長谷川 そのあとで、薫に逢って云うだろう。「宮様はキライですッ、あの時、私のこの体を、はっきりとあなた様のものにして下されば・・・」とネ、キライな男でも強く押されてしまうと、女というものはそんなにモロくなるものなの、あたしは経験がないからよう判らんけど、どうや雷蔵君。

市川 え?し、知りませんよボクだって、この映画だけですよ。ドン・ファンになるのは、ヒドいよ先生は。(笑)そんなことはやはり女性にきくべきですよ。

山本 ただ単に、押されたからッて、そうモロくくずれるもンじゃないと思うけどネ。だけど、浮舟の場合、たった一つの支えである薫の君が、ただ心だけの結びつきで何かこう一つ、しっかりすがりついてゆけるものを与えないでしょう。その上結婚話なんかきけば、動揺するのは当然ですワ。また匂の宮にも、一がいに拒み切れぬ権力があるでしょう。こんな気持ちは、判るような気もするんです。

長谷川 うん、そうだろうネ、薫としても、あまり清く、理想だけを大切にしすぎていたかも知れんなア。それだけに打撃も大きいわけや。女心のビ妙さが判らんわけではなかったが、やっと見つけた珠玉を大切に育てようとしたわけでネ、でも、そのあやまちを、生命を絶ってつぐなった浮舟の姿は、肉体が消滅しても、薫の胸の中に永遠に残っていると思う、精神的な恋の根強さとでも云うのかネ。この点匂の宮のゴ感想はどうや。(笑)

市川 ざんきに耐えませんヨ(笑)結局ボクの匂の宮は、この作品の中だけでも、二人の女性を死に導くわけですからネ。一人は右近少納言の妻早蕨で姦通してその夫に斬り殺され、そして浮舟の死も、直接の原因は、ボクにあるんですよネ。そして肉体を得て、自分のモノにした確信が、浮舟が死に臨んで薫大将に遺した檜扇に「浮舟のいのち、薫の君さまへ」とあるんですからネ、ニクまれ者のその上に、ラストには結構三枚目にされちまった。(笑)これで、匂の宮のドライでイージー(安易)な生活様式にも多少の変化がもたらせられるんでしょうネ、でないとスクわれませんから・・・

山本 女の、悲しいレジスタンス(反抗)なんですヨ、それ以上に浮舟が感じたことは、いくら肉体が犯されても、精神的なきずなの強さを自覚したという点じゃないでしょうか。この点、好きでもない男の人と、ヘンなひっかかりだけでズルズルと暮らして女性よりも、かえって強さを持ってたんでしょうネ。私としては、二人の男性に対する浮舟の、つまり精神的なものと、官能的なもの、とへの心理的な女心のうごきが出せたら幸いだと思っております。

長谷川 いやそれはゴケンソン、なかなかよかったよ、それに雷蔵君の匂の宮も、ドライなだけでなく動きにも貴族らしいおっとりさ、ノーブルな雰囲気が出ていてよかった。

市川 やっと最後にホメてもらった。(笑)これで匂の宮もウカばれます。(笑)ありがとうございました。(笑)最初台本をいただいた時には、うーんとウナリたくなりました。(笑)でも、よく読んで行くうちに、ボクはボクなりにこの王朝ドライ族の巨頭匂の宮に対してモリモリと意慾を感じたんです。考えて見ると、こんな役は初めてなんですからネ、自信をつけるまでには、匂の宮らしくもなくシンコクに考えました。(笑)スタッフの人たちは「雷蔵君ええ役やないか、金も力もある二枚目なんて、金のわらじはいても見つからんもんや、うまいことしたナ」なんて人の気持も知らないでネ。(笑)ところで、先生、いよいよ御出発ですネ。どんなスケジュールなんですか?