又四郎喧嘩旅

1956年1月9日(月)公開/1時間25分大映京都/白黒スタンダード

併映:「花嫁のため息」(木村恵吾/若尾文子・根上淳)

企画 酒井箴
製作 山崎昭郎
監督 田坂勝彦
原作 山手樹一郎(「又四郎行状記」より)
脚本 賀集院太郎
撮影 武田千吉郎
美術 西岡善信
照明 古谷賢次
録音 林土太郎
音楽 長津義司
助監督 黒田善之
スチール 松浦康雄
出演 嵯峨三智子(多恵姫)、三田登喜子(琴姫)、阿井美千子(お艶)、田端義夫(常吉)、清川虹子(虹ケ嶽おぶん)、赤坂小梅(梅の川おてる)、市川小太夫(大島刑部)、羅門光三郎(大貫玄蕃)、杉山昌三九(谷主水)、上田吉二郎(横倉大造)、若杉曜子(若桜おきよ)、入江たか子(中老松島)
惹句 『花の姫君がホンノリ惚れて、江戸っ子芸者がゾッコンまいり、女力士がヤンヤ声援坊ちゃん侍雷蔵が悪人相手に大暴れ』『恋と剣に追いつ、追われつ、美男雷蔵の大暴れ』『毒消し売りに化けたり、女角力の一座にもぐり込んだり七万石の姫君と正体不明の若侍が、ひしめく暗殺団を手玉にとって痛快爆笑の珍道中』『風来坊、黒覆面、美剣士、百姓、毒消し売り、女相撲の行司、と敵をあざむく若様変化

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自ら名乗るその名は笹井又四郎。フラリと旅に出たのは日本晴れの中仙道です。ところがヒョンなことからこの素浪人、諏訪八万石のお姫様に慕われ、おまけに暗殺団に狙われるという破目になります。

さて、いくつあっても命が足りない剣難女難の喧嘩道中は更に意外な方向へと発展して行きます。(平凡56年3月号より)

▼ 解 説 ▼

「又四郎喧嘩旅」は、市川雷蔵のデビュー二年目、通算十六本目の映画である。この当時、市川雷蔵はめきめき人気が上昇しつつあったが、その陰では多彩な工夫がなされていた。市川雷蔵の魅力をさらに一段と盛り立てるべく、題材や表現が手を変え品を変え選択されていたのである。

「又四郎喧嘩旅」はまさしくそうした工夫の一つであり、明朗時代劇路線とでも呼ぶことができようか。

正体不明の若侍の市川雷蔵が、とぼけた調子でお家騒動劇の渦中を暴れ回って、ユーモラスな味をふりまき、現代的センスの明るい時代劇を面白く見せてゆく。雷蔵は悲劇に抜群の才能を発揮するが、こんなふうに軽妙なタッチの映画でも素晴らしい。まったく刀を抜かないかと思ったら、ラスト、とぼけ侍から一転、格調高い若殿様ぶりで大チャンバラと、展開もなかなか工夫されている。

この明朗時代劇路線は前年の「綱渡り見世物侍」(1955)からはじまり、これが第二弾で、このあと「濡れ髪剣法」(58)や傑作「濡れ髪三度笠」(59)などの“濡れ髪シリーズ”へと結実してゆく。そうしたなか、市川雷蔵がひと回りもふた回りも大きくなっていったことは、あらためて説明するまでもない。

嵯峨三智子と雷蔵の共演は、「美男剣法」(54)「次男坊鴉」(55)について三本目で、この年、さらに「浅太郎鴉」「喧嘩鴛鴦」「あばれ鳶」とつづく。明らかに大映としては人気コンビを狙ったのであろうが、この年の末、嵯峨三智子が松竹専属になったため、いい味が出始めたところでコンビは解消されてしまった。

この映画の原作は山手樹一郎の人気小説「又四郎行状記」せ、少し以前に中川信夫監督の新東宝作品「又四郎行状記・鬼姫しぐれ」(1951)として映画化されており、そこでは嵐寛寿郎が又四郎を、多恵姫を宮城千賀子が演じた。( キネマ倶楽部ビデオ解説 山根貞夫のお楽しみゼミナールより )

演出にあたって   監督  田坂 勝彦

新しい時代劇といえば大袈裟だが、この映画では、従来の時代劇という既成概念から一応はなれて、いわば現代劇的な要素もいろいろと織り込んでみたい。さいわい脚本もこれまでにない面白いものになったから、ますます楽しみである。

雷蔵君とは「花の白虎隊」以来、前作「花の渡り鳥」までやらなかったし、本格的な主演物としては今度が最初になる訳だが、雷蔵君のこれまでの映画を見ると、まだ彼本来の明るい面が出切っていない感じがしないでもないから、今度は思い切って、従来の所謂雷蔵タイプからうんと崩してやってみたいと思っている。(公開当時のプレスシートから)

又四郎喧嘩旅

小菅春生

いわゆる明朗痛快編というやつで、女角力の一座に姫を連れて又四郎が逃げこむ、かくまった女角力たちは、白刃をつらねて乱入した十数名の剣士たちを、角力ならぬプロレスで投げ飛ばす−といった寅さん流の笑劇味を基本にしている。これを戯作性というには程度が低過ぎるが、いっそそれならば、又四郎の剣戟場面を一切省略して、あとに死人の山を残すなり、剣戟そのものを戯画化するなり、もっと才覚をめぐらすべきだったろう。

陰謀派のお雇い剣士で、又四郎に加担する上田吉二郎の浪人者に山中貞雄の匂いを感じるだけに、機知の在り方について考えずにはいられない。姫の大時代なセリフに対する又四郎の“−ですか”式の現代語調のアンバランス、くさい役者として横綱格の市川小太夫、杉山昌三九両名の極端にくさい演技と、雷蔵の対照などに、別の意味のおもしろ味がないではないが、それは演出のねらいといったよりは稚拙さの所産といったほうがいいかも知れない。

興行価値 市川雷蔵もだんだん売出して来たから、徹底的に今日風に解釈した明るい現内容を売れば、娯楽作品としてはけっこう吸引力がある。(キネマ旬報より)

▼ 物 語 ▼

その名は自ら名乗って笹井又四郎、フラリと現れたのは中仙道は千曲川の渡し場、ゴロン棒浪人横倉大造と水田源八の手から、旅の男女お艶と常吉を救ってやった後で、華々しく一戦を交えるのかと思ったら、ヌラリクラリとその場を誤魔化してしまったような、強いのか弱いのか解らない侍である。

当時諏訪藩八万石の世継ぎの姫が二人あり、直系の多恵姫を廃して傍系の琴姫を擁立しようとする陰謀派の巨頭大島刑部は、腹心の用人谷主水に命じて、剣客大貫玄蕃とその門下を暗殺団に仕立て江戸から諏訪へ旅立たせた。大造も源八もその一味、そこへ又四郎も大造との奇妙な友情からこの暗殺団に雇われることになった。

又四郎が道々大造から聞いたところによると、国表の多恵姫は鬼姫と仇名されるM過剰のジャジャ馬的存在、その婿に定まった松平家の三男坊源三郎君がまたボンクラ若殿という話。縁談成って多恵姫が源三郎君対面のため諏訪を出府して江戸へ向かう道中で、これまた陰謀派の中老松島の護衛という名目で、谷主水、大貫玄蕃以下二十名が暗殺しようと企んでいる訳。

これを知った江戸家老高山内記が、辰巳の鉄火芸者お艶の侠気を見込んで、箱屋常吉と共に、主水より先に諏訪へやって、多恵姫に警告を与えようする。常吉は前身がムササビの常と呼ばれた腕利きの巾着切である。

更にまたこれを内偵した主水一行は、お艶たちを待ち伏せて斬ろうとしている。又四郎はこれを知ると、足を痛めたのを口実に、わざと一行から落伍して後から来たお艶たちに警告を与えた。お艶はこの謎の侍又四郎にいつしか恋を感じ始めた。

諏訪に近い峠道で、松島は裸馬で行列を駆け抜けて行く無体な少年をとがめたが、意外にもそれは男装の多恵姫だった。男まさりの姫から逆にねじこまれて松島は、無念の歯噛みをしたが、主水は姫の帰途を擁して銃撃を加えようと待ちかまえる。

その姫は途中で又四郎とぶつかり、又四郎からさんざん高慢の鼻をヘシ折られた揚句、馬まで奪われた。やがて又四郎は姫を横抱きにしたまま馬を疾駆させ、暗殺団の中を一気に駆け抜けたが、源八の狙った一弾は馬を倒し、又四郎と姫は崖下へ転落した。追手は尚も迫る。一戦も辞せぬといきまく勇敢なる姫に対し、無手勝流の極意を主張する又四郎は姫を引っ張って逃げに逃げた。

峠の炭焼小屋で、はなはだチグハグな一夜を明かした二人だが、いざ別れるとなって、姫は城に帰るのがイヤだと駄々をこねて又四郎を困らせた。鬼姫の胸中にもこの又四郎と名乗る得体の知れぬ若侍に乙女らしい恋が芽生えて来たらしい。

折柄諏訪神社で興行中の女相撲虹ケ獄おぶん一行の許へ、又四郎の手紙を持ったお艶と常吉が現れた。おぶんたちはどんな理由からか又四郎を恩人とあがめており、お艶は又四郎に対する信頼感を一層深めた。

無事城中へ帰った多恵姫は、服装を整えて松島や主水を謁見の上、手きびしくやりこめたが、別に松平源三郎の使者と称して御機嫌伺いに来た若侍の顔を見て驚いた。あの飄々たる又四郎なのである。

この又四郎の帰途を擁して、大造を先頭に暗殺団が殺到して来たが、又四郎は小判を出して逃げながら彼等を買収しようとこれ懸命。ところが、折柄銃声一発、正義派の家老茅野修理が倒されたと聞くと、俄然又四郎は攻勢に出て、またたくまに彼等を薙倒すと、再び城中に戻って姫を連れ出し、一気に重囲をきりぬけて江戸へ向った。果して又四郎と姫の剣陣突破作戦は成功するかどうか。事件は更に意外な方向へ発展して行く・・・・。(公開当時のプレスシートから)

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平藩七万石の鬼姫と辰巳芸者お艶との豊潤な恋情を縦糸に、悪玉善玉卍巴のお家騒動に颯爽と立ち向かう又四郎は、夢介・からす堂・ぼんくら松などの山手文学の主人公とともに、今や作者の手を放れた代表人物の一人だ。心鬱したときこそ、彼の笑顔が温かく読者を勇気づけてくれるだろう。

山手樹一郎『又四郎行状記 上・下(- 原題「鬼姫しぐれ」「美女峠」「又四郎笠」を収録)』 山手樹一郎長編時代小説全集 春陽堂で読める。詳細は春陽文庫時代小説を参照。

  

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