第七ステージへ直行、今日はほんとうにきたないシーンばかりですが、この物語では山とも云うべき、戦災で焼け出された三人の女。ぽん太、比沙子、お福が焼け残った喜久治の商い蔵に集まって来るシーンです。(昭和二十年五月)ここでも昨日と同じく、固定と移動の撮影が実に良く生かされていました。
雷蔵さんと、和助の嵐三右衛門さんとのシーンから始められました。蔵の厚ぼったい戸びらの向うは一面の焼け野原。時々たちのぼる煙。昨日手に入れたと云う焼けた材木。ステージいっぱいにはられた白い薄い幕、映画になってどんな感じでうつるのでしょうか。監督の細かい演技指導で、テスト、テスト。本番になると二人共胸より下をどろ水でぬらします。つまり一晩中西横堀川につかっていたため、それを出すからです。このシーンのOKが出ると、次に若尾さんがかけこんで来る所です。テストの後これはとりなおしが出来ず、一回でOK。次に雷蔵さんと若尾さんのアップ、煤まみれの顔、肩からずり落ちそうに掛けている雑嚢をはずしてやる喜久治。それが終って、リュックを背負った越路さんが入って来る。これは蔵にかけこみ、カメラより30センチぐらい前で演技をするだけに、なかなかタイミングが合わずにやりなおしが続く。馬の事だけを気にしている女に対しての喜久治の表情が、雷蔵さんならでは出せない味が出ていました。
次にカメラを移動車の上にのせ、蔵に入って来る雷蔵さんとお福の京マチ子さんをアップからロングにして撮るのですが、京さんはお酒を飲んで来るので、蔵に入って来るが又大変ニュアンスのある演技で、雷蔵さんも一寸おされ気味。それでもこのシーンは一回でOKでした。
それでは、雷蔵さんらしい一面を御紹介しましょう。本番の時裏にまわってみますと、雷蔵さん、一生懸命若尾さんの髪や衣裳について注意してあげたりして中々親切です。又、お蔵の戸が若尾さんが触ると動くものですから、大道具さんを呼んで、御自分で指図してクギを打たせたり・・・。
又越路さんが、“徴用されたうちのワインレッド(これは馬の名前)”というセリフの大阪弁のアクセントが良く出来ないので、テストをやっている間、側へ付きっ切りでアクセントの付け方を指で波の形を描きながら教えて上げている。雷蔵さんが教えて上げているのをセットの隅で、越路さんの御主人がそれを見守っていました。
又京さんとの撮影では、カメラを車にのせて、アップからロングになるのですが、雷蔵さんは蔵の入り口から京さんにおされる様にして後向きのまま中に入って来るので、レールがあるので動きが取れないから直して欲しいと注文を出して、30分以上かかって取りつけたレールをもう一度やり直しをしました。いざ本番になると、驚いたのは傾斜になっているレールの上を低い方から高い方に引っぱり上げるその役の人がいるわけです。車の上には、カメラとカメラマン、監督が乗っていて、本番ともなると音がたてられないので、その人達歯をくいしばって、OKになるまで車を支えていました。ほんとうに御苦労様です。
さて、こうして御紹介致して来ましたが、皆様いかがでしたか、この作品が出来上るのが楽しみですね。毎日、毎日の模様をお知らせしたかったんですが、まあこれくらいで我慢して下さい。
(よ志哉 16号より)
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