二人の武蔵

1960年1月3日(日)公開/1時間32分大映京都/カラーシネマスコープ

併映:「好き好き好き」(島耕二/川口浩・叶順子)

製作 三浦信夫
企画 山崎昭郎
監督 渡辺邦男
原作 五味康祐(読売新聞連載)
脚本 渡辺邦男・吉田哲郎
撮影 渡辺孝
美術 上里義三
照明 伊藤貞一
録音 海原幸夫
音楽 山田栄一
助監督 西山正輝
スチール 小牧照
出演 長谷川一夫(平田武蔵)、勝新太郎(佐々木小次郎)、本郷功次郎(夢想権之助)、阿井美千子(きわ)、宇治みさ子(千珠)、近藤美恵子(りく)、中村玉緒(悠乃)、石黒達也(奥之山休賀斉)、林成年(柳生宗矩)、中村鴈治郎(柳生石舟斎)、田崎潤(柳生内蔵助)、千葉敏郎(柳生九左衛門)、見明凡太郎(唐十官)、小堀阿吉雄(吉岡憲法)、原聖四郎(吉岡伝七郎)、須賀不二夫(吉岡又三郎)、鶴見丈ニ(徳川秀忠)、伊達三郎(藤木林之助)、舟木洋一(小川隼人)
惹句 『武蔵を名乗る二人の剣豪をめぐって火花を散らす妖剣、魔剣、必殺剣剣の魅力ここに極まる豪快の時代巨篇』『豪剣宙を唸り、快剣空を斬る宿敵の二人の武蔵が剣を決する運命の瞬間』『剣聖を斬り、剣鬼を倒し、剣客を葬り、今ぞ対決する二人の武蔵の必殺剣』『剣風すさぶ京洛の地に、二人の武蔵現わる四人の剣士に、四人の美女がからんで、、まさに波乱万丈息をもつかせぬ剣と恋の黄金時代劇巨篇

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■ 作 品 解 説 ■

 宮本武蔵は二人いた、という非凡な着想のもとに書かれた剣豪小説として読売新聞に連載され、圧倒的な好評を受けた五味康祐の原作を、時代劇映画の巨匠渡辺邦男監督により長谷川一夫、市川雷蔵、勝新太郎、本郷功次郎の大映時代劇の四大スタアに大豪華キャストで製作する正月最大の娯楽巨篇です。

 物語の内容は、平田武蔵、岡本武蔵、二人の武蔵の宿命的な対決を全篇のシンとして、佐々木巌流以下、夢想権之助、柳生宗矩、奥之山休賀斉、唐十官等の傑出した剣豪が次々と登場し、互いの宿命と剣を修める者の道から、相打ち、相果たし合う決斗、さらにこれらの剣豪からまるそれぞれの情炎、灼熱の恋を描いて波乱に富んだ痛快あふるるドラマを繰展げていくものです。

 このように全篇、剣の魅力と恋の激しさにあふれたかってない異色大作ですが、中でも一乗寺の決戦、雪の柳生坂、唐人十官の妖剣と佐々木巌流との対決、柳生道場の乱斗、巌流島での宿命の決斗、そして最後に武蔵と武蔵の阿蘇火口での対決と、全く息もつかせず剣の斗いに興味を盛りあげていく映画はまたとないといえましょう。そして、この物語を構成する主要の四人の剣聖に長谷川、雷蔵、勝、本郷が扮するわけであり、まさに本格的時代劇の格調を備え、しかも興趣満点の娯楽大作というに充分のものといえます。

 監督の渡辺邦男は、「徹底的に楽しめる時代映画をつくりたい」といっているように同監督一流の快適なテンポと流麗な調子で、興趣、興奮をもりあげていくことが期待されます。(公開当時のパンフレットより)

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■ 梗 概 ■

 吉岡憲法の道場に武蔵と名乗る二人の男が現われた。作州の平田武蔵は吉岡伝七郎を、播州の岡本武蔵は吉岡憲法をそれぞれ倒した。憲法の弟吉岡又三郎は叔父と兄の仇討の挑戦状を発した。この高札をみて佐々木小次郎は笑った。彼の後ろに女芸人りくと、奥之山休賀斎がいた。りくは平田を恋してい、休賀斎は平田の師だ。

 一方、岡本にも千珠という恋人がいた。彼の師は唐人剣士唐十官だった。一乗寺での仇討は、平田が先に来て又三郎を斬った。後から来た岡本、二人は剣を極めてから雌雄を決することにした。平田は柳生に挑むために江戸へ、岡本は柳生国許へと旅立った。

 平田は将軍徳川秀忠の御前試合で柳生宗矩に挑戦したが、柳生内蔵助の審判は引分けとした。これは明らかに平田の勝ちだった。内蔵助は娘きわを男装させ平田をろう落させようとした。が、平田はその手に乗らなかった。

 柳生の庄−岡本は当主柳生石舟斎の孫娘悠乃を乱暴する一族の柳生九左衛門を倒し、彼女から慕われた。そこへ棒術の剣客夢想権之助が来て岡本と試合し、これが縁で二人は親友になった。

 佐々木小次郎は燕返しの術で唐十官を倒した。柳生は二人の武蔵を相討ちにさせようと、十官を斬ったのは平田と、岡本に告げた。岡本は江戸に向い、増上寺境内で平田と対決した。が、そこに権之助が真相を告げに来た。二人は後日同じ場所で対決することにした。

 千珠が岡本を慕って江戸に来た。小次郎は奥之山休賀斎を討った。平田は休賀斎の、岡本は唐十官の仇を討つため小次郎を追った。

 小次郎は瀬戸内海の舟島で武蔵の挑戦を待った。渚に下りたのは平田だった。岡本は千珠から子供の出来たことをきき、対決を思いとどまった。岡本が舟島についた時、小次郎は討たれていた。

 権之助が、平田が阿蘇山麓に岡本を待つという手紙を持って来た。阿蘇山の麓ー二人の武蔵の死闘が展開された。激戦数合、遂に軍配は平田武蔵にあがった。(キネマ旬報より)

[抱負を語る − 市川雷蔵]

 「岡本武蔵は、人間的には未完成な青年。そこに魅力を感じます。粗野で、野望に燃える姿を、生々しく表現したい。前作の『若き日の信長』に通じる人間像ですね」(読売新聞 昭和34/12/1)

 

はじめ松竹で映画化が予定されていたが、個性のちがう二人の武蔵になる主人公がいないので、延期になっていた。それを大映が長谷川と雷蔵ということで引受け、異色時代劇としてじっくり撮るつもりでいたが、正月のオールスター時代劇の企画がいつも出しつくした題材でちょっと弱いので、脚本を正月向きに渡辺邦男監督が書き上げた。原作では小次郎はかなりの老人で、剣のベテランということになっているが、これでは勝に役をふりあてることができないし、また正月ものにふさわしくないというので美剣士に変えた。

 早撮りの得意な渡辺監督だけに隣りの松竹京都で『剣侠五人男』の撮影を二十一日に終えると、その翌日大映へととんできて衣裳合わせ、スチール、予告編の撮影と息つくひまもないあわただしさ。そのうえ出演の長谷川、勝が『関の弥太っぺ』雷蔵が『初春狸御殿』本郷が『千姫御殿』とそれぞれかけもちだが、テキパキと撮影をすすめている。岡本武蔵は劇のなかで“合掌の剣”というのを使うことになっているが、これで頭が痛いのは殺陣師の宮内昇平。正月ものの立ち回りに追いまくられるなかで、なんとか奇抜な型をつくろうとチエをしぼっている。巌流島には瀬戸内海の鞆の浦、ラストの二人の武蔵が決闘する場面は阿蘇山が予定されている。

 平田武蔵になる長谷川一夫は「岡本武蔵が一本気なのにくらべて、平田武蔵は一種の策士だと解釈していますので、その策士ぶりがだせるようにつくれるといいのですが・・・」と語っていた。

 

みさ子はうれしい

 “フリーになっておかげで、雷蔵さんのお相手ができてうれしい”と宇治みさ子は喜んでいる。その映画は大映の正月用『二人の武蔵』

 彼女は新東宝の秘蔵ッ子スターだったが、フリーになってからは約十ヵ月どこにも出なかった。しかし、その後フリー第一作として大映『風来物語』で長谷川一夫『浮かれ三度笠』で本郷功次郎、松竹『剣侠五人男』で高田浩吉と、このところ人気スターと共演、気をよくしているがそうした“いいお仕事”のどれよりも、こんど雷蔵と共演できたことがうれしいとは、雷蔵クン男みょうりにつきるじゃないか。

 雷蔵の“岡本武蔵”の恋人千珠となって、京都から江戸、九州へと追っかける情熱のヒロイン。吉川英治原作でいえば“お通”である。“共演を通じていろいろ教えていただき、とてもプラスになりました”とさ。

(新聞切抜より)

■ 映 画 評 ■

                              

                          二人の武蔵                            小倉真美

 「武蔵」という伝説的な概念に対して、二人の武蔵を創作したのは五味康祐らしい発想である。吉岡一門の二人の剣客を別々に倒した二人の武蔵━平田武蔵(長谷川一夫)と岡本武蔵(市川雷蔵)は共に吉岡側の挑戦を受けるが、一乗寺にはどの武蔵が来るのか吉岡一門にも判らぬ設定である。平田は岡本を慕う娘に援助を頼まれて出掛けるが、その娘の父を平田が殺した因縁がつきまとう。一乗寺で別々に吉岡一門を倒した後で、両武蔵は会っても剣を交えずに別れるという定石である。

 平田は将軍御前試合で柳生の恨みを買い、岡本は柳生の里で柳生一門の手を焼かせ、柳生家は両武蔵を戦わせて両成敗にしようと企み、両武蔵の師匠たちが互いに武蔵に殺されたと吹き込む。両師匠を殺したのは佐々木小次郎(勝新太郎)なのも、あまりに嘘臭い話である。従って真相を知る夢想権之助(本郷功次郎)が両武蔵の決闘をとめに入ると、御都合のよさに馬鹿らしくなる。この怒れる三人が柳生道場に乗込んでチャンバラを始めるので、柳生一門を殲滅するかと思うと、そうもデタラメができないと見えて、宗矩の顔を立てて引き下がるから、興醒めだ。初めの間は岡本の剣法を唐人流らしき変格(?)に扱っているが、渡辺邦男のスピード演出では凝っていられないらしく、後半のチャンバラでは差別がつかなくなる。

 平田は佐々木を巌流島で討つが、新解釈はない。一足違いでおくれた岡本は、阿蘇山で平田と対決する。平田は初めて両刀を使って勝つが、長谷川一夫に花を持たせる結果が見え透くし、新しいスタイルの創意もないので、面白くない。阿蘇山ではロング・ショットはロケだが、両優のチャンバラはセットなので、虚構がさらに目立ってくる。渡辺式の早撮り演出では、五味流のドライな筆法による因果話も月並みなチャンバラ物に風化してしまうようだ。(興行価値: 長篇の新聞小説を渡辺邦男が手際良くオールスターを配し」、まとめあげている。正月作品としてヒットした。 キネマ旬報より)

長谷川はまず水準の出来。野心的な青年剣士雷蔵が好調。(北海道 昭和35/1/5)

 武蔵が二人いたというアイデアが奇抜で面白い。雷蔵の岡本武蔵が倒すことしか考えない不逞な若さを好演している。(京都 昭和35/1/6)

 長谷川の平田武蔵はさすが貫禄だが、これに迫る雷蔵の気迫もさるものだった。(新関西 昭和35/1)

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 武辺に生きる奥義を「五輪書」に託し、巷説、幾多の決闘譚を生んだ剣豪・二天宮本武蔵。真筆の襖絵は今日も墨痕鮮やかだが、その生涯に謎は多い。足利将軍家指南・吉岡憲法を蓮台野に屠り、洛東一乗寺村下り松で吉岡一門の挑戦を一蹴した“武蔵”像に、二つの若き影が重なる。播州浪人・岡本武蔵、作州浪人・平田武蔵。二人の剣客の交錯するところ、“武蔵”の足跡が記されていった。五味剣豪小説の代表的名作。

 武蔵複数説を展開した五味康祐の『二人の武蔵』(昭和31〜32)は徳間文庫全二巻や文春文庫上下二巻で読める。

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