博徒ざむらい
1964年11月14日(土)公開/1時間33分大映京都/白黒シネマスコープ
併映:「検事霧島三郎」(田中重雄/宇津井健・霧立はるみ)
企画 | 宮古とく子、仲野和正 |
監督 | 森一生 |
原作 | 久保栄(三一書房版 放送台本ふうに) |
脚本 | 高岩肇・武田敦 |
撮影 | 今井ひろし |
美術 | 太田誠一 |
照明 | 伊藤貞一 |
録音 | 林土太郎 |
音楽 | 塚原哲夫 |
助監督 | 大洲斉 |
スチール | 藤岡輝夫 |
出演 | 本郷功次郎(獅子山の佐太郎)、坪内ミキ子(おせい)、芦田伸介(清河八郎)、伊藤孝雄(大村達尾)、植村謙二郎(宇佐美大次郎)、紺野ユカ(お辰)、清水将夫(甲州屋助蔵)、富田仲次郎(武居の安五郎)、北城寿太郎(芹沢鴨)、水原浩一(新地の七兵衛)、伊達三郎(殿様の伝蔵)、杉山昌三九(桑原来助)、中村豊(石坂周造) |
惹句 | 『命を張った天下の丁半、やくざ流義の喧嘩っぷり!』『一本ドッコが二本差し!仁義切る手で天下を握る!』『やくざには賽の目で、さむらいには剣で!動乱の巷に、鉄火場に火花を散らす疾風の男!』『天下の縄張り争いに助っ人役を買って出た、やくざ仕込みの気っぷと度胸!』 |
★ かいせつ ★
☆ この作品『博徒ざむらい』は、鬼才、久保栄の原作戯曲を得て、高岩肇、武田敦がシナリオ化し、森一生監督が、その演出作品、第百本目を飾る記念すべき異色時代劇大作です。
☆ 内容は、甲斐の祐天こと祐天仙之助が、大親分津向の文吉の取り立てで押しも押されもせぬ男一匹に成長するが、やくざを取りつぶそうとするずる賢い代官の謀ごとに陥って、吃安一家と大喧嘩を巻起したり、幕末の怪物、清河八郎に見込まれてにわか侍の子分共を引き連れ、新徴組に参加したり、その資金面を受け持って、横浜の外人居留地で盗賊を働いたりするという興趣と波乱に満ちたドラマです。その間、一介のやくざから次第に世間に目を聞き、また自分を軽蔑しながらも利用しようとする侍達の底意を見抜いて行くなど、社会的拡がりを持った久保栄ならではの、どっしりと一本シンの通ったドラマです。
☆ キャストは、主人公、祐天仙之助に市川雷蔵が意欲的な役作りで取組んでいる他、彼と兄弟分で骨の髄までやくざ気質のしみついた獅子山の佐太郎に本郷功次郎、また、祐天を恋し、佐太郎に思われるという微妙な立場の娘、おせいに坪内ミキ子、佐太郎のなじみ女郎に紺野ユカ、祐天を狙う青年武士に伊藤孝雄、祐天をあやつる怪物、清河八郎に芦田伸介、祐天に新しい時代の夢を教える絹商人の大物、甲州屋に清水将夫、他に植村謙二郎、北城寿太郎、富田仲次郎ら多彩な顔ぶれをそろえています。
☆ スタッフは、絶妙の素材を得てこの記念作品に意慾を燃やす森一生監督以下、撮影の今井ひろし、録音の林土太郎、照明伊藤貞一、美術太田誠一、編集谷口登司夫、助監督大洲斉とおなじみの森一家の精鋭が、がっちりスクラムを組んでいます。(公開当時のプレスシートより)
★ ものがたり ★
甲斐の祐天こと祐天仙之助は、今では甲州一円に鳴り響く男一匹だが、数年前までは、大親分津向の文吉の世話になる一介の流れ者に過ぎなかった。文吉は暖く祐天の面倒を見たが、かねてから文吉の賭場を狙う吃安一家が、ささいな事にいいがかりをつけ、殴り込みをかけてきた。祐天は、吃安の用心棒、桑原来助を斬ったが、そのとき八州役人の手が廻り文吉と吃安は遠島の罪に問われた。責任を感じた祐天は、津向一家の代貸獅子山の佐太郎と共に一家を盛り上げ、無事絹市もすませた。
そんなとき、吃安が島を破って逃げ帰った。代官宇津美は、絹市における名荷金の免除を条件に、祐天に吃安召し捕りを命じた。しかし、これは代官宇津美の謀略だった。祐天は吃安一味を捕えたものの、背後から代官役人に襲われ、死にもの狂いで血路を開いて、横浜に逃れた。そこで祐天は、絹市で知り合った甲州屋に会った。甲州屋には、祐天に思いをよせる娘、おせいもいた。祐天は、商いの道に喜びを見出した。が、そんなとき宇津美が現れた。今では外人居留地の取締りをしている宇津美は、甲州屋の居留地出入りの鑑札を取り上げた。鑑札がなければ商いは出来ない、祐天は宇津美の役宅に忍びこみ鑑札を取りもどした。
その夜宇津美は、甲州屋をとりかこんだ。恩人に迷惑をかけるのを恐れた祐天は自首した。そんな祐天の前に、新徴組を率いる清河八郎が現れた。清河は祐天に、尊皇攘夷の騒然たる世相を説き、野望を語り、祐天に協力を求めた。清河によって釈放された祐天は、清河にたのまれ軍資金集めに横浜に潜入した。だが、清河は祐天に殺された吃安の用心棒桑原の息子大村を目付として派遣した。そんなある日清河は旗上げのために祐天を甲州へ呼びもどした。そこへ宇津美を刺し、その子分に追われた佐太郎がとびこんできた。しかし、清河は祐天らをあくまで道具と考え、佐太郎を見殺しにしようとした。怒った祐天は清河の下を去り、追ってきた大村と対決した。大村をたおした祐天は甲州屋の待つ土地によろめきながら去っていった。
−雷蔵さんと対等に− ヒット狙う本郷功次郎
大阪歌舞伎座の初舞台で、故佐田啓二のピンチヒッターをつとめ、予想外の好演をみせた大映、本郷功次郎が、京都で撮影中の『博徒ざむらい』(監督森一生)に意欲を燃やしている。本職の映画以外で、ひょんなことから演技開眼したともいえる本郷にとって、こんどは映画でも活躍が望まれているわけだが、雷蔵と三年ぶりに共演する今度の作品では、やくざの世界から広い視野を求めて行く雷蔵の役とは対照的に、いわゆるやくざの仁義に徹した男を演じている。
「舞台では俳優としてまたとない経験をした。その延長といってもいいほど、こんどの役はボクにとって初めての大人らしい役で勉強になる。雷蔵さんと対等の演技をしないと、作品のねらいも死んでしまうので、とにかく力いっぱいやっている」
これまで、柔道ものに代表される子供向きのヒーローにしか活躍の場を与えられなかった本郷の口ぶりからは、これを足がかりに低迷から抜け出して、勝負作のローテーションに割り込もうとする意気ごみが感じられる。
どちらかといえば、本郷の持つふんい気には、“甘さ”が勝っていたが、この作品にかかってからというものは、役の上の一徹者そのままに表情を引きしめ「うすっぺらな二枚目では終りたくない」と真剣。(日刊スポーツ昭和39年10月13日号)
淀川 長治
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