のやくさ弁天小僧菊之助の話。
昨年九月、イタリア映画『世界残酷物語』が大当たりしたとき、心ある評論家、ジャーナリストの中には「決して好ましいことではない。今後、邦画界にこうした風潮が影響しなければいいが・・・」と心配する者が多かった。ところが昨年末から、この心配を裏書きするような作品がつぎつぎと現われてきたし、これからも封切られるものの中にも"残酷"の二字にこだわったような作品が、二、三、にとどまらない。その筆頭にあげられるものは、現在、しばたプロで製作中の『日本残酷物語』だ。
この映画は『世界残酷物語』に似たような企画らしく、日本の矛盾、絶望、非情、異相などを多くのエピソードを通して描こうというもので、なかなかショッキングな場面も出てきそう。いま話題になっているのは、北海道のアイヌのクマ祭りに出てくる、生きたクマをしめ殺すところや、生きたサルの脳ミソを食べるシーンなど。撮影スタッフすら貧血をおこしたという場面が、スクリーンに写されたら、観客はどう受け取るだろうか。
劇映画の方では、近く封切られる予定の東京映画『白と黒』。この映画の中に、絞首台から人間がブラ下がるシーンがある。そこは監督の堀田弘道にいわせると、「幻想シーンで、この映画の中でも最も重要な一つだから、絶対にカットされたら困る」と、映倫カットを盛んにけんせいしている
もう一つ、やはり近く封切られる作品で、東映の『武士道残酷物語』がある。こちらは武家を中心にその代々の当主が、関ヶ原から現代に至るまでの間、主君のため、切腹という名の殉死をくりかえす話。中身は中身として、問題は切腹場面の描き方にあるわけだが、題名に"残酷"の二字をつけたのは、やはり、観客受けを意識してのことだから、いささか気になるというもの。昨年から今年にかけ、すでに封切られた作品の中にも、ゾッとするようなシーンがでてきたものが、いくつかある。まず最近公開された松竹の『無宿人別帳』━頭にオノがグサッとささる。大映の『忍びの者』━拷問シーンで耳をチョン切る。東映の『宮本武蔵』━首が飛び、コロッと下におちる。松竹の『切腹』━竹光で腹を切るシーンなどがあげられる。
ところで、これらの映画に目を光らしている、映倫の意見をここでちょっと聞いてみよう。「映倫としては、できあがった作品の個々について審査するわけだが、シナリオの段階でもあきらかに残酷場面、セックスの場面などを強調し、ことさらな追い方をしていると判断されるときは、すぐやめてくれるよう要請している。ただ"残酷"さはセックスの場合より、一層規制するのが、さらにむずかしい。したがって、具体的事例を一つ一つ踏まえていかないとだめだし、それとても、見る人個々により"ケンオ(嫌悪)の情""残酷感"などの受け方が異なるので・・・」と、苦しい立場を表明している。
いま映倫は、邦画五人、洋画は三人という陣容で審査している。今後は内容ばかりでなく、宣伝広告、題名にまでも目を光らせるというが、特に"残酷" "セックス"といったものについては「映画も時節に相応していかなければいけない。それだけに審査には、今まで以上に手数をかけ、できあがった作品はもちろん、ラッシュも時間があれば何度でもみるようにする。世論を大いに尊重するため、いままでの各方面の意見を整理研究し、ワンカット、ワンカット、さらにきびしく審査していく」と、映倫の威信にかけてもと、着々情報を集めている。しかし、要は、映画を製作する会社そのものが、もっと自戒をもつことと、お金を払ってみる観客も、俗悪な映画に対し、きびしい態度を持つことが必要だろう。々目を出演。 |