稲妻街道

1957年9月21日(土)公開/1時間18分大映京都/白黒スタンダード

「赤胴鈴之助・新月塔の妖怪」(安田公義/梅若正二・三田登喜子)

製作 酒井箴
企画 浅井昭三郎
監督 森一生
脚本 衣笠貞之助・犬塚稔
撮影 本多省三
美術 上里義三
照明 伊藤貞一
録音 林土太郎
音楽 鈴木静一
スチール 浅田延之助
出演 品川隆二(田原の伊与吉)、浦路洋子(お美乃)、阿井美千子(おえん)、若松和子(酌婦お福)、舟木洋一(伊与吉の乾分鶴作)、和泉千太郎(岬の長次)、伊沢一郎(伊与吉の乾分目吉)、小堀明男(素幡の股五郎)、清水元(尾久の寅八)、浜田雄史(蜂谷の喜助)、浦辺粂子(おため)
惹句 『腕がなる、胸がすくサッと投げ出す喧嘩状』『おっと待っていやした喧嘩状年に一度だあばれるぜ』『切った啖呵は日本一愛する女の幸福のために一生一代の大暴れ』『「この喧嘩、おれが買った」愛する女の幸福のために、一世一代の大あばれ』『けちな野郎でござんす切った啖呵は日本一惚れぼれするよな腕の冴え

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★ 作品解説 ★

 一年に一度、渡り鳥と共に現われる旅の男−浮巣の半太郎が、颯爽と踊る正義の白刃の舞い!そして彼を恋する女達の哀怨の声に別れを告げて、どこへともなく去っていく・・・

 雷蔵得意の颯爽の股旅篇『稲妻街道』は、製作酒井箴、企画浅井昭三郎、脚本衣笠貞之助、犬塚稔、監督森一生、撮影本多省三の第一流のスタッフで贈る大映の娯楽作品である。

 出演は浮巣の半太郎に市川雷蔵、気が弱いが女房思いの伊与吉に品川隆二が珍しくもマゲ姿で登場、伊与吉に嫁ぎながらも半太郎を忘れられないお美乃に浦路洋子が初めての女房役でお色気を見せる。この他、阿井美千子、浦辺粂子、伊沢一郎、沢村宗之助、小堀明男、浜田雄史らがワキ役陣を固めて魅力のキャストを編成している。(公開当時のプレスシートより)

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★ ものがたり ★

 季節を追って空を飛ぶ渡り鳥のように、毎年初秋の風が吹き始める頃、この三州田原の宿に姿を現わす一人の旅人があった。名を浮巣の半太郎という。一年に一度のこの彼の訪れを心から待っている三人の女がいる。ふとしたことから彼を助けた老婆おためとその幼い孫娘のおつう、そして彼を慕い、そのために好きな酒をぷっつり断った酌婦おえんである。

 いやもう一人いる。土地の貸元田原の三右衛門の娘お美乃もそうである。しかし彼女は飄然と姿を消した半太郎の面影を抱いて、彼がこの土地へきた前の日、網元の息子伊与吉と祝言の盃をあげたばかりだった。ところがその祝言の夜、三右衛門と縄張りを争っていたニ川の島蔵一家が殴り込みをかけ、三右衛門はあえなく殺された。

 それはお美乃、伊与吉の若夫婦が附近の湯治場へ初夜の契りを結びに出た後の出来事であった。殴り込みの手引きをしたのは、かねてお美乃に心を寄せていたが、その恋の空しく破れた腹いせに敵方に寝返りをうった素幡の股五郎であった。三右衛門の横死に憤った伊与吉が実家の網元に助力を求め急ぐ夜道の途中、待伏せた股五郎はじめニ川一家が再び襲ってきたが、この危機を飛込んできた浮巣の半太郎が救った。

 二川方の殴り込み近しと知った伊与吉が、かなわぬまでも、先手をうって殴り込もうとお美乃に決意を打明けた時、戸板、畳を立てかけた家の前に黒い影。ニ川方の来襲を見張る浮巣の半太郎だった。

 「この人が草鞋さえはかなかったら夫婦になっていたのに・・・」かなしい女心をかくして、お美乃は早速彼を中へ招じ入れた。強力な半太郎の助っ人に田原一家は俄かに元気づいたが、伊与吉一人嫉妬の心をぐっとこらえて黙然と考え込むのだった。

 数刻後、大胆にも半太郎は、ニ川の島蔵らが屯する料理屋布袋楼に現われ、素幡の股五郎を連れ出そうとして乱闘になったが、半太郎は「出直してくるぜ」とタンカを切って飄然と立去った。後悔の色濃い股五郎は半太郎の後を追おうとして島蔵に捕えられた。

 腹黒い島蔵は郡代の細見辰之助と結託し渥美一円の縄張り独占をを狙っていたのである。その為の邪魔者は半太郎だ。島蔵一家の二十人は、半太郎がおための家に足を停めていることを知り、おための家を急襲し、人質としておつうを引っ拐って行こうとした。い合わせたおえんは必死におつうをかばい、ついに負傷した。そこへ半太郎が飛び込み、彼らを散々に叩きのめした。そしておえんに「半太郎は改めて心からお前に惚れた、毒虫は俺が叩き斬る」の言葉を残して、おえん、おつうたちの悲痛な制止の叫びを後ろに、お美乃の家へ駈けつけた。だが一と足早く、伊与吉、お美乃の墓参りの留守に、別手の島蔵一家が殴り込み散々家内を荒らして、喧嘩状をおいて帰った後だった。今は敵わぬながらもこちらから殴り込みだといきまく伊与吉を、半太郎は車倉へ押し込め錠を下し、「お前さんが死んだらお美乃さんはどうなるのだ」の言葉を残すと、喧嘩状に指定された川口の松林に向って、一散に走った。

 十数人の二川方の子分をたちまち斬り斃した半太郎は、布袋楼の裏庭に縛りつけられた股五郎が、想いを寄せる酌婦お福に縄目をといてもらい、前罪を悔いての助力を得て、島蔵と郡代細見が酒盃をあげる布袋楼へ躍り込んだ。そこへ、半太郎の温かい思いやりを知った伊与吉が、お美乃と共にかけつけ、ついに親の仇島蔵を斃した。

 お美乃、伊与吉の感謝の瞳に送られ、半太郎はその場から再び長い旅の草鞋をはいた。その行手にはおつうに伴われたおえんが負傷の身を押して待っていた。「来年またきっとやって来ますぜ」と彼女の手をとると、半太郎は三度笠片手に、ほのぼのと明け初めた街道を一散に走り去るのだった。(寿会会報 No.6より)

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品川隆二、浦路洋子、森一生監督、市川雷蔵さん

左から、森一生監督、品川隆二、市川雷蔵

 

                                  稲妻街道                         岡田誠三

 これも勘太郎映画の一つだ。というのは、勘太郎来り、勘太郎去ることによって事件が起り、事件が解消するという発想である。

 この場合の勘太郎は年に一度、渡り鳥のように姿を現わす浮巣の半太郎で、ほれた女のために彼は、代官と結託する悪玉の貸元一家五、六十人を一人で皆殺しにする。線の細い感じの雷蔵のイメージでは、強すぎる不自然さがなおさら目立ってついてゆけない。斬り合いがはじまるのと時刻をあわせたように雷雨になるのなど、筋、人物ともどもすべてが型(スタイライゼイション)だが、型による安定感がこの種の作品のねらいである。

興行価値:地方は雷蔵映画の週間にでもして利用したほうがよい。(キネマ旬報より)

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