森 はアいいことを伺いました。そういえば若狭之助では、横顔ばかり撮られたようです。
雷蔵 そうでしょう。そうでしょう。僕はまだ大曾根監督にはお目にかかlったことはないのですが、人から伺ったお話しでは、抜てきした門下のようなスタアを大変可愛がるが、それが少し可愛がりすぎる傾向があるそうですが、森さんなどは−
森 ほんとうに可愛がって下さいますが、そうあわてることはないといって−総て寛大すぎますので何から先に勉強していいか手順がつかずマゴマゴしています。
雷蔵 あなたも時代劇のスタアになった以上、時代劇のスタアとしての勉強は絶対必要ですネ。殊に勉強する時期はいまですね。なまじ役がついて主演スタアにでもなったら、もう勉強が出来なくなります。僕なども、もっと勉強したいものが山ほどあるんですがあとからあとと、仕事がつまっているので、勉強どころでなく、その日その日の撮影でクタクタで勉強する暇が得られません。
森 それはすでしょうね。僕など遊んでいる暇に勉強と思ってはいますが、何から先に手をつけるかとなると、迷ってしまいます。この点、雷蔵さんにご教示を乞いたいものです。
雷蔵 時代劇のスタアとして、まず立廻りのしっかりした基本を身につけるべきでしょう。それには日本舞踊も大切です。腰のすわりや身体の決りを整える点で日本舞踊は大きな基本になります。台詞の発声法を完ぺきなものにするにはまず義太夫の練習が必要です。清元とか小唄とかは、基本が出来てからの余技です。
森 僕は学生時代フェンシングを一寸やったことがあるんですが片手に刀を持たされる立廻りなどさせられると、つい刀を持たない方の手があがってしまって、ピョンピョンとびあがるような型になって冷汗かきました(笑)
雷蔵 フェンシングでは全然基本がちがいますネ、剣道をやった人でも、立廻りになると勝手がちがうのです。型の美しさに重点を置きますから、やはり日本舞踊からくるものが多いのです。
森 映画スタアで、大器晩成型という人がありますか。一寸参考にご意見をお伺いするのですが。
雷蔵 外の社会では知りませんが、芸能界では大器晩成型というのは実際にはないと思いますネ。ただ自分の持っている天分を自分も知らず人も引出して呉れなかったものが、あるチャンスがあってその天分を見出されるという場合もありますが、元々から片鱗がなくては、大器晩成にも成り得ないと思いますネ。森さんなどお世辞ではなしに、ほんとうに今からその片鱗を持っている方だと思いますネ。
森 ほんとうでうか。兎に角雷蔵さんから、そういうお言葉を頂いただけでも身に余る光栄です。