雷蔵放談
寄らば切るぞ


こわい女性ファン=(4)=

ツネる蹴るの乱暴

 御用提灯のむらがる真っただなかへ、僕は白刃をかざしておどりこむ。そして捕吏をバッタ、バッタと倒していく。このときの気持ちのいいこと、スカッとするねェ。こんなに強い僕だけど、弱いものが一つあるんだ。女なんだ。女のファン・・・これには弱いねェ。女性ファンの心理というものはまったく複雑なもんなんだ。最近つくづくそれを感じたよ。

 僕のこんどの作品は『ジャン有馬の襲撃』ってんだけど・・・その打合わせで撮影所へいったんだ。車をおりると、正門のかたわらに観光バスが三台とまっていた。毎年いまごろになると、見学者が実に多い。どこからきたんだろう?なんて軽い気持でバスの近くをとおっていくと、次の瞬間、若い女のひとたちにワッととりかこまれた。

 ここまではいいんですよ、まずまず無難だった。あとがいけません「雷ちゃァん」てなもおんで、ラグビーみたいにタックルされちゃった。それが一人や二人じゃない。五人も六人にも。なかにはさ、「あたしの雷ちゃん」なんていう人もいた。そう思ってくださるのはありがたいんだけどさ、大勢のひとのなかで、とくに一人だけのひとに「私の雷ちゃん」なんていわれると、テレます。まるで特別の関係でもあるみたいじゃないですか。むかし「私のラバさん・・・」って歌があったよね、そのひと、そんなつもりで「私の雷ちゃん」なんていったんかしらん?ともかく、ぼかァ赤くなっちゃった。そういうことは僕と二人きりでいるとき、そっといってちょうだいな。

 さて、このあとですよ僕が強調してお話したいのは。うしろの方のひとが僕の腰をいやというほどツネった。そうかと思うと足をけとばす。痛いッと思わずうつむくと、こんどは髪をひっぱる。背広の胸に入れておいたハンカチを強奪する。ネクタイをひぎれるばかりにひっぱってはなさない。いやはやさんざんな目にあった。そこで僕は、どうして女のひとにこんないじめられねばならぬかと考えた。多勢に無勢、かよわい男性をいじめないでチョーダイよ、と叫びたくもなった。しかしここで僕が怒ったり、泣いたりしちゃァいけない。相手のひとたちは、みんな僕のファン。こうされることをありがたく思わなくちゃァ役者も一人前じゃァない、・・・僕はこうさとって「エヘヘヘ・・・」と笑ってみせた。

 こうなると役者なんてマゾヒズムの傾向を身につけなくちゃァいけないな。ツネられ、ブンなぐられて「ありがとうね」・・・。捕吏たちに強い僕だけど、さァ、女性ファンはとてもじゃないけど、カツドーシャシンみたいにバッタ、バッタと切るわけにはいかんのです。