珍らしい褒め合い


雷蔵 ところで、今度の『大江山−』では、残念ながら、われわれ二人の間に恋愛がありませんな。

山本 そうね。愛し合うというような仲じゃないんですね。私は長谷川先生の酒天童子を夫として愛しているし、雷蔵さんの頼光は、玉緒ちゃんのこつまを愛しているんだし。

雷蔵 関白道長から、頼光の妻にと払い下げ(笑)されるんだけど、二人の間は清いものです。

山本 渚ってのはどういったらいいのかしら・・・。つまり、女のあわれさとか悲しさを一身に背負ったような女性ですね。いつも何か沈んでいる、感情を抑えつけた、いわば静の演技とでもいいましょうか、むずかしいわ、とても・・・。

雷蔵 頼光の方は、源氏の大将として、酒天童子と対立する人物として描かれているわけで、強いことも強いが、一寸インテリなんだな。多少近代性もあって・・・。

山本 丁度、雷蔵さんみたい。(笑)

雷蔵 (ちょっとおどろいて) え?

山本 雷蔵さんって、とても頭がよくって、近代青年という感じでしょう。お仕事の方も近代的にちゃんと割り切ってらっしゃって、それでいてどこか古風な伝統のよさが漂っていて・・・。

雷蔵 (お付きの人に)お関さん、夕食に山本さんのとこへ、上等のビフテキをいっといてくれ(笑)

愉しみな『歌行燈』

山本 『歌行燈』も張り切ってますのよ。

雷蔵 そりゃもうぼくだって。能とか仕舞といえば、一般的でないかも知れないが、その芸を通じて、男女の愛情の物語を描くものだし、それにぼくのやる恩地喜多八という役は、本当の意味での二枚目というのがあてはまる人物だし、大いにやし甲斐がありますね。

山本 これまで雷蔵さんと御一緒の時代劇では、どちらかといえば娯楽物が多くて、強いていえば、文芸物では『朱雀門』と『浮舟』くらいだったでしょう。かねがねから、一度雷蔵さんと現代物をやりたいと思っていたのが、明治物でもかつらのない雷蔵さんとはじめて共演出来るのは本当に楽しいですわ。純粋に男と女との話で、その二人を追求したものですから・・・。

雷蔵 同感ですね。原作は鏡花、監督は情緒派の巨匠衣笠先生。そして、片や、日本一の美人で、日本一お色気のある女優さんを相手にしては・・・(笑)

山本 ビフテキ、もういいわ(笑)

雷蔵 ・・・ぼくたるもの、大いに意欲を燃やさざるを得ませんな。

山本 それにね、『湯島の白梅』以来、衣笠先生の明治物は、『白鷺』『じ情炎』そしてこの『歌行燈』と、四本とも芸者の役なんですけれど、これまでのは、みな最後は悲恋に終って死んでしまったのに、今度はじめて死なないで、恋が結ばれるっていうのもたのしいですわ。しかもその相手が日本一の・・・(笑)

雷蔵 口のわるい雷蔵さん?(笑)

山本 まア、そんな失礼なこと、いわないわ。たとえ、お腹の中で思ったって・・・(笑) あら、何と云おうと思ってたか、忘れちゃった(笑) 雷蔵さんはお能とか仕舞ってお好き?

雷蔵 ええ、自分でやろうとは思わないけれど、幽幻といおうか、あのおごそかな雰囲気はいいですね。山本さんはどうなの?

山本 そうね、やっぱり習うのなら、踊りの方がいいわ。大体、仕舞ってあまりお色気がないし。

雷蔵 あなたがやれば、イヤでも出来ますよ。

山本 (笑)そんなのないわ。色気のある仕舞なんて・・・。