衣の篇

洋服はほとんどが背広ばかり、それもオーソドックスなものが多く、スポーティなものは余り着用されないそうです。色は紺、グレイ系統がお好きで茶色のものが少しある程度。お仕立は、撮影所近くにある洋服屋さんが何か変った生地が入るたびに見せにくるので、その中から気に入ったものを選んで注文するそうですが、最近は季節毎に二着程度、年に五、六着は新調するというから相当の洋服マニヤです。というのは今まで歌舞伎にいたころ作ったものが、どちらかというと地味なものが多かったので、とくにここ一、二年は新しい型のものを次次に新調していったということです。

驚くなかれ、背広を全部合せると六十着余り、上着だけのものでも十着、替ズボンなら二十本余りもあるそうですから、それは大へんな数になります。女中さんが勘定してみたら洋服の箱が八十幾つもあったというから雷蔵さん本人はとても覚えきれないほどの数量です。しかもそのほとんどが渋好みのもので、たまにチェックや細かい縞のものが混っている程度です。

型も昔はダブルを好んで着たそうですが、最近作るものは全部がシングルばかりだということです。ネクタイは百二十本ほどありますが、常用しているのはその中の五、六本ぐらい、自分の好みに合ったものがあれば町で買ってきますが、半数は頂いたものだそうです。最近ではオープンシャツを愛用して、ラフなスタイルで外出することが多いので、昔ほどネクタイを使用しなくなりました。季節別にその数量をたずねてみました。

 背広七着(舞台用の白二着、藤色二着、紺二着、茶薄一着、薄藍一着)替えズボン十着、ポロシャツは特にお好きで二十五、六枚ありますが、外出すると必ず買って帰るそうです。時には気に入ったものがあると一度に五枚ほど買うこともあるという位で、人にあげる前は五十枚余りもあって女中さんが整理に困ったということです。靴下もまめに買う方で、夏ものが三十足、冬ものなら五、六十足はあるそうです。その代り帽子は全然被ったこともないので皆無ということです。

 背広二十五着、オーバー二着、マフラー五本、ジャンパーは紺のバックスキンのものが一着ありますが余り着用しないとのこと。セーター六、チョッキ五、手袋は紺と茶、何れもバックスキンのものがお好きなようです。ワイシャツは主に白で一部柄ものも着ますが一ダース位。スポーツシャツはお好きで、毛のものが二十枚ほど、思い切ってチェックの派手なものをお用いになるそうです。

合物 背広は冬物も全部背抜き合冬兼用のものが多いようですが、とくに合物といえば、派手な感じのものが五、六着、合コートは鶯色のもの一着、レインコートも薄色で一着、マフラーはデシンのものが五本。靴は黒二足、白二足、茶色四足、鼠色一足、白茶コンビ一足、紺のバックスキン一足、合せて十一足ということです。ハンカチは麻の白が多く、柄物は五、六枚ある程度。

和服 着物は歌舞伎にいた時分から一通り揃えていたそうですが、紋付二組、袷十枚(お召が多い)、単二十枚、浴衣十五枚(主に部屋着で外へ着て出ることは余りないので派手なものが多い)角帯十二本、へこ帯四本、草履五足、下駄三足。家ではほとんどが和服で、カスリを愛用しているそうですが、現在は雑誌社の写真のためにこれらの和服を準備したようなものだということです。