京のそよ風涼しいナ

「アラ もうあそこの家、灯がともったワ」「うん、なんとなくロマンチックやなア」
せせらぎに舟をうかべて、樹々の間をぬってゆくと、水面も次第に夕闇のなかにとけてゆきます

雷蔵 あーいい気持や。こないして風を受けて涼んでると、まるで生きかえったような気がする。

嵯峨 ほんとにいい気持。水際にたたずんで、天下の美男がそばにいて・・・果報だわ。

雷蔵 ハナからお世辞いうて・・・後がコワイコワイ。(笑)だけど、ミッちゃんもいつみてもきれいやなあ、ブルッとするワ。

嵯峨 アッ、ほたる・・・。

雷蔵 肩すかしかいな。

嵯峨 ほんとうよ。そら。そこに。(水草に止った蛍の青白い光が水面にうつります)

雷蔵 きれいやなあ、このままソッと眺めていようよ、追ったりしては殺生やから・・・。

嵯峨 殺生だなんて、どこかのお坊さんみたいなこといって。

雷蔵 坊さん?イヤやなあ。この美しい黒髪とも(となでて)明日かぎりでいよいよお別れやろ。

嵯峨 お別れって・・・どうしたの?なにか大きな失敗(しくじり)でもしたんでしょう。それで坊主頭に・・・。

雷蔵 アホウ。ホンマに悪いことしたみたいやないか。仕事や、シゴト。こんどの『炎上』で坊主になるやろ、それであした断髪式や、三横綱にきってもらう。

嵯峨 そうなの。私はまた、雷さんなにかしたかと思って心配しちゃった、どう?このやさしい乙女心・・・。

さっと打水した葉末からは露がしたたり、そよ風も快くほほをなでます