お住まい拝見
ひっそり見越しの松

 

 洛西鳴滝の音戸山(おんどやま)の横の閑静な住宅街の一角。周囲をヒカワブキのヘイで取囲まれた見越しの松ののぞくスキヤ造りの家が雷蔵氏のお住い。この家の奥の“音戸山”が彼の持山と聞いて驚く。モモ、カキ、ナシが多くとれるという。

 玄関を入った控の間に、父の寿海丈の“菊”に、表千家千宗左宗匠が“菊九百秋充”と書いた茶掛がかかっているのも奥床しい。お茶席があり、純日本風の住いである。

 関西梨園の頭領市川寿海丈の息-八代目市川雷蔵-として二十九年、大映の『花の白虎隊』で映画界入りして早くも五年。歌舞伎への復帰などいわれながらも、三年前のこの住居とともに映画界へ定住した感じ。その間にとった作品が六十本、今年も正月の『人肌牡丹』から『ジャン有馬の襲撃』『濡れ髪三度笠』そして現在撮影中の『かげろう絵図』が十一本目になっている。さきごろ二十八回目の誕生日を迎えた。今年は昨年の『炎上』のような異色作がないのが残念らしい。自他ともに期待していた依田義賢脚色、増村保造監督の『好色一代男』や山崎豊子の『ぼんち』が来年回しになったので・・・。