1958年7月13日(日)公開/1時間27分大映京都/白黒シネマスコープ

併映:「赤線の灯は消えず」(田中重雄/京マチ子・野添ひとみ)

監督 安田公義
脚本 小国英雄
撮影 竹村康和
美術 内藤昭
照明 伊藤貞一
録音 海原幸夫
音楽 飯田三郎
助監督 小木谷好彦
スチール 浅田延之助
出演 嵯峨三智子(お光)、林成年(新助)、浦路洋子(おくみ)、中村玉緒(お雪)、春風すみれ(君葉)、浜世津子(お糸)、大和七海路(豊春)、島田竜三(清次郎)、和泉千太郎(佐吉)、堺駿二(鶴吉)、山茶花究(竜山堂)、清川玉枝(おかつ)、益田キートン(儀兵衛)、楠トシエ(おそで)、小堀明男(源治)、寺島貢(半覚斎)、宮坊太郎(亀)、橘公子(おはま)
惹句 『怪しさと笑いを振りまく泊り客十三人しかも最後まで犯人がわからない探偵時代劇』『朱房十手の雷蔵がたっぷり笑わせゾクッとさせる型破りの捕物時代劇』『登場人物がすべて犯人に見える温泉宿に起ったスリルと笑いとお色気の推理時代劇

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◆ 解 説 ◆

 花屋という南伊豆の温泉宿奇怪な犯罪事件が相次いで起って行く、果たして犯人が誰なのか。誰も彼もみんな疑えば疑わしいふしがあります。たまたまこの宿に、神田お玉ケ池の目明し嘉兵衛の愛娘お光と婿養子の文吉が、ノンビリと保養がてら新婚旅行にやってきます。しかし女ながらも遠心流の投縄の名人といわれる気丈なお光も、美男の亭主に惚れ込んでいる弱身で、彼に近づく女性の一人一人に妬いたり怒ったり、気の休まるひまもない。

 その上、降って湧いた怪事件に、根っから動こうとしない文吉に代わって犯人捜査に乗り出したが、お光にも危難が降りかかります。しかしさすがは親ゆずりの見事な推理で、ついにホシを上げて事件は落着−と見えたのは束の間で、またまたとんでもない事件が起こります。そのころから、亭主関白の文吉がモソモソと動き始めます。

 というように、この映画は、時と場所を、伊豆の温泉宿に起った数日間の出来事と限定し、その中にさまざまな個性ある登場人物が入れ変り立ち代り現れて、それがついに一つの事件に捲き込まれて行くという複雑な構成を持っており、それが軽妙なタッチと軽快なテンポのうちに興味深く展開して行き、しかも最後にドンデン返しが用意されているのものです。

 キャストも近来にない豪華多彩なもので、市川雷蔵、嵯峨三智子のオシドリコンビを中心に、林成年、浦路洋子、中村玉緒、大和七海路(新人)、島田竜三(新人)、和泉千太郎、春風すみれ、浜世津子、堺俊二、山茶花究、清川玉枝、益田キートン、楠トシエ、小堀明男といった顔ぶれです。監督は定評のある安田公義で、キャメラは同監督とイキの合った竹村康和が担当しています。(大映25号より)

◆ 物 語 ◆

 南伊豆の温泉宿・花屋で奇妙な事件が続発した。ここの若主人清次郎は女房おくみと結婚したばかりだが、そのおくみが足に針で怪我したり、材木の下敷になったりしたのだ。犯人は誰か?

 泊り客には、次の者たちがいた。手伝いにきた大工の佐助は、おくみと昔好き合った仲だ。三島の芸者君勇は、清次郎と昔関係があった。旅絵師半覚斎は、終始黙々と筆を走らせている。江戸の骨董商竜山堂は、女の手相を見るのが得意。深川木場の若旦那新助は、無類の女好きで、宿の女中お雪にゾッコン。お目村役の番頭儀兵衛の題目太鼓もききめがない。お雪は矢場の女おそでと仲が良い。おそでには、毎年くる小間物屋山城屋が入れ揚げている。三島の小唄師匠豊春は、清次郎夫婦の仲の良さを妙に妬いている。彼女の兄と称する遊び人風の男・源治も何か一癖あり気だ。

 神田の目明し嘉兵衛の愛娘お光が、婿の文吉と保養に来ていた。いつかな動こうとしない文吉の代りに、お光は事件の探査に乗りだした。ちょうど大泥棒木鼠の吉兵衛を探しに乗りこんできた迷目明し二人組・鶴吉亀助を手下にして・・・。そんな時、佐吉が姿を消した。その前に彼はおくみつきの女中おはまに会っていた。

 お光は一同を集めて言い渡した。犯人は佐吉。おはまは、彼をおくみから手を引かせようと金を渡して立ち去らせたという。が、その時、源治の死体が発見され、おはまは佐吉との話をきかれて脅され自分が殺したと泣いた。これで、この奇妙な殺人事件落着したのか? 

 今度は文吉が乗り出した。おくみを囮に、犯人に矢を射させたりした探査の末、文吉は再び一同を集めた。おくみの足袋に針を入れて足に怪我をさせたり、矢を射させたりした犯人はお雪だった。彼女は姉が清次郎に捨てられ自殺したのを怨んで、犯行を重ねたのだ。矢は江戸で矢場にいるとき習った。それで、おそでを知っていたのだ。そのお雪をそそのかしたのは、清次郎の義母おかつとその子木鼠の吉兵衛だった。吉兵衛の妹お糸だけがそれを止めようとした。その上、企みを知って脅した源治を吉兵衛が殺したのだ。吉兵衛とは--竜山堂のことだった。

 事件は片づき、お雪は清次郎と結ばれるだろう。お光は文吉にますます惚れなおした。

 

 大映京都で製作中の大映スコープ作品『女狐風呂』で、江戸の目明しに扮する市川雷蔵さんと、旅籠の女中に扮する中村玉緒さんのお二人は、オフ・スクリーンでも気の合ったお友達同士。セットの合間に外へ出て一休み中のところ。(映画ファン58年8月号より)

 

 

 

 大映京都でクランクを開始した安田公義監督の『女狐風呂』(脚本小国英雄)は、伊豆の温泉宿に相次いで起る犯罪事件をめぐって、この宿に泊り合わせた数多の人物を群像的に描き、最後のドンデン返しで意外な人物が犯人だと分る推理時代劇。これに探偵役をつとめるのが、同じく宿へ保養に来ていた江戸の若い目明し夫婦市川雷蔵と嵯峨三智子の、自他ともに許す"名コンビ"。

 この二人の役は全く地で行ける役柄、嵯峨は神田お玉ケ池の名目明し嘉兵衛の一人娘、女ながらも投げ縄の名人で、男まさりの捕物小町。雷蔵の目明し文吉と相思相愛の結果、養子に貰って新婚ホヤホヤで伊豆へ蜜月旅行とシャレ込んだところなのだが、文吉にベタ惚れで、全然亭主に頭が上らない。文吉はまたお光が可愛いくならぬのに、弱身を見せまいと虚勢を張って、やたらに亭主関白の横暴ぶりを発揮する。

 この日セット撮影されたのは、二人が初めて映画に紹介される桐の間のシーン。雷蔵の文吉は座敷に寝転んだまま、湯上りのお光が盛んに文吉へ話しかける。文吉はただ「うん」「うん」の返事ばかり。お光にしゃべるだけしゃべらせて、しまいに文吉が「うるさいッ」とばかり起き直って、バンバンとタンカを叩きつける。お光がすっかりしょげ、それでもせい一杯甘えながらあやまると、文吉は笑いをこらえながら一生懸命むずかしい顔をする。「全く見ちゃおれない」甘いシーン。

 スタッフもすっかりアテられ気味だが、ワン・カット撮るたびに、何かと雷蔵と嵯峨の掛合漫才そこのけの当意即妙のやりとりがあり、結構楽しそうな撮影風景だった。(日スポ・東京 05/31/58)

 

 時代劇といえばどんな映画でもきまって立回りがあるものだが、これはまた編中どこにも、そうした殺陣のない時代劇、そして立回り以上に観客をたのします要素にみちている時代劇がいま、大映京都で撮影されている。

 大映スコープ作品『女狐風呂』(監督安田公義・脚本小国英雄)がそれで、剣に代る要素として推理時代劇らしいスリルとサスペンスと、さらにシャレたユーモアがみなぎっているのだが、それだけにセットのふんいきも本編に劣らぬ愉快な風景を呈している。

 この映画で、亭主も女房も目明しという若夫婦役で登場する市川雷蔵と、嵯峨三智子は人も知るケンカコンビだが、仲がよすぎて、いつもケンカするという、こんどの二人の役柄にはピッタリ。

 この間もセットで雷蔵の目明し文吉が、犯人をおびき寄せるため、絶えず何者かにねらわれている宿屋の若女房おくみ(浦路洋子)を自分の部屋へ呼び寄せたところ、それを知らぬ嵯峨のお光がヤキモチを焼いてワーッ≠ニ派手に泣きわめき、文吉は手におえなくなってお光のホオをなぐり飛ばすシーンがあった。この撮影前に嵯峨が雷蔵に「耳だけはなぐらないでね」と、いつになくシンミリと頼 んでいたが、雷蔵わざと張り切った様子で、右手をヒザでしきりにさすって、「嵯峨ちゃんの顔に触れるのだから、手をキレイにしておかなきゃね」と、ニヤニヤしていたが、数回のテスト後で、いよいよ本番となったとき、あまり演技に身が入りすぎたのかパチン≠ニ見事な音がして、スタッフ一同期せずしてやったと℃vった。長いカットなので、そのまま撮影が続行され、安田監督もあとで感心したほど、真に迫った嵯峨の名演技が展開された。

 さてこのカットがOKになるや否や、スタッフの中からドッと笑いがまき起ったが、それと同時に嵯峨、柳びを逆立てて、ちくしょう≠ニばかり雷蔵に武者振りついていったので、たちまち攻守ところを変えて雷蔵、セットを逃げまわりながら「怒るなら小国英雄(シナリオ)さんを怒れ!」(デイリースポーツ・大阪 06/02/58より)

『女狐風呂』の鴛鴦コンビ

(よ志哉6号より)

 たいへんおもしろく観ました。『人肌孔雀』がスターの魅力が売り物ならば、これはチームワークのよさで光る作品です。登場人物のほとんどが怪しく思われて、淡々とした筋のはこびなのに事件に引き込まれました。人の出入りがひんぱんで、目明し二人もちょっとくどいようでしたが、担ぎ呉服屋の登場から最後に去っていくまでの事件を、ラストのどんでん返しでしめくくる、小品ながらピリッとしたいい映画でした。こんどの雷蔵さんは漫才コンビのように、嵯峨さんと一体になって、一人で活躍していても、影がよりそっているような天晴れな夫婦ぶりでした。

 目明しの結婚、所は温泉宿、という設定が効果的で、男女ともに天真爛漫のびのびしているのが不自然ではありません。特に印象に残ったのは、頬かむりで人影をつけていき、お光が縄をかけられそうになったとき、物陰から忽然としのび出たときの姿。短いカットでしたが美しい形でした。もう一つ、二人が喧嘩するときの表情の豊かなこと。お光もかわいくて魅力的でしたが、せりふごとに変わる表情が無心で甘く、キラキラした瞳で、呼吸はぴったり。きらびやかな喧嘩ぶりでした。

 芸者のせりふに“ぽっとした好い男”とあったように、おっとりした目明し。しかし、大広間の詮議ではチームワークもがっちりと、座ったままわずかな動きとせりふだけで、一座をひっぱっていく頼もしさです。それに、お光の危機に気づいた瞬間のキッとしたまなざし。お雪に話しかけるやさしい眼。それでいて、ぽッとした好人物を演じる軟硬自在は大きい魅力です。そこで、いつも気づくことですが、ときどきナマリが出ます。こんども“弓を教わる”という弓のアクセント、また、広間でお雪に話しかける場面なぞ、発音がちょっとおかしいようでした。似合いの鴛鴦コンビに心から声援を贈ります。(よ志哉7号より)

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