「ごめんなさい、ずいぶん待った?」
「ううん」
「どうしたの?おこってんの、あやまっているじゃない」
「ちがうんだよ。月があんまりきれいなんで、こんなにお城が荒れはてていなかったころのことを考えていたんだよ」
春高楼の花の宴
めぐる盃かげさして
千代の松が枝 わけいでし
昔の光 今いずこ 
 草むらで虫がチロチロすだき、梢を秋風が渡って行く苔むした城跡で、昔をしのぶ二人の口から、あのなつかしいメロディーが溢れると、月はますます美しくさえわたり、あたりを明るくてらします。