「マイ・フェア・レディ」を観賞

第十一回京都市民映画祭で伴淳三郎さんから賞をもらった筆者

二十五日 朝セットへ行ってみると、また水がいつの間にか減っている。どこかで洩れるらしい。注水を待つ間、急遽もう一つの駿府城天井裏のセットへ入る。

 元来、忍者映画といえば、いろいろ仕掛けが手間どるものだが、この天井裏の場面もそれなのである。その上、忍者になっている方も、まともな姿勢でなく、たえず腰をかがめて走ったり止まったりしているので、腰がいたくなってしまった。

 昼からはやっと水が張れたので、海上のシーンに入る。このシーンは海中と海上に分かれ、海中は後日、滋賀県草津の温水プールで撮影する予定。このセットはもっぱら海上のところである。

 600平方メートルほどのセットの海の上を一面の夜霧が立ちこめている。映画にうつっている段にはキレイだが、これは流動パラフィンを気体化したものだけに、この中に長時間居ると気分がわるくなる。どこか身体に影響するものがあるのだろう。

二十六日 引続き海上セット。水上と仕掛けと両方で、撮影もなかなかはかどらない。午後から私の出となる。このニ三日来、撮影所の労働組合の越年資金闘争が漸く激化してきて、所員たちは一斉に慣例の如く赤い腕章をつけ出してきた。これも最初のときは目を見はりもしたが、なれというものはおそろしいもので、近ごろでは歌舞伎の顔見世興行と一緒で、毎年暮れになると必ずやらねばならぬ年中行事の一つみたいに思えてくるから妙なものだ。

二十七日 引続き海上のセット。プールに油をまいてこれに火をつけ、一面の火の海にして、敵方の忍者の追撃から逃れる場面となるのだが、いざやってみると、油の都合でセットが燃える危険がある。結局、この火の海のところだけは、組合の闘争が解決してから、夜間のオープン・セットで大々的にやることに決定。午後からは、セットを変わって、島津家の庭の場面に入った。

 宣伝課長から今夜大阪スカラ座で「マイ・フェア・レディ」の試写に行かないかと誘われ、セット終了後家内と二人で大阪まで行く。夕食を食べるひまもないので、車内で一時しのぎの牛乳とパンを食べておいた。相変らず夕方の凄い車のラッシュで、劇場へついたらもうはじまってニ、三分すぎていた。

 私は日本の舞台こそ見ていないが、新婚旅行の時ニューヨークの舞台で見ており、また家内は私と見る以前に、初演の舞台も見ているので、取りわけ興味が深かったようである。いかにも面白く出来ていて、俳優さんも立派だったが、残念ながら撮影がわるく、殊に色彩のまずさが大変気になった。