女の人を一つのタイプにはめこむのは危険−そうはしたくない、と語る雷蔵さん

 正月作品『二人の武蔵』で先輩長谷川一夫と対決した市川雷蔵は、続いて本年は西鶴の「好色一代男」と山崎豊子の「ぼんち」に取り組むそうだ。

 初の現代劇『炎上』で1958年度のブルーリボン賞を獲得した雷蔵の演技は、ますます油が乗ってきた。その演技派雷蔵の唯一の欠点は、まだお嫁さんがないこと−彼には意中の人がいないのだろうか。


縁談は事実あった

 1959年もあと一日という十二月三十日、大映の人気スター市川雷蔵はハワイに発った。わずか一週間の滞在だが、のんびりワイキキ海岸で休養してくるという。

 「アメリカなんか行かぬほうがいい。理由はわからないが、アメリカに行ってきた俳優で、演技が伸びた人は一人もいない」 という衣笠貞之助説もあるが、ともかく、仕事を忘れて、遊びたいという。

 「寒い正月に水泳パンツで過せるんだから、ちょっとした話のタネになるよ」 と雷蔵はしごくのどかな表情。

 混雑する空港の片すみで一問一答。

  −ハワイははじめて? 
     もちろん。外国はどこでもはじめてさ。
  −結婚説がとんでいるけど、それをカバーするためじゃないの。
     結婚・・・ボクのほうから聞きたいくらい。だれが結婚するの。ボク?驚いたなア。まあ、そういう話
     は帰って来てから。

 この雷蔵の結婚説というのは、あながち根拠がないことではない。去年の春ごろ、市川雷蔵に縁談が持ち込まれた。相手は長谷川一夫の愛娘、小野道子である。最近、歌手の青木ヨシオと婚約した小野道子には気の毒だが、もう少しこの結婚説を詳しく述べると−。

 一昨年のある日、大映の永田社長はイライラした表情で社長室の中を歩き回っていた。

 「そうだッ!」 彼はつぶやいて、ニッコリした。

 「長谷川一夫と血縁関係を結ばせれば、まず雷蔵も一生大映を離れはすまい。長谷川には愛娘の小野道子がいたっけ・・・」 というのは、そのころ大阪歌舞伎は極度の不振で、大黒柱の中村鴈治郎までが、歌舞伎界に愛想をつかして大映入りしていた。

 そこで大阪歌舞伎界は、若手の奮起を望むとともに市川雷蔵の復帰説を持ちだした。

 「雷蔵を映画に置いておくのはもったいない。あれだけの男は歌舞伎で大成するし、その才能も実力もある。ましてや、長老寿海の養子ではないか」 というわけである。

 この寝耳に水の話に、驚いたのが永田社長。長谷川一夫に次ぐスターとされている雷蔵に出られたんでは−と、前記、小野道子との政略結婚を思いついたのだそうだ。