是非やりたい時代劇

石浜 時代劇って娯楽作品が多いね。

伏見 おや、意外なところに伏兵ですね。石浜さんが敵方とは思わなかった。(笑)

石浜 いや、娯楽作品が多いから、悪いなんて云ってやしないんですよ。

若尾 そうよ、時代劇だったら、徹底した夢物語としての時代劇に出てみたいわ。

石浜 頭もいいし、腕もいい、悪者をバッタバッタと倒してゆく。現代劇の主人公じゃおかしいものね。

雷蔵 そうです。時代劇には夢がありますね。勿論、近代的な心理を折込んだ時代劇というものもあるでしょうけれど。

石浜 僕は、もし時代劇に出るなら、「ヴェラ・クルス」みたいなのね。超人的に強いのね。ああいうの、是非一度やってみたいな。

若尾 ミュージカルのようなの。時代劇でやれたらスバラシイと思うわ。でも、駄目なのよ。音楽の方は全然不得手だし・・・。

伏見 日本舞踊はやるんでしょう?

若尾 それが、お恥しいんです。私の舞踊・・・デンマーク体操になっちゃうんです。これ、踊りの先生に云われたから間違いないんですよ。(笑)この間もテレビで「狐と笛吹き」というのをやってね「舞いを何々・・・」とかっていうセリフが出てくるの。なんとかごまかして、踊るところだけは勘弁して貰おうと思ってたけど、とうとうやらされちゃって、恥しかったわ、山本さんがうらやましいわ。

山本 私だって、とにかく学校卒業して、はじめて社会へ出たのが結局、映画の世界でしょう。なんにもわからないことばかり。「花の講道館」で、何から何まで長谷川先生に教えて頂いたんです。でもたしかに子供の頃から日本舞踊やっていたのが、少しは役に立ったと思います。それにとたんに柔道やらされたでしょう。びっくりしちゃったわ。

伏見 本当にやったんですか?

山本 ええ、阿部さんという七段の方に来て頂いて練習したの。岡山のロケーションで、凄く大きな男の人を投げるところがあったでしょう。本当にうまく飛んで下さったからできたのですよ。まごつくことばかり。

雷蔵 そりゃ、なんでもそうですよ。時代劇では斬られる人がうまくやってくれるからこそ形になるんです。若尾さんも、柔道やられましたね。

若尾 柔道だけはもうごめんですわ。最初の日、講道館へ習いにいってびっくりしちゃったの。(笑)

石浜 さっきから、雷蔵さんも伏見さんも着物を礼讃しているように聞いたんだけど、お二人共、洋服がとても似合うじゃないですか。

伏見 僕は表へ出る時は洋服、家では着物です。角帯はしめるけれど、兵児帯はしめられない。落着かないんです。

雷蔵 僕は兵児帯だ。両方共好きだけれど、外出するときはほとんど洋服ですね。

山本 両棲類なのよ。(笑)

雷蔵 参ったね。しかし、撮影所に行って朝とか昼飯とかの休みの間、衣裳を脱いでいる時も、時代劇の人は着物を着るね。現代劇の人は衣裳のままですか。

山本 そう、大抵ね、衣裳のままです。

雷蔵 僕らは二十分か三十分の間でも、楽屋着と着替えるね。

山本 私は、時代劇の場合でも、なるべく衣裳ヅラ(カツラのこと)もそのままにしています、前髪なんか梳きつけが大変だと思うから。

伏見 でも女の人は、ある面、楽だと思うな。夏でも炎天へ出た時、男はもう、ヅラがまるで焼けちゃって、頭の中がむれるんですよ。汗が出てくるといちいち直さなくちゃならないしね。

山本 女の人も地毛(自分の毛)で結わない人は、ヅラをかぶると中がむれて大変です。

石浜 山本さんは?

山本 やはりヅラです。地毛の場合、朝九時開始でも七時には結髪室に入らないと間に合わないし・・・。

雷蔵 男でも女でも現代劇は、九時なら九時に入っても間に合うしね。顔洗うつもりで、ドーランを薄く塗っただけでいい。

若尾 アラ、そうもゆきませんわ。大体、私達は現代劇の場合は四十分前、時代劇だと一時間半前に入らなくちゃならないの。

石浜 僕の場合は、東京の家から大船に通うから、朝は二時間以上前に起きるんです。京都だと旅館へ迎えにきてくれるし、かえって楽でした。年末「むすこ大学」の追い込み撮影の時は、毎晩十一時、十二時までかかるでしょう。朝、電車の中で寝過ごしちゃて藤沢まで乗り過ごしたんです。撮影所では、東京の家へ電話かけるし、家の者は「もう二時間前に家を出ました」というわけで、僕は行方不明ということにされちゃったらしいんだ。