マゲ姿 バリバリの近代人


映画はゴマカシ?

 雷蔵 どうです、刀とバットとどちらが重いでしょうか。

 −そうですね、やはりバットのほうが重いような感じがしますよ。先が太くて重いからかもしれませんが・・・

 雷蔵 バットの方がやはり軽いんじゃないでしょうか?刀ってものは、なるほど先から手前まで切れるようになっていますが、ボクは撮影で日ごろ扱っていると、どこでも切れるというわけにはいかないものだと思います。大体刀で切れるのは、先の三寸ぐらいのものではないでしょうか、それより手前になると、むしろたたっ切るという感じで、バットと同じようになぐってしまうのでしょうね。実戦ではむしろ、敵を突くというケースが多かったのではないかと思います。

 こんな具合だ。理詰めでおして、自分の体験から割り出し、一般の説というものに対して自信を持って反論するという行き方。 これがとりもなおさずこの人の初現代劇『炎上』におけるリアルな演技となり、見る者の胸を打つことになったのだと思う。余談になるが、ここまで雷蔵さんと話したとき、監督の田坂さんがそばに来られ “なに、刀の話、ああそうね、それじゃ” といいざま“オイ、だれか出て来ないか、ちょっと来てくれ” と大声でどなられた。何ごとかと思ったら、なんと試し切りになるものはないかということ。ここでスタッフ一同大笑い。

 このあたりで目を移して、スタジオ内部というものをみてみよう。映画というものがいかにごまかしが多いかということはよく分かった、しかしそれにしてもうまく出来ている。例えば深山幽谷の一本の大木だ。裏からみると何と丸太を五本も十本もまるめて、表に杉の皮をかぶせただけというしろもの。大木がこうして作られるなら、小さな木はステージの天井からわり下げられて、足がないという幽霊セット。タネが分かればバカくさくて仕方がないようなものだ。