すでにこの種の"タヌキ"ものは過去に五本を製作しており、タヌキの国の若君狸吉郎クンも、こんどの市川雷蔵で五代目になる。初代は伊庭駿三郎で、いらい宮城千賀子、喜多川千鶴、水の江滝子とつづき、久しぶりに正真正銘オトコの狸吉郎となった。また純情娘のお黒も、若尾文子が三代目で、過去に高山広子が二度演じている。雷蔵と若尾は、『朱雀門』、『次郎長富士』いらいの顔合わせだが、どちらも気の合ったもの同士、全編を甘いラブシーンの連続で通している。もっとも若尾文子は、純情娘お黒のほかにタヌキ御殿のドライ娘きぬた姫と、二役のカケもち。連日、衣装がえに追われているが、「雷蔵さん、勝さんという大映京都のトップスターを恋人に持つ役で、どちらも最後はめでたく結婚へゴールインできるんだから、女ミョウリにつきるワ」と、うれしそう。もっとも重婚の疑いがあるんじゃないかと気をまわす向きもある。
また、この映画には水谷良重も特別出演している。彼女の映画出演は白木秀雄との結婚いらい初めて。時代劇出演は東宝の『弥次喜多道中記』についで二本目。「ミュージカルだからおもしろい。だけど、からだが大きすぎて、なんだか衣裳が窮屈」と、こぼしている。若尾とドライぶりを競うタヌキの腰元おはぎにふんして、珍しくソーラン節を歌うことになっている。このほか岸正子、美川純子、小町るみ子、大和七海路らキレイどころも出演、女三人寄ればカシマシイというコトワザそのままに、セットの中は連日美しく着飾ったタヌキたちでいっぱい。
メガホンをとる木村恵吾監督は、「過去に何本もとっているけれど、美人に囲まれるというのは悪い気持ちはしませんよ」と、相好をくずして、後ろに控えている市川雷蔵を振り返る。「同感、同感」と、雷蔵も目を細めていた。
(西スポ 12/03/59) |