月姫系図

1958年1月9日(木)公開/1時間14分大映京都/カラービスタビジョン

併映:「新婚七つの楽しみ」(枝川弘/若尾文子・川崎敬三)

製作 酒井箴
企画 財前定生
監督 渡辺実
原作 角田喜久雄(北海道新聞・中部日本新聞・神戸新聞 連載)
脚本 高岩肇
撮影 宮川一夫
美術 内藤昭
照明 中岡源権
録音 大谷巌
音楽 斎藤一郎
助監督 土井茂
スチール 藤岡輝夫
出演 田代百合子(雪絵)、浦路洋子(お梶)、阿井美千子(月姫)、林成年(諏訪彦七)、小町瑠美子(お静)、小沢栄太郎(大久保石見守長安)、植村謙二郎(泉野兵馬)、荒木忍(鳥の目源三)、葛木香一(佐吉)、中村鴈治郎(水町三郎太)、原聖四郎(笹塚黒太夫)、伊達三郎(南部左ヱ門)
惹句 『血嵐呼ぶ謎の四文字財宝の鍵を握るは月姫か?素浪人か?はた女諜者か?』『武田家数千万両の秘宝の謎三日月堂の美女月姫の正体は手練の隠密黒頭巾は敵か、味方か』『妖気をはらんで深夜の三日月堂に立つ謎の美姫剣と恋と陰謀が波瀾を呼んで事件は意外?』

 

 

< かいせつ >

 武田家の遺宝のありかを示す風林火山をかたどった四枚の枝折をめぐって、正邪入り乱れる怪奇ムードいっぱいの時代劇。雷蔵映画としては初のワイドスクリーン作品(ビスタブジョン)。旗本・水野三郎太の息女・雪絵の「其疾如風」、浪人桜井進太郎の「不動如山」、金山奉行大久保石見守長安の「徐如林侵」、そして残る一枚「其掠如火」をめぐって黒装束の男達が暗躍する。武田家の財宝のありかをさぐって物語は展開し、武田家の血を引く月姫とその妹雪絵の身に魔の手が迫る。

★・・・1958年度の新春のスクリーンを飾るべく、大映京都が市川雷蔵の主演で放つ大映カラー・総天然色・ビスタビジョン・サイズ『月姫系図』は、時代小説の人気作家角田喜久雄が、有力地方三紙に連載中の新聞小説を、監督渡辺実で映画化する伝奇時代劇です。

★・・・天正年間、甲州に滅亡した武田家は、数千万両にのぼる遺宝のありかを“風林火山”の四枚の枝折に秘めたが、月姫を中心に、これを探し出して武田家の再興をはからんとする遺臣たちと、財宝の横奪を企図する悪奉行、さらにこれを未然に防がんとする快剣士桜井進太郎らが、妖気をはらむ三日月堂、信玄公の墓などを背景に、正邪入り乱れて展開する波乱万丈篇です。

★・・・配役は、主人公桜井進太郎の市川雷蔵に加え、純情の武家娘雪絵には大映初出演の田代百合子、女間者お梶には雷蔵とのコンビでいま売出し中の浦路洋子、謎の月姫に阿井美千子、諏訪彦七に林成年が扮するほか、小町瑠美子、小沢栄太郎、中村鴈治郎、植村謙二郎らがそれぞれ助演陣をかためている。

★・・・なお主なスタッフは、製作酒井箴、企画財前定生に、角田喜久雄(北海道新聞、中部日本新聞、神戸新聞連載)の原作をベテラン高岩肇が完全脚色、監督にはさきの『清水港喧嘩旅』の好評により、新鋭渡辺実がその第三作に取組むほか、カメラは幾多の撮影賞に輝く宮川一夫が担当して流麗の画面を展開している(公開当時のパンフレットより)

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色で画解きする雷蔵 妖気漂う中に推理的興味

大映正月映画『月姫系図』で田代、浦路と共演

 大映京都のお正月映画『月姫系図』(ビスタビジョン・サイズ総天然色)は角田喜久雄の原作を高岩肇が脚色、新鋭渡辺実の監督、ベテラン宮川一夫の撮影で映画化する伝奇時代劇だが、市川雷蔵、田代百合子の初顔合せに浦路洋子、阿井美千子、林成年、中村鴈治郎、小沢栄太郎、植村謙二郎らのキャストでこのほどセットから撮影を開始した。

 天正年間、甲州に君臨した武田家は"風林火山"の四枚の枝折に数千万両の遺宝を託して滅亡した。この遺宝をめぐって武田の遺児と横奪を企図する金山奉行、さらにこれを未然に防ごうとする快剣士桜井進太郎が入り乱れて展開する波乱万丈の篇。しかも其疾如風、徐如林侵、其掠如火、不動如山という武田家の旗印にかたどる四枚の枝折によって、その在り方が秘められているのだが、この謎を色彩版で画解きするという推理的興味を大いに盛込んだもの。

 この謎の快剣士桜井進太郎に扮する市川雷蔵にとっては初めてのワイド映画だが「四枚の枝折によって財宝のありかをつきとめるといういわば“銭形平次”や“伝七”の祖先のようなものなので、頭脳明せき、かつ弓と剣の達人という役ですが、私にとっては初めてのワイド版。この謎をワイド画面に色でいかに画解きするかというところに面白さがあるわけです。これをどういう方法で進めて行くか、映画とは逆にこんどは監督さん脚本家が大いに苦心されたわけです。」と語っているが、扮装は『鳴門秘帖』でみせた“切藁ちゃせん”のズラに精悍な感じを漂わせている。

 武田家の遺臣月姫には阿井美千子が、またその妹の雪絵には田代百合子が当るが、阿井はラストシーン以外は全部能面を被って登場するというのでいささかがっかりという。大映初出演の田代は「武家娘というのは私のオハコのように何度もやってきましたが、こんどのようにシンのしっかりした役は初めて、大いにやり甲斐を感じます。それに新しい会社で雷蔵さん、浦路さんという初めての方と共演するというので大いに緊張しています」ということだった。雷蔵とのコンビで売出してきた浦路洋子は女スパイとして、敵方の奉行の側女になるという彼女にとっては初めての難役だけに、大いに意欲をもやしているが中村鴈治郎は『大阪物語』『浮舟』以来の大映出演で達者なところをみせている。

 全篇を通して妖気の漂う三日月堂、信玄公の墓など怪奇ムードで事件は展開するが、かって『雨月物語』の撮影を担当した宮川一夫技師もこんどは“雨月”の色彩版だと大いに張切っているとか。なお渡辺監督はさきの『清水港喧嘩旅』の好調の波にのってその第三作に取組むものだが、長らく伊藤大輔監督に師事、幸先よいスタート振りに早くもその将来が期待されているという優秀な新人監督である。壽海・雷蔵後援 寿会会報No.7より)

雷ちゃんのスタジオ日記

ぼくのこのごろ

 『月姫系図』は角田喜久雄先生原作の伝奇小説映画化で、武田家の財宝を秘めた風・林・火・山の四文字を刻んだ四枚の枝折の秘密をめぐって、正邪入り乱れる波乱万丈のものがたりで、しかも推理的な面白さも含んでいる。

 僕の役は桜井進太郎という幕府の隠密で、剣と弓の名人。精悍な感じの浪人姿に扮している。しかし、ただ剣の名人というだけではなく、銭形平次のように謎解きの名人でもあるのでそれをワイド画面に色で絵解きが出来るようにスタッフの方たちに苦心してもらっている。それに、この映画では浦路洋子さん、大映初出演の田代百合子さんに好かれるという幸福な男なので、「こいつは春から縁起が良いわい」と密かに喜んでいる。(明星58年1月号より)

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大映カラー V ・ V ・ S 『月姫系図』撮影最高潮

田代に襲いかかる小沢栄太郎

ベテランの演技に声も出ぬ迫真の場面

 大映京都がビスタビジョン・サイズ総天然色の大型画面で、角田喜久雄の原作を映画化するお正月三週映画『月姫系図』(監督渡辺実、撮影宮川一夫)は、市川雷蔵、浦路洋子、阿井美千子、林成年、中村中村鴈治郎、小沢栄太郎、植村謙二郎らに大映初出演の田代百合子を迎えた異色の顔触れで快調のクランクを続けているが、撮影今や最高潮。このほど田代の雪絵が、小沢の大久保石見守に眠り薬の入った酒をのまされ、あわや純潔を犯されようというキワドイ場面が“長安の邸”のセットで撮影された。

 数千万両にのぼる武田家の財宝欲しさに、陰謀をめぐらす金山奉行の大久保石見守長安は武田の遺臣水町三郎太(中村中村鴈治郎)を江戸から遠ざけるため山目付支配を命じ甲府へ赴任させたが、三郎太が故意に囚人を逃がしたことから彼を土牢につないだ。そこで長安は雪絵さえその気なら父を助けてもよいがと、彼女に近づき手をとるのだった。

 彼は雪絵が三郎太の娘ではなく、実は武田の血を引く月姫の妹であることを知っていたので、彼女を妻とすれば大久保家に武田の血が流れ、ひいては遺宝も労せずして手に入れることが出来ると考える智謀家、三郎太の釈放を口実に長安はいやがる雪絵を抱きすくめるようにして眠り薬を入れた酒をだまして飲ませ、一気に既成事実を作ろうというわけである。

 長安の側女としてかしずく浦路洋子のお梶は、実は武田家の遺臣で女スパイとして屋敷に住込んで、雪絵の身辺を気遣って虎視眈々。しかしどこからか忍び込んだか謎の怪剣士桜井進太郎は、身の危険もかえりみぬお梶の無謀な行動を戒めるのだった。

 「根はいたって純情な男なんですが、どうも柄にもない役が廻ってきて・・・」とさすがの小沢もいささか照れ気味だったが、いざ本番となるとベテランの名に恥じぬ実に堂々たる演技振りで、こういう芝居には馴れている田代もフンイキにのまれてか、ついセリフも出ないという迫真のシーンを展開していた。(公開当時のパンフレットより)

  

< ものがたり >

 天正十年−甲信の地に君臨した武田家は、数千万両にのぼる遺宝のありかを"風林火山"の四枚の枝折に託して滅亡した。それは武田家の旗印"風林火山"をかたどるものであったが、戦火の渦中にことごとく散逸してしまった。−以来、春風秋雨十数年の歳月が流れた。

 蒼白い月の光を浴びて、異様な妖気を漂わせながら建っている三日月堂。その中に浮び上る能面白衣の女性・月姫。旗本水町三郎太の息女雪絵は、なぜか年に一度の誕生日のたびに、“其疾如風”と書いた一枚の枝折を手に、三月堂を訪れ月姫に会ったが、彼女の正体について教えてくれるものは誰もなかった。今年も雪絵が、対面を終って三日月堂から出てくると、突如目ばかり頭巾の黒装束の男が現われ、その枝折を強奪しようとしたが、木立の中から矢を放った若い浪人に危機を救われた。黒装束の男は、“いの字”といい、謎の浪人は桜井進太郎といったが、三郎太はその浪人者に月姫のことを見られはしなかったかと雪絵に尋ねるのだった。

 過日のお礼に進太郎を訪ねようとした雪絵は、家臣の泉野兵馬が待伏せて制止するのもきかず、藤兵衛の娘お靜の案内で粗末な百姓家の一室で進太郎に会ったが、計らずも彼は、“不動如山”とかいた枝折を示しながら、これが四枚一組になって集まれば、武田家の財宝のありかがわかるといい、金山奉行の大久保石見守長安には気を付けるようにと注意を与えるとともに、いつでも力になろうと好意の眼指しをさし向けるのだった。

 広壮な邸を構え、美貌の画女のお梶にかしづかれる大久保石見守長安も、どこで手に入れたのか“其徐如林”の枝折を持っているのだが私慾にくらむ長安は、謎の黒装束いの字を使って、他の三枚の枝折を探し出させ、この莫大な財宝を横奪するとともに武田家の末裔になろうと企てるのだった。お梶は兄の諏訪彦七とともに月姫に対面を許された武田家の恩顧を受けた遺臣であるが、主家の再興を願って、けなげにも側女となって長安の懐に飛込み、その動向を探索せんとするのだった。

 折から三日月堂では、彦七が月姫と対面、長安のことなどをつぶさに報告しているが、外にはお梶と同じく武田家の遺臣泉野兵馬がうづくまっていた。謎の快剣士桜井進太郎は、何故か人目をさけてこの場に忍びこんでいたが、偶然にもお梶と顔を合わせてしまった。二人は幼馴染であり、小田原以来三年目の再会であるが、きびしい警戒の中を、お梶の止めるのも聞かず進太郎は闇に消えてしまった。

 財宝欲しさに、陰謀をめぐらす悪奉行の長安は、水町三郎太を江戸から遠ざけるため、山目付支配として甲府に赴くように命じるとともに、雪絵にも甲州へ行って父に月姫との縁を切るように、さもなければ大逆を企てる逆臣として水町家は断絶をも免れまいとおどかすのだった。三日月堂を訪れ、月姫に相談のすえ、決意をかためた雪絵はついに長安、お梶らと甲州へ同行することに承諾、これに従ったが、進太郎は薬行商に変装してあとを追った。

 舞台は変って甲州鶴舞城へ−。三郎太は到着早々、最後の枝折の在りかを知っているが、容易に白状しないというので、長らく牢に閉じこめられている白髪の老人鳥の目源内に会ったが、そこで秘かに小柄を手渡して脱出を促した。程なく雪絵も到着したが、三郎太は小柄を証拠に大切な囚人を逃したかどで、土牢につながれていた。長安は雪絵さえその気なら父を助けてもよいとにじりよって彼女の手を取ろうとするのだった。彼は、雪絵が武田の血をひく月姫の妹であることを知っていたので、彼女を妻とすれば大久保家に武田直系の血が流れ、ひいては遺宝も労せずして掌中に納められるものと考えていた。三郎太を釈放することを口実に、長安はいやがる雪絵を抱きすくめるようにして眠り薬の入った酒をだまし飲ませた。眠りつづける雪絵の体に今や長安が襲いかかろうとする時、黒装束のいの字が現われ、すきを見て雪絵をかついで行った。しかし、いの字の行手に同じ黒装束が立ちふさがって雪絵を奪い返した。第二の黒装束とは意外にも桜井進太郎であった。

 いの字に変装した進太郎は、さらに長安をうまく騙して、彼が手に持っていた二枚の枝折を鷲掴みにして消えて行った。四枚の枝折はついに三枚まで揃った。残るは鳥の目源内の持つ“火”の一枚だけである。最後の枝折を求める進太郎、雪絵、三郎太たちと、奪われた枝折を取返そうとする長安の配下十数名は、期せずして双方から瀕死の源内のもとへ集まってきた。そこには彦七と兵馬もいて、“侵掠如火”とかかれた枝折を囲んで謎解きに懸命であったが、たちまちその場は正邪入乱れての修羅場と化した。影のように忍込んできたいの字は、すばやく源内の懐中から火の枝折を盗みとって姿を消したが、誰も気付かなかった。三枚の枝折を手掛かりに、進太郎は彦七、雪絵たちの前で謎解きをはじめ、問題の場所は、信玄公の墓に近い洞窟であると説明した。“林”はその入口にある同じ形の二本の木であり、“風”はその坑道の中で異様な響きをたてる風音のことであろう・・・といった調子で謎解きは続けられていった。進太郎たちが洞窟についた時には、さきほどの説明を立聞きしていたいの字が一足先にきて探索を始めていたが、いきなり組みついてきた進太郎に覆面をはぎ取られ、ついにその正体を露呈した。謎の男いの字は果して何者であったのであろうか?それからほどなく、地軸をゆり動かすような大音響とともに武田家の紋所をうった石箱が現われ、一同の眼前にはおびただしい大判、宝石が燦然と輝いていた。

 折から三日月堂では三郎太、彦七、お梶の兄妹に進太郎らが控える前で、初めて月姫、雪絵に姉妹の名乗りがなされていた。やがて月姫は進太郎に「雪絵をたのみますぞ」との言葉とともに、地上に虹のかけ橋をかけるような武田家再興の企ては捨てようといい残して滑るように奥へ消えて行った。やさしく進太郎の胸に抱かれる雪絵の顔を美しく月の光が照らしていた。(大映京都作品案内531より)

          月姫系図         滝沢一

 角田喜久雄のお家芸である埋蔵金モノ。余程入り組んだ筋を思いっきりよく整理したらしく、人物関係などアイマイモコとしている部分が多い。もっともこういう宝探しモノは少々筋に飛躍や省略があっても構わず、専らストーリーの展開にスリルを追いねらうべきだが、新人渡辺実の演出は細部のふん囲気描写にかかずらって、劇の展開に弾みをつける呼吸の点で未だといわざるをえない。

 テレビ映画を見ていると、主役がドアを開閉する一呼吸の間に、場処も時間も平気で転換するが、こうしたスピーディな演出手法をもっと取入れるとよいと思う。事件そのもののなかにせいぜい怪奇さをもりこむべきで、もたもたと情景描写なんかやっていると、短い尺数のなかでロクに話の筋も通らないアブハチとらずの結果になってしまうからである。

 それにしても主人公が幕府の隠密であるという素性の割り方も拙く、埋蔵金を発見する経緯もたいへんあっけない。同型の立回りシーンを何度もくりかえすのも気が変わらなくていけない。色彩ワイドで、宮川一夫のカメラがパステル調をネラったような色彩表現の試みに僅かに興味をつなぐ程度。凡作である。興行価値:相変らず売り難い内容であるが、雷蔵主演を強調すべし。(キネマ旬報より)

1958年当時の映画館入口の様子。ポスターは『月姫系図』『髑髏狂女』『七人の女探偵』『新婚七つの楽しいみ』『桃太郎侍』の5本。

 

角田喜久雄(1906-1994)原作「月姫系図」は、春陽文庫で読める。詳細は春陽文庫時代小説を参照。

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