長脇差忠臣蔵

 

1962年8月12日(日)公開/1時間37分大映京都/カラーシネマスコープ

併映:「かっこいい若者たち」(弓削太郎/叶順子・水原弘)

企画 浅井昭三郎
監督 渡辺邦男
脚本 八尋不二・渡辺邦男
撮影 渡辺孝
美術 太田誠一
照明 伊藤貞一
録音 大谷巌
音楽 福永久広
助監督 西沢鋭治
スチール 藤岡輝夫
出演 本郷功次郎(有栖川宮)、勝新太郎(大前田英五郎)、宇津井健(掛川の次郎吉)、林成年(六郷の新三)、藤村志保(太十の娘おみね)、小林勝彦(若駒の半次)、浦路洋子(おしの)、島田正吾(清水次郎長)、大瀬康一(桂小五郎)、丹羽又三郎(玉稲荷の佐吉)、友田輝(中村半次郎)、阿井美千子(おしま)、近藤美恵子(おのぶ)、月丘夢路(おせき)、天地茂(小松伊織)、名和宏(本多備前守)、上田吉二郎(二俣の藤兵衛)、石黒達也(柄沢の吉兵衛)、中村鴈治郎(袋井の太十)
惹句 『無念の想いを胸に秘め、ドスに誓った血判状四十七士の喧嘩旅』『やくざ映画の痛快さと忠臣蔵の壮烈さが興味百倍大映オールスタアのなぐり込み

■ 作品解説 ■

 この映画『長脇差忠臣蔵』は、いわば「忠臣蔵」のやくざ版ともいうべき作で、「忠臣蔵」でみられるいろいろなエピソードをやくざの世界におき変えて描こうというもので、やくざ映画の痛快さと忠臣蔵の壮烈さが一つになって、興味百倍といった娯楽時代劇巨篇。

 内容は、遠州掛川の宿の縄張りを預かる次郎吉親分(宇津井健)が、権勢を笠に着るときの老中本多備前守(名和宏)に反抗して町民を庇ったことから殺されてしまう。そこで掛川一家の大黒柱と頼む堀の内喜三郎(市川雷蔵)が親分の仇とばかり老中を狙うが、相手は飛ぶ鳥を落とす勢いの天下の老中、そのうち逆に弾圧の命が下り、一家は離散の憂目をきる。が、その老中も時勢の流れには抗し難く、野に下ったところを、大前田英五郎(勝新太郎)有栖川宮(本郷功次郎)清水次郎長(島田正吾)らの救けを得て、無事討入り、晴れて大願を成就するといったもの。

 キャストは、市川雷蔵、勝新太郎、本郷功次郎、宇津井健、小林勝彦といった大映が誇る男性軍に加え、『破戒』『鯨神』などで早くも本年の新人賞にマークされている、新スタア藤村志保のほか、月丘夢路、浦路洋子、近藤美恵子、阿井美千子といったヴェテランスタアがズラリ顔を揃え、三十四年の『次郎長富士』以来、実に三年ぶりに見られる豪華キャストです。

 スタッフは、この種の娯楽大作を作らせてはこの人の右に出るものが居ないといわれる、ヴェテランの渡辺邦男監督のメガフォン、シナリオは、本邦最初の70ミリ映画『釈迦』続く第二弾『秦・始皇帝』と、このところ70ミリずいている八尋不二が精魂かたむけての作、撮影は渡辺孝、美術太田誠一、照明伊藤貞一といった新鋭、ヴェテランがガッチリスクラムを組んでいます。(プレスシートより)

 

    

■ ものがたり ■ 

 長らく圧政、横暴を極めた徳川幕府にも漸く崩壊の兆しがみえてきた。遠州の宿を縄張りとする掛川の次郎吉は、民百姓の安らかに暮せる世相にと、勤皇の中村半次郎や桂小五郎らと気脈を通じていた。それを次郎吉と縄張りを争う二俣の藤兵衛から知らされた老中本多備前守、浜松城々主は、いつか次郎吉を亡きものにせんとしていた。

 ある日、幕府は勤皇倒幕の気運牽制のため急拠上様上洛を決定し、道中の目障りの家屋は全部壊すよう藤兵衛に命じた。怒った次郎吉は老中に嘆願するが、殺された。そして解散が命ぜられた。折よく掛川一家の大黒柱、堀の内喜三郎が旅から帰ってきた。が、喜三郎は親分の女房おせきの意見に従い時節を待つ決心をした。

 喜三郎は桂小五郎を伴って清水の次郎長親分を訪ねた。半二、佐吉は新三の案内で彼の恋人おみねの父、袋井の太十を訪ねた。一方、浜松城城代家老小松平左衛門は、息子の伊織に命じ喜三郎の動向を探らせていた。彼はおのぶという美貌の女刺客に喜三郎の動きを見張らせた。一方、喜三郎は、倒幕軍が行動を起したときが老中を討つ時機と計算していた。

 そのチャンスは、意外に早くきた。有栖川宮を征東と仰ぐ倒幕軍が、敗走する幕軍を追って出発、それを迎え撃つ浜松藩主力が城を後にしたからだ。早速、親分の仏前に子分四十数名の戒名を供え、一行は大前田英五郎の名を借りて浜松へ向かった。が、道中で本物の大前田英五郎にバッタリ会った。だが、英五郎は自から壮途をはげますのだった。

 翌日の夜、東征車と幕軍の織りなす砲声を背景に、揃いの喧嘩装束の喜三郎らの一団が浜松城へ殴りこんだ。戦い終った東の空は、あたかも日本の夜明けを象徴するかのように白さを増して輝いていた。(キネマ旬報より)

  市川雷蔵を中心に左から丹羽又三郎、林成年、石黒達也、月丘夢路、小林勝彦などの面々は大映の『長脇差忠臣蔵』のワンカット。東宝の『忠臣蔵』に対してこちらは赤穂浪士のシチュエーションを股旅ものに置きかえたもので、宇津井健扮する人望厚き親分が時の老中に殺され、残された子分たちが仇討ちを決意する、いわば赤穂城中評議の場というわけ。(映画情報62年10月号より)

 『忠臣蔵』ブームに

『長脇差忠臣蔵』の掛川一家の討ちり風景がこれ

 東宝の30周年記念オールスター映画『忠臣蔵』が、俄然、映画会社に“忠臣蔵”ブームを生んでいます。まず大映が、雷蔵・勝以下のオールスターで『長脇差忠臣蔵』を公開し、これが好調のヒット。忠臣蔵のお話を、やくざの世界におきかえたもので、人情厚き若親分の宇津井健が時の老中に謀殺され、雷蔵を中心とした子分たちが、苦心の末に仇討ちをするというお話で、さしづめ宇津井が内匠頭、雷蔵が内蔵助といった寸法です。

 一方松竹では32年に製作したオールスタア『大忠臣蔵』を『仮名手本忠臣蔵』と改題してリバイバル公開することになり、この作品に『忠臣蔵』後日譚ともいうべき中篇映画『義士始末記』を製作して、同時に二本立て封切りすることになりました。『義士始末記』の方は、大曽根辰保の監督で、吉良邸討ち入り後、泉岳寺にひきあげた義士の処分をめぐって騒然とした社会の中で、感情を殺し法理論をつらぬき“切腹”の断を下した荻生徂徠の人間的苦悩を中心に、義士の兄をもちながら、愛人徂徠の説く法理論に従わねばならなかった女性の姿などを、ドラマティックに描くものです。島田正吾と岡田真茉莉子の共演に山村聡、岩下志麻が参加しています。

 この松竹の『忠臣蔵』公開によって、現在は東映に身を置く高田浩吉や近衛十四郎が松竹のスクリーンに登場することになるわけですが、五年前の旧作が東宝の『忠臣蔵』とぶつかるとなると、松本幸四郎、染五郎父子、それに市川団子などは、両方のスクリーンに顔を出すことになり、旧作で立花左近をやっている幸四郎がこちらでは内蔵助だったり団子と染五郎は両方のスクリーンで同じ役だったりで、とんだ騒ぎになりそう。(映画情報62年10月号より)

 

 

 

 村上 忠久 

 「忠臣蔵」のやくざ版といったところである。「忠臣蔵」のバリエーションは、今迄にも多く作られたし、形をやくざ物に借りた映画も少なくなかった。しかし、今度の映画のように、可成り忠実に原型を模して作られたのは珍しい。その点、これは一応見るべきものといえる。

 ここでは、遠州掛川宿の次郎吉親分(浅野)が、娘を老中の妾にしたために横暴をきわめる二足のわらじの藤兵衛に、町人や百姓たちのために対抗した事から怨みを買い、ついに老中本多の手で殺されるというのが発端。そこへ、長旅から帰って来た一の幹分の喜三郎(大石)が、一家四十七人で老中と藤兵衛に恨みをはらす、という筋立になっている。これに、時を幕末にして勤王の志士をからませ、さらに清水次郎長や大前田英五郎を登場させるという脚本(八尋不二、渡辺邦男)は、割合に短い割に、「忠臣蔵」の色々なエピソードも適当に織り込んで、娯楽物のシナリオとしては、先ずうまい方である。

 渡辺邦男はいかにも彼らしく、観客を楽しませるという一点に演出をしぼっている。事実、これでは館の客の手の来る場合が二、三に止まらなかった。俳優の使い方も悪くなく、市川雷蔵、島田正吾、勝新太郎、宇津井健、小林勝彦、名和宏、天知茂、上田吉次郎など、それぞれによく動かされている。

 女優陣は、月丘夢路、近藤美恵子以外はあまり振わない。一つの思いつき、といってしまえばそれまでだが、バリエーションとしての趣向とねらいが、まずまず及第点なので、娯楽映画としては水準以上といってよかろう。

興行価値:忠臣蔵映画の変態だが、少々奇をてらいすぎて失敗。もっと徹底的にやくざ物にする必要があった。スターの顔ぶれと、やくざ時代劇の大作であることを強引に押すほかあるまい。(「キネマ旬報」より)

 

 

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