雷蔵がガイドに 若尾、玉緒と “しばらくやヮ”

○・・・ゴールデン・ウィークで日ごろは火事場のような撮影所も休みになって、人気スターたちもちょっと骨休み。大映京都で時代劇、現代劇ともに第一線に立って来た中村玉緒は上京して、三十日午後多摩川の東京撮影所を訪ねた。

 京娘のこぼれるようなイロケを匂わせながら玉緒ちゃんは、初めての東京撮影所をものめずらしく見学、折から撮影中の『歌行燈』で、同じ“京都組”の市川雷蔵先輩の労をねぎらったり、山本富士子、若尾文子らと久しぶりに顔を合わせて「わたしも東京で現代女性を一度演ってみたい」と、仕事のこと、東京見物のこと、おしゃべりはつきない様子だった。

○・・・彼女の訪問を待ち受けていた雷蔵は早速、雨の中を相合傘でガイドに立ってやる。雷蔵も東京での出演は初めてだから、あまり親切(?)なガイドぶりではない。玉緒ちゃんに東京での“空気”をきかれて、「僕は東京より京都の方が水に合いそうだ。だけど年に一本は東京で仕事をしてみたい。気分の転換にいい」という。雷蔵は夜マージャンをやるから、と誘ったが、“好敵手”がテレビ、雑誌の懇談会と時間がつまって、と残念がる。

 『歌行燈』のセットは山本富士子の出番。「しばらくやワ」とお互い京コトバ。演出する衣笠貞之助監督が「玉緒ちゃん、よく来たね」と、どこからかマンジューをひとつ持って来て「ホレ!」。それがおかしいと、玉緒ちゃんが声を殺してクックッと笑いが止まらない。