現代背年の心理の崩壊過程を描く『炎上』

ユニークな日本民話『楢山節考』

 

 『炎上』(大映)は、今年の邦画のなかでは一種の狂い咲きといっていいものであった。腐敗汚濁した世相になお美と理想を求めるから、ついに狂気の状態に至る、現代青年の心理の崩壊過程を描いて市川崑はシャープな演出感覚を随所にみせた。

 これに対して『果しなき欲望』は、物欲に性欲を本能をむき出した人間の愚行を、徹底的にカリカチュアライズしたもの。今井昌平のたくましい演出意欲が、このけったいな残コク物語をともかく描きぬいている所を認めたい。

 『楢山節考』(松竹)は、日本の民話に取材した深沢七郎のユニークな原作を、木下恵介があるいはカブキ様式をとりいれ、あるいは浄瑠璃の語りもの形式を用いて、よく映画の世界に移植した。貧しいおりん婆さんの神のごとき自己犠牲の美しさが、観客の涙を誘い、魂を洗った。

 『赤い陣羽織』(歌舞伎座映画)は、権力者に対する庶民の機知に富んだ抵抗を描いて快笑をよぶ。赤い陣羽織に象徴されるトラの威をかるキツネの姿がコッケイであり、いつの世にも権力をカサにきる人間のあさましい存在があることを、省察させる点だけでも異議なしとしたい。山本薩夫監督。

 『一粒の麦』(大映)は、東北の寒村から東京へ、集団就職する青年達の実態をルポルタージュ式に描いたもの。若い青春群像が、それぞれ自分の力で困難な現実生活をきりひらいてゆく姿が感動的である。吉村公三郎監督。

 『一心太助・天下の一大事』は、新人沢島忠がみずみずしい演出感覚をふりしぼって、講談ダネのストーリーをみちがえるばかりの発ラツたるものにしている。太助の単純至極な正義感の爆発が痛快である。

 『白蛇伝』は、ディズニーの模倣であるとか、独創性にとぼしいとかいう非難もあるが、ユカイな快童パンダ君の活躍部分などアニメーションの苦心がうかがわれ、何より未開拓のマンガ映画部門に新しくクワをいれた努力を買いたい。

 以上この15本の日本映画の花を枯らさず、その芽を新年度は大切に育ててもらいたいものである。

大阪日刊スポーツ 58年12月29日