スタアの人気の秘密をブロマイドから推理するお馴染み斎藤五郎さんのお話を

笑わない机竜之助

「雷蔵さんですか?そうですね。あの方は映画界にデビューしたときからのおつきあいですね。ひばりちゃんと共演した『お夏清十郎』がはじめてでしょうか。たしか京都の下加茂の撮影所でクランクしていたんじゃなかったでしょうか。あの当時からザックバランの性格で、私どもにも大変協力して下さったもんですよ・・・」

東京は下町、浅草に四十年余りの歴史を誇るブロマイドの専門店マルベル堂さんの通称五郎さんこと斎藤甲子五郎さんは、その頃を回想して、しみじみと語るのです。

「とにかく人間的によく出来た人だなと、デビューのころから感じましたね。裏方さんのウケは最高に良かったです。われわれがブロマイドの写真を一枚とるにしても、その役がらにピッタリしたムードを出してくれるんですよ。たとえばの話ですが、『大菩薩峠』の机竜之助のブロマイドをとるときは絶対に笑顔はしてくれない。こちらで営業用の笑をお願いすると『机竜之助が笑ったんじゃ、サマにならないよ・・・』といって、それはたいへんな剣幕で反論するんです。そういっちゃなんですが、これほどハッキリいわれるかたはそうザラにいないんじゃないですかね。ちょうど錦之助さんとよく似ていらっしゃいます・・・」と言葉をつぎます。

−こんど橋幸夫さんと共演するんですが、いかがでしょうね?と水をむけると、

「私どもがなんだ、かんだというのもおこがましいかも知れませんが、もっと早く共演すべきじゃないでしょうか。お二人ともよく似てますね。こうしてブロマイドに写った写真を二枚並べてみると、それほど似てないかもしれません。しかし、身体の動きの一瞬に、これは似ているぞ、という感じを度々うけますね。とくに、うしろ姿なんかはよく似ていますよ。雷蔵さんがメガネをはずしたときの眼の感じと、橋さんの眼とが、不思議に似ていますね・・・」と二人の共通点をあげてくれます。

「そうそう、もっと似てるのは、雷蔵さんのデビュー当時、ニキビが多うございました。ちょうど橋さんも昨年の暮あたり、ニキビが多くて写真の修整に苦労しましたけど、修整しながら、こいつはよく似ているわいと、つくづく感じましたよ・・・」と大きく笑うのでした。