おまえ、結婚はまだ早すぎる!

 ここでちょっと、映画会社の“スタアの結婚妨害史”とでもいったものにふれておこう。はっきりいって、B子さんたちのいわゆる“ケンポー違反”的行為はすでに旧憲法時代の昔から映画界の常識になっていたようだ。

 げんについ最近、日本教育テレビの番組「夫と妻の記録」の中で、自ら受難史を語った二人の“証人”がいる。

 一人は、“永遠の青春スタア”上原謙。2月8日の夜、彼が述懐した証言によれば・・・昭和11年秋、当時人気絶頂の二枚目スタア上原謙が、同じく松竹の花形女優・小桜葉子との結婚を決意し、城戸撮影所長(現社長)のもとへ相談に行った。このとき城戸所長は「人気を捨てるか、彼女を捨てるか」と剣もホロロの態度。しかし上原は「二枚目は結婚できないのなら、私は俳優をやめます」と強硬に抵抗、ついに小桜との結婚にゴール・インし、スタア同士の結婚第一号のタイトルを獲得した。そして現在も、上原家の円満ぶりは名高いものがある。

スタア結婚の喜びと悲しみを語る上原謙夫妻

(2月8日 日本教育テレビ「夫と妻の記録」より)

 いま一人の証人は、同じ番組で上原より一週間早く証言台?に立った飯田蝶子。 「娘役時代にカメラマンだった茂原と恋仲になりましてね、ところが会社側の天下晴れてのお許しがなくて、こっそり結婚式をあげて同棲したもんですよ。私のような者でさえ、そういう状態だったんですからねぇ・・・」

 映画評論家・南部僑一郎氏の表現にしたがえば 「古今東西、妨害なしに結婚した映画スタアは皆無だろう。ぼくも現場に居合わせたことがあるから知ってるが、スタアから結婚相談をうけたとき、会社の重役が答えるセリフはきまっているね。それは・・・“おまえ、結婚はまだ早すぎる”だよ」

 また“結婚した二枚目は人気が落ちる”というジンクスも、過去の事実が証明するとおり。長谷川一夫にこのジンクスが通じなかったのは「大師匠(初代鴈治郎)の娘と政略結婚させられた」というファンの“同情心”があったからであり、先ほどの上原謙の結婚のカゲには「上原が急性肺炎で入院した時、献身的看護をしたのが小桜葉子。その時以来、二人は・・・」tの宣伝部製の美談がひめられている。

 こうした例外をのぞいて、人気暴落のジンクスをおそれるスタアと会社側が、共同工作して結婚をヒタ隠しにしてきた例は枚挙にイトマがない。戦後、ある二枚目スタアが結婚するとの噂がとんだとき、ある映画ジャーナリストのあいだで、こんな会話がかわされたそうだ。

 「こんど○○が結婚するよ」 「え、誰とだい?」 「きまっているじゃないか、○○のカミさんとさ」−まったく、笑うに笑えぬオトシバナシではある。

 「裕次郎のばあいは、細工がたいへんまずかった。彼にかぎらず、スタアとファンの関係は、暗がりの映画館では一対一の関係だ。そこでファンは、スタアをペット視することになり、自分のペットが他の女性に独占されるのは、我慢がならないのだろう」

 こうした診断をくだす南部僑一郎氏は「やはり映画俳優は、結婚のジンクスにこだわらず、あくまで写真で勝負してもらいたいものだ」と、映画界の現状にはなはだ遺憾の意を表明している。