お二人の話ははずむ

 大映東京撮影所の青春スタアのホープ金田一敦子さんは、市川雷蔵さんの大ファン。『炎上』では主人公の溝口に扮し初の現代劇に丸坊主で出演、引き続いて『人肌孔雀』で初の男装姿で大立廻りを演ずる山本富士子さんと、颯爽たる時代劇の魅力を発揮するなど、縦横無尽の活躍を続けている市川雷蔵さんが、次回作大映超大作『日蓮と蒙古大襲来』の撮影に入る前の多忙な日程をさいて上京。金田一敦子さんの念願が叶ってお二人の希望対談が実現しました。

 芝居と映画

雷蔵 今日は、

金田一 今日は、お久し振りです。 

雷蔵 僕の後援会の催物の時は花束をどうもありがとう。あの時以来一段と美しくなったね。

金田一 あらいやだ、雷蔵さんはお口がお上手ね。それより雷蔵さんこそお若くなったわ。

雷蔵 これはやられた、でも涼しいですよ(と坊主頭をなでる)。

金田一 先日『人肌孔雀』を見せて頂きました。とても素敵よ。

雷蔵 それはどうもありがとう。あなたにほめて頂くなんて光栄です。でも少しばかり気が引ける、僕は貴女の写真(注、俳優さんはよく映画の事を単に写真と呼ぶ場合が多い)を拝見してないんですよ。

金田一 見られるとかえって恥しいわ、未だ何もわからないんですもの。

雷蔵 僕だって同じですよ、最初のうちは舞台の芝居と映画の場合と全然違う。特にセリフが困った。舞台だと常に相手がいて受け応えしてくれるんでスムーズにゆくが、映画の場合はカットによって一人で芝居するんで、相手のセリフの間を持たせなければならない。だから自分の出番でない時も、相手の人の芝居の動きをよく研究し、それに対する自分の受け応えを云うか演技の計算をしたものですよ。これは最も大切なことだと思いますね。

金田一 相手の方のお芝居をよく見ることは大切な事なんですね、時代劇ってむずかしいんでしょうね。