足りない東京の空気

谷村 一応一通りの役はやってしまったわけだね、もう・・・。

伊沢 町人、やくざ、大名をやったわけだよ、武士を含めて・・・。その中でも一番おかしくないのは、やくざだと思うんだよ。着流しでね、帯を横にしめて、パッと坐った位置は、キレイだね。そういうあてはまったヤクザの哀愁劇みたいのがあったらいいと思うナ。だから山中貞雄のような監督が出れば、スタアになれるね。内田吐夢さんに一回やって貰うといいんだよ。

谷村 それとこの人の気になるのは、ときどき東京の空気でも吸いに来たほうがいいと思う事だナ。というのは、衣裳の好みがよくない。お祭だ。そもそも衣裳に注文をつけてるか、どうか知らんけれども、時代劇の俳優なら着物の柄とか、そういうものに神経を使わなければいけない。これは時代劇の根性にもつながるものがあるんですよ。それがこのごろの「鬼切り」「綱渡り」、「又四郎」なぞをみてると、ちょっと衣裳の選択に注意したらどうやろうと思いますね。

早田 これは時分で、決められるの?

谷村 あのくらいになれば、時分できめられるよ。必ず衣裳合わせをして、衣裳合わせのものでなくても、新しく作ってると思うんだ、彼の場合は・・・。だからその際は、注文がつけられる。

早田 そういう点からいうと、東京の空気が足りないということになる。

谷村 大映もいろいろ試験期間として、同じ大名をしながら、大名がやくざの形になったり、一方の形で作品を見せる手を使っているね。

伊沢 その点で、大映京都のヒネリ方は、好きだよ。

早田 あの人は、破綻がないね。だから面白くないという逆説も成りたつけれども。

谷村 秀才という感じだね。

伊沢 生活の点では案外どうか分らんけれどもね。

谷村 いや、なかなか真面目らしいよ。祇園でもそうわるい噂をきかないし、女優さんとのスキャンダルもないし・・・。

早田 それで「新・平家」のような荒事みたいなのをよくやったね。

谷村 よくやった。

伊沢 しかしあれはちょっとカタくなったんじゃないかな。

谷村 溝口大先生の前だし、役も役だし・・・。

伊沢 京都でチヤホヤされてると、−京都というのは大体、一地方都市だから、ファイトがずれるね。ちょっと東京の空気を吸わないような気がして・・・。