千羽鶴秘帖

1959年5月20日(水)公開/1時間27分大映京都/白黒シネマスコープ

併映:「氾濫」(増村保造/若尾文子・叶順子)

製作 三浦信夫
企画 辻久一
監督 三隅研次
脚本 八尋不二
撮影 武田千吉郎
美術 太田誠一
照明 島崎一二
録音 大谷巌
音楽 鈴木清一
助監督 西沢宣匠
スチール 藤岡輝夫
出演 鶴見丈二(栗栖圭之助)、左幸子(天人のお滝)、中村玉緒(みつ江)、弓恵子(妹お町)、阿井美千子(お蓮)、河津清三郎(大沼下総守)、石黒達也(貝塚隼人)、荒木忍(松造)、伊沢一郎(徳川家斉)、寺島貢(猿屋喜平)、白木ミノル(小人の小吉)、寺島雄作(湯島の源七)、香川良介(脇坂掃部頭)
惹句 『空に、屋根に、大川に、盗っ人かぶりの遊び人、いきでいなせで、神出鬼没』『大凧にまたがって空を飛ぶ闇がらす地上の捕物陣を尻目に、挑むは黄金の天守閣』『何を狙うか?名も折鶴の半次郎が、正義の剣を血に染める、痛快颯爽の大殺陣』『凧にのって金の鯱を狙う折鶴の半次郎解くか謎斬るか復讐

[ 作品解説 ]

 市川雷蔵と鶴見丈二の初コンビによる作品で、左幸子が初めて本格的時代劇出演で期待される。演出は三隅研次。話は、金山発見にからんで公金横領を企てる大沼下総守らのために、落命した父の仇を狙う来栖圭之助、それを援ける婚約者のみつ江、更にこれを助けて神出鬼没の働きをする謎の男、千羽鶴の半次郎、謎の鍵を秘めた羅針盤をめぐって話は展開し、天人お滝もからみ、遂に老中の前で大沼の悪行をあばくという話。

 本格的な時代劇出演は初めてと云う左幸子は「時代劇は不勉強であまりみたこがなかったのですが、出演がきまって早速たてつづけにみました。単純な中にも、さまざまな教えられるべき要素を沢山含んでいるのには一寸意外な気もし、それだけに意欲も湧いて来ました。三隅先生は私の素地のままで、どんどんやって下さいといわれるのですが、そうすると艶っぽさが吹っ飛んじゃって、西部劇か何かに出て来る大姉御になっちゃうじゃないかしら」と語っているが、三隅監督は「演技力が確かなうえに、勝気なところなどは今度の役にピタリで、きっと面白い作品が出来るだろう」と期待している。中村玉緒、弓恵子、阿井美千子、河津清三郎、石黒達也などが共演している。(「時代映画」昭和34年5月号より)

☆権勢欲、金銭欲のためには手段をえらばない邪悪な一味に対する正義の制裁と復讐の物語で、父の仇を求める美剣士に鶴見丈ニ、これを助けて神出鬼没の働きをする謎の男、千羽鶴の半次郎に市川雷蔵が扮し、雷蔵・鶴見の初コンビに依る娯楽大作です。

☆雷蔵・鶴見の他、左幸子、中村玉緒、弓恵子、阿井美千子、河津清三郎、石黒達也と異色豪華なキャストが組まれています。

☆左幸子は本年初頭、大映と専属契約以来、『氾濫』に続く第二作目で、本格的な時代劇出演は初めてです。強烈な個性美と、確実な演技力が、時代劇に清新の気風を吹き込むものと大いに期待されます。

☆又、テレビの「ベビーギャング」や「あっぱれ蝶助無茶修行」で爆発的人気を持つ白木ミノルが小人の小吉に扮して映画初出演しています。

☆演出にあたる三隅監督は、さきの『かげろう笠』で重厚な時代劇にコミックな味を盛り好調を続け、今回のクランク開始を前に、日本文化展を観覧したり、大阪造幣局に金の鯱ホコを見学するなど。慎重を期しています。(大映プレスシートNo.843より)

 

×・・・市川雷蔵、鶴見丈二主演の大映『千羽鶴秘帖』は、三隅研次監督のメガホンで好調のクランクを続けている。雷蔵、鶴見ともに掛け持ち出演とあって、思うように顔が合わなかったが、このほど行われた京都近郊の黒谷ロケで久々に顔を合わせた。

×・・・千羽鶴の半次郎(雷蔵)は、みつ江(中村玉緒)に迫った危急を知らせるため来栖圭之助(鶴見)を墓地に誘ったが、半次郎に疑惑をいだく彼は「敵か味方か?」とつめよるのがこの日のシーン。

×・・・雷蔵が、自身の考案になる"千羽鶴スタイル"の粋な遊び人なのに対して、鶴見は総髪に、ハカマのもも立ちをきりりととった浪人姿で、雷蔵を向こうに回して新人らしい体当たり演技をみせる。

×・・・「雷蔵さんとの共演はシンが疲れます。負けないようについていこうと思っても、気がはやるばかりで体も声もあとに残ってしまうんです。結局、ぼくにできることは変に気どらず、全身でぶつかってゆくことだけです」と語る鶴見は、テストのたびごとに石段をかけ上ってフウフウいいながらも全身にファイトをみなぎらせていた。(フクスポ 05/11/59)

 

デイリースポーツ大阪版 05/19/59

スタヂオマイク

◆「千羽鶴スタイル」登場◆

 主演の雷蔵は何とかこの作品の内容を端的に表現し得るものはないかと頭を悩ましていたが、独自のスタイルを考案、みずから“千羽鶴スタイル”と名づけてさっそく本篇に登場することになった。

 着物の左右半分を紺と白とに鮮やかに染め分けて、金糸銀糸の折鶴をあしらったあたり、これまでの時代劇、とりわけ男の着物にはみられなかった絶妙の着想である。着物の下にはいた黒鼠色の股引きにも銀糸の折鶴を散らしその他、腰に差した黒ザヤの小刃から頬かぶりに用いる濃紺の手ぬぐいにいたるまで、すべてを折り鶴模様でかざって、まさに“千羽鶴スタイル”の名の通り、折鶴オンパレードである。

 「折鶴模様を使うことは、最初から頭にあったのですが、衣裳そのものをどのように染め分けるかには苦心しました。何しろ“鶴”といえば元来、お芽出たい時によく使われる鳥で清楚な上に、欠くことの出来ない気品をそなえていなければならず、結局ご覧の通りの深いブルーと白の染め分けを用いてみました。僕の独自の考えで、果してご満足を願えるかどうか疑問ですが」と語る雷蔵も、見守る三隅監督も、至極満足の様子だった。(大映プレスシートNo.843より)

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[ 梗概 ]

 金山の公金横領を計る大沼下総守一味に父を殺された来栖圭之助は、父が死に際一味の罪状を秘かに記した羅針儀を手に入れようと、許婚のみつ江を大沼邸に潜入させた。大沼方の剣客貝塚隼人の情婦天人お滝によって、みつ江の工作は阻まれたが、羅針儀は謎の男、千羽鶴の半次郎が現れてさらっていった。

 ある夜、お滝が圭之助に捕えられ、羅針儀の行方を追求された。その時、再び半次郎が現れてお滝を逃し、大沼のやり方も悪いが、目的のために手段を選ばぬ圭之助の行為もよくないと忠告を与えて去った。

 お礼のため、半次郎の長屋にお滝がやってきた時、圭之助の一党が乗りこんできた。しかし羅針儀は手に入れたが、半次郎の姿は既になかった。しかもその羅針儀は、お滝の計略によって、貝塚の剣でみじんに砕かれてしまった。

 半次郎は単身大沼邸に乗りこんだ。大沼は彼を味方につけようとした。だが、天守閣の金の鯱ホコの一鱗を所望するという半次郎の言に、大沼は彼を討ちはたそうとして逃してしまった。

 将軍家斉が、老中脇坂の反対を押して、大沼邸にやってくることになった。大沼はみつ江をさし出して家斉の意を得ようとした。半次郎の仲間の、小人の小吉が危ういみつ江を助け出した。急を知ってかけつけた圭之助は一味に捕えられた。

 お凧祭りの大凧に乗って、半次郎は鯱ホコの一鱗を手に入れたが、糸が切れて凧は利根の流れに落ちた。

 江戸城中で大沼と脇坂対決の日がきた。そこに半次郎が現れて、大沼の前に数々の証拠を示して一味の悪行をあばいた。本物の羅針儀は、秘かに半次郎の手によって隠されていた。羅針儀の中からとり出された一味の罪状書は、一味の悪行の動かぬ証拠となった。

 江戸払いとなったお滝、甲府に向う圭之助とみつ江を見送る半次郎の胸の中は、笑顔とうらはらに淋しかった。(キネマ旬報より)

千羽鶴秘帖

 

  陰惨な暗い感じの時代劇でも、市川雷蔵が出てくると、何か明るい雰囲気になるから不思議である。この映画も、その意味で、雷蔵に救われていると云ってよい。物語は、余りにも語り古された、将軍家の勢力争い。憎らしい顔をした悪玉連中が、散々、ひどいことをやり、老中職を手中にせんとする。あわや、という処で、くつがえる、という話だが、今更、こんな題材を変哲もない脚本・演出で、繰り返されるのでは、全く意味がない。

 こう行詰っては、一本立実施も全くうなずける話になるが、しかし、こういう問題にならない作品でも、僅かに最後まで引留めるのは、雷蔵のユーモラスな持味だけだ。それも、彼が天守閣の金の鯱ホコのウロコをとりに行くために、凧に乗って空に舞い上る、この数分のシーンが、やや物珍しかっただけ。興行価値:雷蔵の人気だけが頼りといういささかお寒い作品。(キネマ旬報より)

 

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