の按司金丸)、小林加奈枝(蛇女)、原聖四郎(土井大炊頭利勝)
惹句 『「岩窟王」の女性版』『あやしの笛の音と共に今宵も現われる謎の美女、七人の仇敵を狙って神変無双

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〔解 説〕

 滅亡した故国のために復讐を誓い、琉球から江戸へ七人の仇敵を次々と殺していく琉球王女・由美の物語。

 『火花』の衣笠貞之助が脚本を書き、『喧嘩鴛鴦』の田坂勝彦が監督、『月夜の阿呆鳥』の武田千吉郎が撮影を担当した。主な出演者は、『火花』の山本富士子、『花の兄弟』の市川雷蔵、林成年、『祇園の姉妹』の勝新太郎、『無法者の島』の黒川弥太郎『月夜の阿呆鳥』の阿井美千子のほか、新スター鳥居香月子がデビューする。

(西スポ03/09/56)

 西日本新聞夕刊連載、村上元三原作「花頭巾」は読者の好評をはくし、早くから映画化が期待されていたが、こんど大映京都撮影所で製作することになった。現在キャスト編成を急いでおり、この十五日からクランク・インすることになった。

 企画は高椋夫、製作は武田一義、脚本は衣笠貞之助、監督は『花の渡り鳥』『又四郎行状記』、最近作では『喧嘩鴛鴦』でますます快調の田坂勝彦がメガホンをとることに決定、すでに東京で執筆していた衣笠貞之助の脚本も完成したので、ちかく本読みを行う。

 期待のキャストは、女主人、由美には原作者は国際女優京マチ子を予定していたが、MGM映画『八月十五夜の茶屋』の撮影渡米のため実現せず、京にかわる大物女優を物色、『夜の河』をとり終えた山本富士子主演がうわさにのぼっている。

 その他のキャストは、市川雷蔵、勝新太郎などの同社の誇る新鋭が総出演する豪華作で七月中旬封切となる。

 田坂勝彦監督談 村上先生のもは初めてだが、脚本を読んであまりにも面白いので、大いに張り切っている。私としてははじめての大作となろう。程度の高い娯楽作に仕上げるつもりだ。(西スポ06/09/56)

(オールスポーツ07/10/56)

恋と復讐の激情渦巻く 花頭巾 セットのぞ記

花のスタア競演

 大映京都撮影所が、初夏に放つオールスタア時代劇『花頭巾』には、最近現代劇に、時代劇に素晴らしい進境をみせて、大映第一線スタアの貫禄を備えて来た、山本富士子が、吉村公三郎監督の『夜の河』の主演に引続き京都に止まって、大映の青春スタア市川雷蔵、勝新太郎、林成年を相手に『義仲をめぐる三人の女』以来の時代劇に主演しています。 

 原作は中部日本、西日本、北海道新聞に連載中の村上元三原作になる大衆小説の映画化で、脚色には特に衣笠貞之助監督が、シナリオ構成の任に当った大映の大衆娯楽篇であります。

 背景は今話題を多く持つ琉球の悲運な王女をヒロインに、正義の浪人と琉球王族の若君との対立、王女一族の復讐を描く波乱万丈の物語です。監督は『花の白虎隊』以来、市川雷蔵、勝新太郎等を育てて来た田坂勝彦監督が担当しています。キャストは、前記四スタアの他新鋭の夏目俊二に黒川弥太郎、杉山昌三九、羅門光三郎等のヴェテランが登場し、新スタアとしては、宝塚歌劇より大映に入社した鳥居香月子が初出演しています。

 『花頭巾』の一篇は、ハツラルたる青春スタアの競演に依って、活気ある痛快な時代劇映画として、みなさんを喜こばせる作品に完成されることと思います。

双刃の琉球剣

田坂監督が琉球剣を投げる

 大映京都撮影所を訪れた記者は。この『花頭巾』のセット撮影をのぞいて、セット撮影の裏表を読者にお知らせすることにしましょう。その日の田坂組は、第四スタジオでのセット撮影でした。

 シーンは、王女一族を裏切った仇敵の一人たる大隅屋与兵衛の寮裏木戸近くの場面で、竹垣をめぐる裏木戸の前方は、杉木立でその後方には、神社の石段が出来ています。杉木立は杉の木を針がねで天井から釣ってあるのですが、巧妙な大道具師の魔術に依って、カメラの入る角度からみると、うつそうたる杉木立にかこまれた江戸の山手の淋しい場面の雰囲気をよく出しています。

 撮影はシナリオの二四シーンで、林成年の扮する王女の従者朱童子が、これも仇敵の一人たる島津家の浪人中迫丹下一味の浪人に襲われ王女をかばって奮戦する場面です。朱童子は短剣投げの名手で、襲いかかる抜刀の浪人たちを。短剣投げの奇襲を以って防ぎ、王女の身をかばうのです。この場面は朱童子と浪人たちとの数カットの剣戟シーンで、撮影は進行してゆきます。

 山本富士子の扮する王女由美も、既に扮装も出来て出番を待っていますが、由美は花模様の美しい頭巾をかぶっての出演なので、冷房装置のしてあるこのステージ内でも、暑苦しいとみえて、山本富士子さんは、時々頭巾をはずして涼を入れています。浪人たちに追いつめられた朱童子は、王女をかばいながら石段の方へ身を避けます。山本富士子さんもここで出番となって、朱童子と一緒となって敵に向う剣戟シーンが撮影されます。浪人たちはジリジリと両人を石段へと追いつめます。朱童子は必死になって、襲ってくる敵に、残り少ない短剣を投げての防戦です。この場面がすむと、朱童子の投げた短剣が、浪人の顔面をかすめて、杉の大木に突きささるカットが撮影されます。

 田坂監督は、林成年さんに代って、短剣を杉の大木に投げる役を引き受けての撮影です。テストの時はうまくゆくのに、本番になると、どうもうまく短剣が木に突きささらない。数度のNGを出して、漸くささったと思ったら、見学者の一人が思わず“うまい”と叫んだので、これもNGという始末でした。それもどうやらすんで、次は林成年さんの短剣投げを、正面から撮影するシーンです。カメラの横に剣を受ける盾があって、これを目標に投げることになっているのですが、テストで成年さんの目標が狂って、カメラの防音装置のカバーに、短剣が突きささり、ピントをみていたカメラマンは数センチの差で、危く難をのがれたという一瞬ハッとさせた事件がありましたが、事故に至らなかったことはなによりでした。これから又朱童子と浪人の剣戟が数回くり返されて、五時の定時となって、夕食の休憩となりました。

快青年の浪人

 六時すぎから再び第四ステージのセット撮影は開始されました。今度はいよいよ正義の浪人矢波弦太郎に扮する市川雷蔵が、初めて登場するシーンです。由美と朱童子が、浪人たちに石段なかばまで、追いつめられ絶体絶命の時、突如!石段の上から現われた浪人態の美男の武士が、由美の助太刀を買って、浪人たちに挑戦する場面が展開するのです。

 この撮影では、最初カメラは石段の上に据えられ、雷蔵さんの矢波弦太郎のうしろ姿からとらえてゆきます。丹下一味が多勢で、由美主従をかこむ態をみかねて、弦太郎は思わず「卑怯だぞ」と叫んだ。突如思わぬ援兵にあってあわてた中迫丹下(杉山昌三九扮す)は、「何奴だ」と迫った。ここでカメラは、再び石段下に据えられて、正と邪の対決のクライマックス・シーンに移るのです。「訳は知らぬが、か弱い女に助勢するぞ!」という弦太郎の言葉の終るのを待たず「いらざる腕立、来るか」と中迫丹下の剣は迫って来る、弦太郎は由美主従を逃がして、丹下一味の群に斬り込んでゆく、ここでアングルを変えた数カットの烈しい剣戟シーンが撮影され、九時すぎ撮影終了になりました。

青年剣士の対立

セットに建てられた石段で林成年と市川雷蔵

 翌日は第六ステージに於て、シナリオ四十六シーン、名医巻山源庵宅の離れのシーンが、撮影されました。今日は琉球王族の王子たる久米寺舜馬に扮する勝新太郎が出演して、市川雷蔵の矢波弦太郎と対決する場面で、先の『柳生連也斎・秘伝月影抄』に於ける役と同様、宿命的対立する役で、火華を散らします。市川雷蔵の弦太郎は、いわゆるムシリと称する浪人のかつらに対して、勝新太郎の舜馬は、天正まげの前髪で、一寸佐々木小次郎を想わす扮装です。山本富士子の王女由美は、題名となっている、花頭巾を常にかぶって活躍しますが、頭は琉球まげの中心に護身用の金具を備えています。

 

撮影の合間に蛇皮線のお稽古

 かくて源庵邸離れのセット撮影も、定時五時に終了となって、休憩後、山本富士子さんは劇中に使う蛇皮線を大映邦舞部の人から指導を受け、琉球舞は沖縄出身のロシアバレー教師島晴美さんから基本の型から指導を受ける熱心さでした。気高く美しい受難の王女の役を、山本富士子さんが、如何に表現するかをひとしく期待しましょう。

 なお、この『花頭巾』は七月五週に封切られますが、九月中旬に封切る予定で『続・花頭巾』が製作され、波乱に富んだ物語に結末をつけることになっています。(映画ファン56年9月号より)

〔略 筋〕

 

 

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 按司金丸支配の下、平和に栄えていた琉球王国は野望に燃える島津公の家臣竜ケ瀬逸当、津築権兵衛らの大軍に襲われた。金丸の恩顧を受けた御用達貿易商大隅屋与兵衛や、同じ琉球人である間那志の内通で、王家金丸一族は浦添の丘で皆殺しとなり、僅かに次女由美が忠実な従者朱童子に守られ辛くも逃れた。

 三年後、堺の唐物商赤平乗昌の許で成人した由美は、乗昌や少林寺拳法に通ずる竜潭党の助力で一族の復仇を決意し、手始めに与兵衛の邸を襲う。与兵衛は恐怖の余り自ら生命を絶つが、由美は島津浪人中迫丹下に左腕を切られ危い処を、通り掛った町道場師範代の矢波弦太郎に救われた。弦太郎は由美を医師源庵の許に伴い傷の手当てをする内、彼女の身分と復仇の決意を知る。

 一方、与兵衛の法要に集まった竜ケ瀬一味は、逸当の愛妾美金や回船問屋団屋弥市を含めて、由美への対策を協議、傍ら略奪品の分配をも計る。そこに現れた久米寺舜馬こと琉球族の舜王子は琉球王の簪を所望し姿を消した。間那志は老婆蛇女と計り、毒蛇を使って由美を倒そうとしたが朱童子らの妨害で蛇女諸共、自らが毒牙に倒れた。舜馬は横恋慕する由美への助力を拒絶され、恋仇の弦太郎と刃まで交える。由美が弦太郎に心を惹かれるようになった矢先、島津藩邸で琉球舞踊が将軍秀忠の上覧に入れられた。席上、由美は仇敵津築の眼前で王族最後の様を踊って見せるが、老中土井大炊頭に処払いを申し渡される。

 弥市は竜潭党に拐かされ、由美の前で、津築の命令によって間那志を説いて内通させた口述書に署名の後、発狂してしまう。由美は口述書を持参の上朝廷に直訴を決意。これを知った丹下は配下の浪人組と阻止に立ち向う。一味の急追を知った旗本鳥貝志馬は、京に向う船上の親友弦太郎に急報。三保の浜で丹下一味を迎えた弦太郎、竜潭党の拳士らが相戦う内、別の浜に下りた由美の一行は待ち構えた舜馬一派に取り囲まれた。(キネマ旬報より)

 

 

 

   


 島津藩が琉球を攻めて王族を虐殺した。三年後、そのときの指揮者や、裏切者たちに対して王の遺子の姫(山本富士子)が復讐を企てる。

 頭巾で顔をかくした彼女は、カタキをひとりずつ倒してゆく。しかし直接には手を下さず、カタキのほうが、あやまって自分の短刀で胸を刺したり、毒蛇にかまれたり、気が狂ったりして滅亡してしまうのだから、復讐劇らしい痛快味はうすい。

 姫をめぐって二人の青年が出てくる。一人は気のいい浪人者(市川雷蔵)もう一人は琉球の王族の血をひく若侍(勝新太郎)で、二人ともめっぽう強い。強いのだから、そういうところを大いに展開してくれればよいのに、映画はむしろ二人の恋のサヤアテといったものをモタモタ追ってゆく。しばらく見ていると、この二人が、まるで"柳生連也斎と鈴木綱四郎"みたいな人間に仕立てられているのに気づく。いくら監督と俳優が同じだからといって、これではあまりに能がなさすぎる。

 ついに姫は帝に訴えるため京に向かう。これを追う悪人共を相手に、雷蔵が戦っている間に、恋のためには一切を犠牲にするというハードボイルド型の勝が、海辺で姫をおそう。そこで前編の終り。

 三人のほか、黒川弥太郎、林成年、夏目俊二、阿井美千子、杉や昌三九ら━長谷川と大河内をのぞく大映京都のスターがズラリと出演する。一種の顔ミセ。田坂勝彦演出は歯切れがわるくさえない。(哲)(スポーツ報知07/26/56)

 

                                    花頭巾                                  滝沢一

 最初に一言。この作品はまだ物語の進行状態からみて、せいぜい全篇の三分の一ぐらいというところでポツンと切れて「終」の字幕が出る。しかも第一部とも全篇とも広告でもタイトルにも全く謳っていない。怪しからんインチキさである。最初から続篇を撮る気があったかどうか。ともかくこの作品を出してみて、当たれば続篇をというハラヅモリであったとすれば、永田雅一社長とする大映株式会社によろしく抗議すべきである。さしずめ井沢淳にはサギ罪を真似させる危険、上映するなら先ず観客に謝罪せよとでも警告してもらう必要はあろう。

 ところで映画の中味は、なかなかに波瀾万丈を極める復讐物語で、『雪之丞変化』のバリエーションみたいではあるが、異装をした琉球王女に美男の剣客がからみ、更に佐々木小次郎ばりの琉球王族の血をひく剣士がからみ、琉球舞曲が劇中劇的に点綴されるなど、五目ヤキメシ的華やかさで、娯楽要素は十二分にあるものだ。ただそのストーリーの脈絡や人物関係がよくのみこめない部分があるのは衣笠貞之助の脚色らしからぬ。これは田坂勝彦の演出にも一半の責任があり、最初に本筋とはさのみ関連のない刺客の待伏せなんかを仰々しく描くことを止め、早く本筋の展開に意をそそぐべきだった。そうした演出の力の配分に誤算があったようだ。

 なお重ねて蛇足を加えるなら、この原作が全国の地方有力紙に連載された関係で、その地方の封切プリントには、それぞれの掲載新聞の社旗がクレジット・タイトルの前にへんぽんとひるがえる仕組になっている。それ程のサービス精神がありながら、第一部とも全篇ともどこにも断ってないのだからいよいよ観客を馬鹿にしているというものだ。

興行価値:沖縄を舞台にした王女の復讐綺談。素材的魅力もあり、配役も山本を中心にこの社時代劇陣として一級どころを揃えているので一応商売になる。但し“前篇”の名をかくしたのは不親切。(「キネマ旬報」より)

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中部日本、西日本、北海道新聞連載の村上源三の原作から。

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