若尾ちゃんは女らしくて素直だ
七月上旬の京都は、東京が新記録の暑さにあえいでいるのにくらべ、これは意外にも涼しさがつづいて、しのぎよい五日の正午。ちょうど撮影もひと休みで、話題の人市川雷蔵の俳優部屋に顔をだすと、
「いやあ、いつ来た・・・?」
と、まず雷蔵らしい明るさで尻上がりの声がとんでくる。見ると青く剃り上げた坊主頭が可愛らしい。ぐっと若くなった市川雷蔵だ。窓から入る青葉が室内に反映して、浴衣を無雑作に着た坊主頭の雷蔵まで、ぐっと涼し気な四畳半の楽屋が青い。
「なんや、いまチラリと聞いたがな。うちと若尾ちゃんが来年結婚するんやって・・・」
と開口一番、雷蔵はぐっと膝をのり出す。
「ふーむ、これはおもしろいな。で、ぼくはどない返事したらいいね」
「イエス、か、ノーですよ。若尾ちゃんとの結婚はどうなんです?」
とこれは記者。単刀直入な記者の質問に、雷蔵はしばし無言。それも束の間、
「ふーむ、こりゃあかんわ。本当とかデマとかいうよりな。これは困るのは若尾ちゃんや。えてしてな、この種の噂ではな、噂された男よりも女の方が困るで・・・。ぼくはいい、男やからな、平気やで。しかし若尾ちゃんは女性や。噂になれば傷がつく、それが困るんや」
と、眉をしかめる。だが“火のない所に煙は立たぬ”の諺もあるくらいだ。ざっくばらんな話が、最近の若尾文子は女優ぶりといい、女性ぶりといい一段と見事になってきているし、本年とって二十八歳の元気な雷蔵にとって、これは対象にならない相手ではない。むしろよくうつる相手だといってよい。
「ですからね、本当いうと若尾ちゃんは雷蔵さんが嫌いなタイプではないと思うし、半ば信じ半ばデマかなと思ってやって来た」
と記者がいうと、雷蔵はよくやる癖の顔を体ごと斜めにしていうのだ。
「そりゃ若尾ちゃんは女らしいとこもあるし、素直なとこもあってええ人や。嫌いではない。むしろ好きやで。しかしこれは英語でいえばラブ(愛)ではない方のライク(好き)の方や・・・な、そうやな」
と笑いながらかたわらにいる付人の森本さんをふりかえる。そして、
「これは誤解されて解釈されると困るんやがな」
と前置きしていうことには、まずこうだ。