雷蔵さんにひと目ぼれ

 六月のある日、わたくしははじめて雷蔵さんにあいました。「ジャン有馬の襲撃」に、わたくしが出ることになったのは、この映画の「クララ」という娘の役にわたくしのイメージがぴったりだったとか、きいています。

 伊藤監督にお会いして、打合わせをするために、わたくしは映画の撮影にはいる前、六月のはじめに二日間ほど西下しました。雷蔵さんにはじめてお会いしたのも、このときです。

 市川雷蔵さんというひとは、ひと口にいうならば、わたくしにとって love at first sight(「ひと目ぼれ」という意味)の俳優でした。お会いしたのは撮影所のセットで、雷蔵さんはドウランをぬり、衣裳をつけ、映画のなかの一演技者としての雷蔵さんであって、その後もわたくしは、素顔の雷蔵さんというのは一ぺんも知りませんが、はじめてお会いした瞬間から、わたくしは大きな魅力にとらえられてしまいました。

 わたくしはこれまでに、池部良さんにお目にかかったことがあります。このときはナイトクラブで、池部さんは英語をよくお話しになったので、いろいろおしゃべりし、いっしょにダンスをしたりしましたが池部さんもまた  love at first sight でした。

 魅力のある俳優というものは、もともとそういうものなのではないでしょうか。俳優とファンとの最初のつながりは、ごくしばしば理屈では説明できないところから生れます。

 三船敏郎さんは、わたくしがスクリーンで知った最初の日本映画俳優であり、池部良さんとは親しくお話した間柄ですが、これらの人たちとくらべて雷蔵さんについて語るというようなことは、それはまったく意味のないことでしょう。ということは、それらの人たちは、それぞれ異なった、すぐれた本質をもった人間という俳優さんたちであるのですから、なにかご馳走でも食べくらべするように、これはどうとか、あれはどうとか比較していうことはできないことです。