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好色一代男

名古屋 Y. O.

 “好色一代男”と云うからには、映倫を刺激する場面が多いのは云うまでもないが、これらの場面がいやらしくなりはしないかとそれだけが心配だった。ところが、随分大膽な場面があるにも係らず、少しもいやらしさを感じさせなかった。それはえげつない面もあり乍ら、どこかおっとり抜けていてユーモラスな主人公を演じたからであろう。鼻もちならない筈の行状が、むしろ天真爛漫にさえ見えるのに、何度も吹出しつつ、今更乍ら、雷蔵さんのゆとりある演技力に負う処が多い事を痛感した。メーキャップも苦心の跡が見え、敢えて水も滴る二枚目には仕立てず、素っとぼけた色男そのもズバリであった。

 遊女が客に黒髪を切って与える為死人の髪を購う事を知った時は、流石の世之介もカックンと思いきや、「ど安保」と墓掘りを撲り倒す有様「ど安保」と云えば、世之介が上方訛りなのに、島原の誇り高き遊女が標準語で、而も現代のB.G.如き台詞を喋ったのは幻滅。当時の武士階級を皮肉って、町人の自由な生き方を現代的センスでリアルに描写した意図は良くわかるが、(例えば、浪人同志の詰らぬ果合いが、仇討にまで発展するエピソードをからませたり)言葉にはやはりその時代の遊女という、特殊な環境に住む女性のムードを尊重して欲しかった。そして根本的には「現代センス」の妨げには決してならなかった筈である。

 がめつい親爺さまが亡くなって、前にも増して金に飽かした遊蕩が始まる。大名を凌ぐ贅沢振りを公儀に睨まれ、御用金の調達を拒んだ科で追われる身となる。そうしたなかで展開する、遊女夕霧の体と黄金を天秤にかける場面は、異様な緊迫感を盛上げ、一見とぼけた色男の本当の土性骨を表面に押出している。増村演出は歯切れ良いテンポで、大詰はと観客を引張ってゆく。ラストの日本脱出は呆気ない。丁度、張りつめた綱をプッツンと断ち切られて、尻もちをつかされた様な気分、世之介の求める理想郷が現実に在り得る筈がなく、リアルな描写に徹底し過ぎた為に、ファンタスティックなお話しが浮き上がってしまったのであろうか!!

 少々、シナリオと演出について辛い観方をしたが、現代人の恋愛観、或いは経済観に対する風刺に充分に利いており、何よりも“俳優 市川雷蔵”の実力を示した作品と云える。

好色一代男

熱海 とみ子

 『好色一代男』は必ずしも好評では無い様ですが、私は大変面白く拝見出来ました。第一雷蔵さんが此難しいドンファンに取組んで熱演しながら、厭らしさを感じさせないのが良かった。

 相変らず玉緒ちゃんとのコンビの場面が一番光っているし、又二人共巧い。折角東京から参加の若尾ちゃんが、気が抜けた様な演技はどうした事でしょうか。鴈治郎さんはじめ、大辻さん、浦路さん等共演者が全部好調なのも嬉しい。

 撮影は何時もの事乍ら、秀れていて作品に重みと美しさをそなえている。演出もさすがに増村監督らしく厚みも有り、テンポも速く最後迄あきさせない。ただ世之介の好色を余り表面に出しすぎた為、床室のシーンがくどいので、折角のフェミニスト世之介を汚くしてしまった様です。むやみに裾へ手をかけたり、露骨な場面をさけた方が、若いファンにも親切だったと思います。

 大変難しい題材で、増村さんも本当に御苦労なさった事と思います。これにこりずに又、雷蔵さんとのコンビで是非第二作を拝見させて下さい。今度は増村監督の企画で、雷蔵さんをうんといじめて頂くようにお願いしたいものです。彼の持合せの演技では間に合わないような役は何処かにないでしょうか?そして恐い監督さんにうんと絞って頂くのが私の希望です。 

 

『好色一代男』

東京 Y.M.

 映画に芝居にと、西鶴の好色一代男は数多く演じられてきたが、今迄のどの好色一代男よりも、雷蔵さんの世之介は実に楽しめた。

 女体遍歴に、憂き身をやつす世之介が、ユーモアたっぷりに描かれているので文句なしに面白い。

 私達、女性にとっては、いささか、面映い“せりふ”や“シーン”の連続ではあったけれど、妙に嫌味を感じさせず、むしろこの世之介は世の男性より純情なのではないだろうかと、感じさせるあたりは、やはり雷蔵さんの好演の故であろう。

 時代劇らしからぬ時代劇といえば可笑しな言いまわしだが、巧みに現代的に脚色されているので共感をよぶ。助演陣では、父親夢介に扮する中村鴈治郎さんの好演が光っていた。従来の役柄からぬけでた雷蔵さんの名演技によって、私達を大いに堪能させてくれた。どんな難しい役柄でも見事に演じきられる雷蔵さんの芸達者には改めて感服させられた。