新しき年の始めにかくしこそ 千歳をかねて楽しきをつめ　古今和歌集・巻第二十・大歌所御歌

　年明け早々に飛び込んできた内藤昭美術監督の訃報に、昨年は始まったようなものでした。−伊藤博文を暗殺した安重根を主役に映画を撮る話がある。ハルピン駅のセットを作りたい-と、熱っぽく語ってくださったのは、99年11月23日京都朝日シネマでの「宮川一夫追悼座談会」の後でした。座談会の主役のお二人は、今はこの世にいらっしゃいません。暮れも押し迫った師走の20日に、田中徳三監督も鬼籍に入られました。

　人は、何て“はかない”存在なのでしょうか。だからこそ夢を見、いつかは実現する日が来ると信じてがんばるのだと思います。何しろ人偏に夢と書いて“儚い”ですものね。

　福岡で高校まで過した少女は、深夜TVで楽しんでいた大映時代劇の担い手たちに、親しく接することの出来る日が来るとは想像すらしていませんでした・・・。『お嬢吉三』を見て、「あんなにキレイな富士山があるわけがない、うまいこと、合成してますねぇ〜」と心底感心して言うと、「バカ言っちゃいけない。あの頃はキレイな富士山がちゃんと撮れたんです！」『秘録 怪猫伝』では、飼い猫が無念の死を遂げた飼い主の身体から流れ出る血を舐めるのを見て、｢監督あの血の中には何が入っているの、どうして猫がぴちゃぴちゃ舐めるの？｣と聞いてしまい「そんなことは小道具がやるの。猫がちゃんと舐めるようにと助監督が考えるんです。」全く無智な私は、そんなトンチンカンなことを監督に聞いてしまったのです。そこで私は監督って私ごときが想像する以上に偉いんだ！と思い知らされたのでした。

　難病と戦われ遂に逝った内藤美術監督も、11月7日の心斎橋そごうではあんなにお元気だった田中監督も、映画黄金時代を駆け抜けられた映画作りの名匠だったのだと今更ながら思います。プログラムピクチャーと揶揄をこめて呼ばれた映画が、いかに面白いか、そして素晴しいか、私はよく知っています。お二人が亡くなられても残された映画がそれを雄弁に語っています。お二人のお仕事の成果を、後世の人々に残し伝える手助けをしたいと今心から思っています。

01/01/2008