1967年6月17日(土)公開/1時間28分大映京都/白黒シネマスコープ

併映:「悪名一代」(安田公義勝新太郎・田宮ニ郎)

監督 井上昭
脚本 舟橋和郎
撮影 今井ひろし
美術 西岡善信
照明 加藤博也
録音 海原幸夫
音楽 斎藤一郎
助監督 国原俊明
スチール 小山田輝男
出演 高田美和(高倉美鈴)、野際陽子(浅井夫人)、加東大介(草薙中佐)、山形勲(高倉秀英)、山下洵一郎(狩谷三吉)、内田朝雄(大庭次官)、久米明(特高課長)、千波丈太郎(小柳)、五味龍太郎(青年将校)
惹句 『味方の憲兵に逮捕された中野学校の精鋭作戦か謀略か逆転また逆転、開戦前夜の大諜報戦』『ことごとく洩れる日本の機密突如、憲兵隊に捕えられた中野学校の精鋭意外彼は二重スパイか』『日本を襲う外国スパイ網への挑戦極秘命令中野学校に下る

   

◆ 解 説 ◆

 この映画『陸軍中野学校・密命』は、総力戦と呼ばれる近代戦争にあって、歴史の裏側で武力戦以上に烈しくシノギを削り合った各国の諜報機関の謀略戦を描くものだが、これは、昭和四十一年六月から始まった、大映ヒット・シリーズ<陸軍中野学校>の第四作目に当る。

 ものがたりは、昭和十五年の春、中国大陸で謀略活動に従事していた陸軍中野学校出身の、辻井機関の特務将校、椎名次郎が、いきなり街頭で憲兵隊に逮捕され、スパイ容疑で日本へ強制送還されるところから始まる。筆舌に尽せぬ拷問のあと、突然釈放された次郎を待っていたのは、意外にも草薙中佐だったが、彼は、これが自分の謀略で次郎が留置所で一緒だった元外相の高倉秀英にスムーズに近づくための手段であったと知らされる。次郎は、草薙の命令で中野学校三期生の狩谷とコンビを組み、ドイツのゲシュタポとも協力して、英国の極東情報機関のキャップ、キャッツ・アイの正体を探るが、手がかりとみられた浅井男爵未亡人や高倉までが次々と殺され、躍起となった次郎は、高倉の娘、美鈴の協力を得て、やっと謎の男を英国大使館前で取り押え、日本の危機を救うといったもの。

 キャストは、椎名次郎−草薙中佐といったお馴染みの師弟コンビには、市川雷蔵と加東大介(東宝)が、高倉秀英の娘、美鈴には、高田美和が久しぶりの映画出演で、しかも、これまでの単なる清純スタアからの脱皮を目指して、明日は戦場の露と消えるかもしれぬ青年をひたむきに愛する女を演じる。また、浅井男爵夫人には、先頃ミニ・スカートで突然パリから帰国して話題をまいた野際陽子が、帰国後初めて、一年半ぶりに映画出演するが、この間の修業が演技の上でどこまで生かされるか楽しみである。

 この他、高倉秀英には山形勲、三期生の狩谷に山下洵一郎、特高課長に久米明、小柳に千波丈太郎、青年将校に五味龍太郎といった異色キャストが顔を揃えているだけに、「これまでのシリーズのなかでも、最も面白い作品になるだろう」と、井上昭監督も大いに張り切っている。

 

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◆ 物 語 ◆

 戦争の黒い手が、世界の人々の上に大きくのしかかっていた昭和十五年の春、中国大陸で謀略活動に従事していた中野学校一期生の椎名次郎は、いきなり街頭で憲兵隊に逮捕され、スパイ容疑で日本へ強制送還されてしまった。

 次郎が収容された留置所には、既に先客として、元外務大臣で親英派の巨頭、高倉秀英が同じくスパイ容疑で取調べられていたが、老齢の彼には、春なお浅い房住いが、余程骨身にこたえるらしく、見かねた次郎は、なにくれとなく親切に面倒を見てやった。そんな二人の間に、年齢を超えた一種の友情が漂い始めたある日のこと、次郎は突然、釈放され、迎えに来た正体不明の青年に導かれるまま、草薙中佐に会って驚いた。

 草薙は、次郎が、上海で憲兵隊に検挙されて以来今日までの出来事は、全て自分の工作であり、狙いは次郎をスムーズに高倉に近づけるためであったと語った。そして、昨年秋、英国諜報機関の極東キャップ、キャッツ・アイと称する人物が日本に潜入してからというもの、度々日本の最重要な国策が盗まれているフシがあり、高倉の身辺に誰かスパイがいるのではないかと久保田に命じて調査をすすめた矢先、当の久保田が殺されてしまった経緯をこと細かく語ったあと、傍らの青年、中野学校三期生の狩谷三吉と協力して是が非でも、キャッツ・アイの正体を暴くよう、次郎に改めて命令を下した。

 数日後、次郎は、釈放されて箱根に静養する高倉を訪ねた。予め父から次郎のことを聞いていたひとり娘の美鈴も大喜びで、二人の次郎に寄せる好意は、翌日高倉の釈放を祝う会に招待したほどだった。パーティは、英米大使夫妻をはじめ、さすがに内外の知名人が多く、次郎はこの機会を逃さじと、先ず浅井男爵未亡人に近づく。ホテルで彼女と一夜を共にした次郎は、夫人がドイツ大使館付武官ウィンクラー大佐と特殊な関係にあることを知って、意外な気がしたが、同時に、この上は、キャッツ・アイを探るには、もはやあの小柳しかいないと思った。

 小柳というのは、次郎が、浅井夫人と初めてデートしたクラブの、トランペット奏者だが、実は、次郎が上海に居た頃、執拗に尾行されたことのある重慶側のスパイで、顔を知られているところから、狩谷にずっとマークさせている男だった。ところが、その小柳が、狩谷のスタンド・プレーから危険を察知して突然身を隠してしまったから、さすがの次郎も参ってしまった。と、そこへ、ウィンクラー大佐から、草薙中佐に呼び出しの電話があった。日独両国が折角、同盟国として軍事外交上の機密を交換し合っているのに、その内容が日本側から洩れているというのだ。草薙中佐は、、至急、そのルートを断つ約束をし、同時に浅井夫人を利用し近づけることを警告して別れた。

 ドイツ側から見捨てられた夫人は、情報を売りにいった英国大使館で、意外な事実を掴んだのか、次郎に息せき切って、電話をかけているさなか、さっさと殺されてしまった。次郎たちの計画をあざわらうかのように、先手先手と布石を打ってくる目に見えぬ敵。新たに作戦を立て直そうとしたとき、こんどはこともあろうに高倉秀英が、狂信的な青年将校に殺害されてしまった。

 これですべての糸が切れたとやや落胆気味の次郎が、高倉邸を辞して東京へ向かう途中、雨も降らないのに時折り、ワイパーを動かしている車に出会った。怪しいとニラんだ次郎が、運転手を捕えてみるとこれが意外にも小柳で、次郎は、自分を重慶側のスパイとして彼らの組織のアジトのコーヒー・ショップ「さえぐさ」を経営する三枝に紹介させるが、小柳は、テーブルの下に三枝の膝をモールス信号でつついて、次郎の身分を知らせた。

 三枝も何食わぬ顔で、英国の情報を持たせて、ドイツ大使館へ売り込みに行かせるが、次郎は、そこで意外にもウィンクラー大佐に拳銃をつきつけられ、現れたゲシュタポに拉致されてしまった。次郎は、このままでは、英国のスパイとして誤解されたまま消されてしまうと思い、やむなく登戸の兵器研究所で開発されたばかりの新兵器を使って車の中から脱出するや、草薙中佐と連絡を取って、狩谷と二人で「さえぐさ」に踏み込む。が、次郎はそこでキャッツ・アイの意外な正体を知って立ち竦んだ。ライフルを突きつけられ、滲み出る冷や汗の下で、もはや捨身の逆転しかないことを覚り、次郎は、煙草ケースに見せかけたガス発射装置を握りしめ、キャッツ・アイの近づくのを静かに待っていた−。(公開当時のプレスシートより)

 

詳細は、シリーズ映画「陸軍中野学校シリーズ」参照。

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