♪もう幾つ寝るとお正月−剣戟の町ウズマサもお正月が迫って、いまや、撮影所も最後の追い込みに入って、てんやわんやの大騒動!

その大忙しの花形剣戟スタアが撮影所の寸暇をさいて「明星」百万読者に贈るチャンバラうらばなし−笑いあり、涙あり、コッケイあり、初めて公開する秘中の秘の珍談まで飛び出すこのおもしろさ!

☆時代劇は忙しい

浩吉: ああ忙し忙し、やっと間に合った。年の暮は忙しいものと相場はきまってるけど、こう忙しくちゃ眼がまわる。(笑)

雷蔵: まったくですね。よくこれだけ集まれましたよ。

浩吉: さすがは明星だね。おかげで珍しい人たちに会えて、お礼をいわなけりゃ。

千代之介: 千原さんなんか六本かけもちですからね。あの細いからだで。驚異ですよ。

しのぶ: これで案外モチはいいのよ。柳に風折れなし、っていうでしょう。(嵯峨さんに)ねえ。

三智子: そうよ。ムダは全然ないんだから。(笑)

新太郎: だけど千原さんは、ちょっときいたところによると、ご飯を全然食べないんだってね。(笑)

しのぶ: まさか・・・(笑)まるっきり食べなきゃ死んじゃうわ。(笑)でもほんのちょっぴりね、ご飯は。

新太郎: で、あとは?

しのぶ: あとはジュース。

新太郎: とても駄目だ。もたないよ。(笑)

雷蔵: 食べなくて寝なかったら、僕らは駄目だな。せめて食べるぐらいは食べないと、こっちは毎日夜の目も寝ずに・・・

三智子: マージャンやってるんでしょう。(笑)

雷蔵: じょ、じょうだんじゃないよ。あんまり変なこといわないでよ。まるでマージャンばかりやってるみたいで。

三智子: あら、それじゃまるでやらないみたい。(笑)みなさん!証明書を発行します。いまのところはたしかにマージャンどころではありません。ただし、いまのところだけです。(笑)

雷蔵: ここんとこ四日ばかり徹夜の連続ですよ。朝九時にセットへ入って、あくる朝の九時までぶっ通し。それから朝めしを食べてまたやる。少しも寝ないんですよ。お正月に間に合わないから。

新太郎: 僕がセットに入ったら雷ちゃんの方がどんどん進んでる。「随分早いね」といったら、「昨日からやってるんだよ」(笑)それじゃ早いわけだ。(笑)「月形半平太」のときも、朝の六時になり、お昼になって、それでもまだ終らなくて晩になった。もうふらふらでしたよ。

浩吉: 衣笠先生(貞之助監督)自身がそれできたえた人だからね。

三智子: いつ寝るのかと思うくらいね。

浩吉: 下加茂時代にはそれが名物だった。(昔浩吉さんが初めて映画入りしたのが、下加茂に撮影所があった衣笠プロ)衣笠連盟のマークは“梟”なんだよ。梟は夜寝ないものね。(笑)

新太郎: まったく凄いあの先生は。「用意、ハイッ」とやりながら、握りめしなんかパクパクやってる(笑)

雷蔵: 監督さんが平気な顔してるから、こっちも平気な顔しなきゃならないし、衣笠先生ぐらいになると、人間でないみたいだね。

浩吉: 僕は寝が足りないと、すぐ眼が赤くなるから駄目なんだ。ことに天然色なんかだと困るしね。

しのぶ: 私も困るんです。ライトがきついでしょう。すぐ眼が赤くなるの。「怪談千鳥ケ淵」のときなんかも真っ赤。ウサギのおめめみたいになっちゃう。

新太郎: じゃ、悲しい、泣くような場面はいいですね。すぐ赤くなって・・・(笑)

千代之介: 僕はどんなところでも、ごろりと寝ころぶとすぐ眠れるんでその点便利です。いよいよとなると、立ったままでも寝ちゃう。(笑)