「ぼく、前から寿美さんのファンでね・・・」と雷蔵さん

脱ぐのに便利な・・・

寿美: むずかしい役だわ、藤壺の役って・・・。光源氏の父である帝の想いものでいながら、光源氏に烈しく恋される女ですからね。その女らしさと、哀れさをどのように表現するか・・・

雷蔵: ぼくのほうは亡き母の俤に似た藤壺を、父の想いものでありながら慕うという、特殊な立場ですからね。藤壺のほうは、いけないいけないと思いながらも、やはり光源氏の慕情にまけて、ズルズルひかれてしまうわけだ。だから、源氏に逢って、避けるときなども、なにか消えていくような感じで避けるんじゃないかな。それでいて、心の底にある本当のものは、すごく強いんだ。

光源氏にしたって、つぎからつぎへと女性遍歴を重ねるわけだけど、ただ遊ぶだけじゃ、つまらない浮気男になってしまう。やはり永遠の女性を求める真実さとか、もののあわれってものが表現されなければダメですよ。

しかし、はっきり言えることは、恋愛感情というものは、いつの時代でも変らないってことでしょうね。そう思うんだけど、あなたは。(といいながら寿美さんをみつめる)

寿美: さあ、そのほうはあんまり。(笑)

雷蔵: 近ごろのガールハントやボーイハントとよく似てるよ。あんまりよく知り合わないのに、さっと会って、すぐデキちゃう。(笑)

寿美: もし、私が藤壺の立場だったら、つらかったでしょうね。

雷蔵: ああいうことは、けっしてあり得ないことじゃないですよ。そういう点でも、現代人に、じゅうぶん共感を得られるんじゃないかな。

寿美: だから単なるコスチューム・プレー(歴史劇)に終ったらつまらんわけね。

雷蔵: でも、衣裳の着替えは大変だ。二十枚くらい着替えるし、脱いだり着たりに三人はいるもの。

寿美: 十二単衣って、はじめてきたけど、あのころの衣裳って、胸のまえをスーッとあけてあるんですね。

雷蔵: だから、脱ぐのに、ずいぶん便利がよくなっていたんだ。(笑)あのころの人は、いろいろ“手間”がはぶけたでしょうね。