大映の『黒い十人の女』が予想外に当らなかった余波をうけて、殺されようとしている企画がある。川口松太郎が“私の生涯の代表作”と意気込んで某週刊誌に連載中の「新源氏物語」がそれ。大映では昭和二十六年に長谷川一夫扮する光源氏で『源氏物語』を映画化して大当たりをとったのに着目して、リバイバルブームにあやかろうと、その再映画化に乗り気だったが、『黒い十人の女』の失敗から、再映画化を見あわすことになったという。

 というのは、『黒い十人の女』にしても『源氏物語』にしても、一人の男をめぐる多くの女性の物語という人物設定が似ているからというわけで、そういえば同様な人物設定の『好色一代男』にしても興行的にはあまりパッとしなかった。それにくらべて『悲しき六十才』『おけさ唄えば』がヒットしたため、「ズンタッタ調に製作方針を切り替える」という同社主脳部の声も出て、どうやら『源氏物語』は、“おくら”になる模様。

 しかし主役光源氏にマークされていた市川雷蔵は、東映で橋蔵がやはり『源氏物語』をやるという話があるので、ライバル意識も手伝ってか、「ぜひともやりたい」と、いつになく意気込んでいるという。

 もし『黒い十人の女』がおもわくどおり当たっていたなら、当然『源氏物語』映画化の話はとんとん拍子にすすんでいただろうから、“変わりやすいは男心と秋の空”だけではなさそうだ。(週刊平凡05/24/63号より)