ケレン味のない誠実さ

 

 性 格

 第九回ブルー・リボン賞主演男優賞に輝く市川雷蔵さんは、万年二枚目といわれる長谷川一夫さんに年齢的限界が云々され始めた昨今、その跡を継ぐ唯一のホープと目されています。

 雷蔵さんが「人一倍の勉強家で、ネバリ強い」ことは、中村扇雀さん、坂東鶴之助さんなど武智歌舞伎の同門でいっしょに仕込まれたスタアたちがひとしく認めるところです。正攻法でたくわえた実力がパッと一時に花咲いた感があり、今後も物事すべてがトントン拍子に運ぶでしょう。目標を定めて大いに発展すべき時期なのです。強い意志の持主である雷蔵さんには、それは決して不可能なことではありません。やたらにイキがってみせたりする時代劇の若手スターなどとは違って、雷蔵さんにはケレン味とか当てこみといったものがありません。関西歌舞伎の大御所である養父の市川寿海さんも、実父の市川左団次さんも、実直な人柄なので、雷蔵さんもまた、演技の上での誠実さ、行儀のよさは抜群です。

 それでいて「やるぞ!」という気魄はあふれんばかり、仕事への情熱にはすさまじいものがあります。撮影中、自分に納得のいかないことがあれば、あくまで監督さんに訊ねて、合点がいくと実に素直に従い、忠実に云われた通りの演技をするというふうです。

 おしゃべり型ではなく、云うべきことはちゃんと主張するシンの強さがあります。しかし批判精神はいいのですが、理論倒れにならないように注意する必要があるでしょう。

 同時にまた、金銭問題にあまり心を惑わされてはけません。それは「目先の利欲に迷うと取り返しがつかない」ということばかりでなく、思わざる散財が多くなるからです。人道に反しない限り、不必要な義理人情にわずらわされないようにしましょう。

 雷蔵さんはひどい近眼なので、フチの太いオート型眼鏡をかけ、背広に下駄など突っかけて京の街をブラつく気さくな一面 − つまり若手の時代劇スタアにめずらしい男性的な骨っぽさと、案外な茶目ッ気をも持ち合わせているのです。

 そのことが雷蔵さんをいっそう親しみやすい、スタアぶらないスタアにするのに大いに役立っています。ユーモアは雷蔵さんの長所の中でもとくに貴重なものです。