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 この映画の見どころは何と言っても、大映人気スタアのトリオである若尾文子、山本富士子、市川雷蔵が初めて顔を合せることです。しかも、市川雷蔵を中心に若尾文子と山本富士子が恋を賭けて競う運命的なめぐり合せは最上の興味点となるでしょう。

 若尾文子は悲恋のヒロイン皇女和の宮に、山本富士子は情熱の侍女夕秀に、そしてこの二人の美女に慕われながら、ただ一つの恋に殉ずる有栖川熾仁に市川雷蔵が扮して華麗哀切の絵巻をくりひろげていきます。

 時代映画でありながら、これは珍しく恋愛映画が狙いです。勿論、動乱の幕末を背泳にしておりますが、話しの本筋は三人をめぐるラブ・ロマンスを追いながら、宮廷と徳川家からみた明治維新史を描いている点も異色あるものでしょう。

 和の宮の降嫁から、新政府の江戸入りまでのめまぐるしい動きが、新しいアングルからとらえられています。「朝日新聞」に連載された川口松太郎の原作は、夕秀という歴史上にいない創造の人物を登場させて、和の宮と対照させながら、この美しい恋物語を劇的にもりあげていきます。

 映画には出てきませんが原作では一人の美女千草を争う友房と龍安の二人の男性の争いがあり、更に千草の娘夕秀と和の宮の二人がこんどは帥の宮ただ一人を慕い続けるという二代にわたる運命の恋がテーマになっていますので、これを頭にいれて映画を御覧になれば更に興味深いものがあります。

 若尾文子の和の宮、市川雷蔵の有栖川熾仁(帥の宮)、山本富士子の夕秀、和の宮の同情者孝明天皇に夏目俊二、十四代将軍家茂に舟木洋一、和の宮の生母に三宅邦子、容貌魁偉の野心家熊の倉友房に東野英治郎、宮中の陰謀家岩倉具視に小沢栄、怪僧龍安に柳永二郎の芸達者の人々に、滝花久子、十朱久雄、細川俊夫、三島雅夫、橘公子、毛利菊枝、松浦築枝、荒木忍、香川良介、東良之助、南部彰三ら五十名に上るキャストを組んでいます。