なぜ結婚しないのか

 ところが現実の問題として私のように仕事一つに打ちこんでなんとか今日までやってきた人間、そして、仕事に追いかけられている現在の私にとって、仕事と同じ量のエネルギーを結婚に注ぐということはほとんど不可能な状態で、案外、私は、一生を独身で通さねばならぬことになるかもしれないと心細くなり始めているのです。

 ですから、私が、いま、一番望んでいることは、ムジュンしてるようですが、そんな仕事のことなどは完全に忘れてしまって、愛情ひとすじに打ちこめるような素晴らしい女性にめぐりあいたいということです。

 もし、私の前にそういう女性があらわれて、スイート・ホームをきずきあげることができたら、どんなに幸福だろうかと私は考えています。

 では−その素晴らしき女性とは、どういうタイプの女性か、ときかれると困ってしまうのです。私も現代に生きる男性のひとりですから、結婚の相手としての理想的条件の数々?−若くて美しくて優しくてエレガントで、近代的でチャーミングで健康でスタイルがよく、頭がよくそれでいて決してリコウぶらず、趣味豊かな女性・・・といったように、いくらでもあげることはできます。

 しかし、そんなことを言ったとしても、実は、それ自体何の意味もないことだと思っています。なぜなら、私たち男性がひとりの女性に強く心をひかれるのは、その女性の長所と共に欠点にもひかれるから・・・。いや、そういってしまうのはほんとはまちがいで、私たちが或る女性に愛情を感じるのは、その女性から発散する不可思議な魅力のとりこになるのですから、私は、あらかじめ、自分は、こういうタイプの女性が好きだというようなことを頭の中できめてしまわないで、何の先入観もなく会って、心をひかれ、つきあううちにますますひかれてゆく女性が、素晴らしい女性だと思っています。

 それが最も人間らしい愛情の持ち方ではないでしょうか−。