春まだ浅き三月七日より十日まで京都撮影所を訪れ、雷蔵さん二度目の現代劇『ぼんち』の撮影の模様を取材すべく出掛けました。この物語では主な所と思われるシーンの撮影にぶつかり、素人の記者ではあるが、はりきってしまいました。

 雷蔵さんの協力、市川組のスタッフの方々の御親切のおかげで大変良い収穫になりました。では皆様に雷蔵さんのお仕事振りを御紹介しましょう。

 A-2ステージの大きなトビラを入ると、目の前に河内屋足袋店が、大映京都で一という大きなステージいっぱいに建てられている。セットは河内屋をそのまま再現してあり、店の構えから奥内の各部屋に至るまで、何代もの“のれん”を誇った船場の老舗という感じで、上から照らされている無数のライトを見れば、天井のないのに気づき、セットであると認識させられるといった凝ったものです。

 今日の撮影は「若旦那の部屋」でシナリオでは一番古い時代(昭和二年四月)。若旦那の部屋は奥の方ですから、そちらへ行ってみましょう。

 雷蔵さんは午前中よりセット入りしているんですが、昼近くなってもカメラが廻らないんです。結局午後からという事になり、出番を待っていた雷蔵さんも一応引き上げて昼食。一寸スタッフの方に聞いてみますと「タンス待ちや」そうです。若旦那の部屋に置かれるタンスが気に入らないので、別のを入れるそうです。大変な凝り屋ですね、市川監督ばかりか、宮川カメラマンも同じ様です。午後入れ替えたタンスにやっとOKが出て、撮影開始。

 雷蔵さんの喜久治(二十三才)の今日の相手は倉田マユミさんの女中お時(二十五才)、撮影は、湯上りの喜久治の体に汗しらずをはたき、下帯、肌襦袢、長襦袢と着付けて行くシーンで、カメラはそれを真後からとらえる。雷蔵さんは部屋着の上から襦袢を着てテストをくりかえしておりましたが、カメラ、照明等のOKでいよいよ本番の声が掛ると、女の見学者は全部ステージの外へ出され、女人禁制?のうちに撮影が進められました。私だけ出されたのかな?と思っておりましたら、五日よりぽん太の衣装合せに来ていた若尾文子さんも出された様です。おやおや、船越英二さんもお付きが女の子なんでやっぱり外へ出て来た様です。

 さあ大変こんなしめ出しをくう撮影ばかりですと、なんのために取材に来たのかわからなくなる、あわてたくもなる。しかし今日は夜間撮影全部、この調子のものばかりとの事ですので引き上げる事にしました。では明日のファイトをたくわえるために、今日はこの辺で・・・。

 

 

 

 25才〜60才の長い間船場に生まれ育ったぼんち喜久治と共に生き世話をし続ける影の様な女お時、倉田マユミさん