名優死して名を残す。“眠狂四郎”こと市川雷蔵、37歳の夭折に合掌。 田口トモロヲ
海外に古くはヴァレンチノからジェームス・ディーン、マリリン・モンロー、ブルース・リー、ジョン・ベルーシなど、その若死にゆえにいつまでもファンに慕われ続けるスター達がいるように、日本にもまれにそんなスターが存在する。和製ディーンこと赤木圭一郎、武田信玄の父佐田啓二、上を向いて日航機墜落の坂本九、薄幸の飛び降り少女岡田有紀子、癌と肥満の感違いが悲しい堀江しのぶ、そして元祖“眠狂四郎”こと市川雷蔵。今でこそ眠狂四郎は田村正和や片岡孝夫がヘラヘラ演じたりしてるが、以前は市川雷蔵以外考えられない時代があった。と言ったところで今の若い人の中で、何人の人が雷蔵を知っているのでせうか? 50年代、大阪の歌舞伎役者の養子になり、54年今はTV界で猛威をふるう「大映テレビ」の前身の映画会社「大映」に入り、37歳でこの世を去るまで、15年間第一線の人気スターの座を歩みつづけ、その間出演した映画は150本以上ある世紀のスーパースター!!それが市川雷蔵なのです。歌舞伎出身の独特の腰つき、芯の通った繊細なやさ男ぶりに、女殺しの孤独感を漂わせ、あくまでも屈折したお色気を持った現代的俳優だった。(どーゆー奴っちゃ?) 雷蔵主演の映画には幾つかの人気シリーズがあり、当たり役狂四郎を始め、“忍びの者”“若親分”“陸軍中野学校”“ある殺し屋”などがある。時代劇から現代劇までその守備範囲はなんとまぁ幅広いことか。 『ある殺し屋』の中では、普段は、一杯呑み屋の主人だが、実は困難な殺人も針一本でかたづけてしまう凄腕の殺し屋で、特攻隊の生き残りという実に複雑(?)な役どころ。(続編『ある殺し屋の鍵』なんか日本舞踊の師匠が殺し屋なんだぜい!)しかし、こんな役がらも仲代や緒方みたいに臭くならずにサラリと気品を持って演じてしまうのが雷蔵のもち味ですな。物語は野川由美子扮する野良猫のような女が、呑み屋にころがりこんで来たところから始まる。そこに野心家のチンピラヤクザ成田三樹夫が麻薬でひと儲けする話しを持ち込んで来て、色と欲の三ッ巴戦(こーゆー表現ってもう、ないよなァ)になる訳だ。この頃の野川由美子は実にバイタリティにあふれていて、意味なく服を脱いじゃうのが楽しいし、成田三樹夫は『スター・トレック』のスポックみたいにノッペリしてて、軽くてイイ加減な奴で凄くいい。雷蔵はいつもクールで、野川由美子は金のことしか考えてないし、成田三樹夫はぬけさくでユーモラス、主要人物3人の性格づけがハッキリしてて妙に可笑しいのだ。全体的には、暗く重い雰囲気が漂う<大映調>ってやつなんだけどね。現在の「大映テレビ」は役者に超臭い芝居をさせて笑いをとる(?)という独自の映像価値感を創り出したけど、昔の「大映」も何故か意味なく暗いという独自の美学があったのね。だから子供の頃「大映」を観ると妙に恐ろしかったのよ。
雷蔵はこの『ある殺し屋』と『華岡青洲の妻』などの演技で、その年の「キネマ旬報」主演男優賞を受けたが、それから、一年半後に癌でこの世を去った。(顔面癌という噂もあった)名優、若死にして名を残す・・・合掌。
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