桃太郎侍

 

1957年12月15日(日)公開/1時間27分大映京都/カラースタンダード

「清水港喧嘩旅」(渡辺実/勝新太郎・小野道子)

製作 酒井箴
企画 高桑義生
監督 三隅研次
原作 山手樹一郎
脚本 八尋不二
撮影 杉山公平
美術 神田孝一郎
色彩技術 本田平三
照明 岡本健一
録音 林土太郎
音楽 斎藤一郎
助監督 西沢利治
スチール 松浦康雄
出演 浦路洋子(百合)、河津清三郎(伊賀半九郎)、木暮実千代(小鈴)、堺俊二(伊之助)、杉山昌三九(鷲塚主膳)、香川良介(右田外記)、清水元(榊島伊織)、細川俊夫(大滝鉄心斎)、植村謙二郎(高垣勘兵ヱ)、荒木忍(慈海和尚)、浜世津子(千代)、若杉曜子(お梅の方)、南条新太郎(杉田助之進)、水原浩一(小川新兵ヱ)、原聖四郎(鷲塚大学)、高倉一郎(藤井左次馬)、橘公子(繁野)、小柳圭子(神島家の腰元)
惹句 『藩主幽閉若殿毒殺?−風雲急の丸亀城決起起つは若殿か、謎の快剣士か?』『丸亀十万石存亡の危機瓜二つの若殿に代って陰謀を斬る痛快桃太郎侍の剣

kaisetu.gif (3018 バイト)

momo2.JPG (66580 バイト)

■ 解 説 ■

★この映画は、時代劇小説の最人気作家山手樹一郎の代表作を、市川雷蔵の主演で大映京都が映画化するものであるが、かって昭和二十七年には衣笠貞之助監督が『修羅城秘聞』の題名で、主演長谷川一夫、大河内伝次郎により製作したことがある。

★今回は衣笠監督の愛弟子三隅研次監督が、双生児であったため、幼くして里子に出された通称“桃太郎”と呼ぶ明朗にして快活な主人公が、風雲急を呼ぶ生家興亡の危機に当り、決然兄若殿の身替りとなって、奸悪無双の強敵を倒すという波乱万丈篇である。

★一作ごとに新しい魅力を追って、演技一途に精進を続ける市川雷蔵が、二役でこの双生児兄弟を見事に演じ分けるが、相手女優には、すでに雷蔵と魅力をコンビとして定評のある浦路洋子が、純情の武家娘に、また妖艶木暮実千代が表面は日本画の閨秀作家でありながら、実は鉄火の女スリという興味ある役どころで、さらに河津清三郎、植村謙二郎のベテランが五年振りで大映に出演するほか、浜世津子、若杉曜子が、堺俊二、杉山昌三九、香川良介、清水元、細川俊夫、荒木忍らの芸達者に混って出演するという豪華多彩の顔触れである。(公開当時のパンフレットより)

■ 予 備 知 識 ■

 『鳴門秘帖』で精悍な青年剣士に扮して好評を博した市川雷蔵は、次回作として山手樹一郎原作の『桃太郎侍』の製作決定。大映カラー総天然色により、十月十四日より撮影を開始、大映ではすでに数年前に『修羅城秘聞』(前後篇)の題名で、監督衣笠貞之助、主演、長谷川一夫、大河内伝次郎により映画化されたものである。今回の監督は衣笠監督の一番弟子三隅研次監督である。

 三隅監督−この映画は、雷ちゃん自身が好きで企画を出したもの、前作と違って俳優自身も若いのでピチピチとした若さと明るさを出したい。明朗活発な味を出してもらうために、セリフもなるべくつめてもらい、テンポの速い中で感情が出なければいけない。そこで雷ちゃんにうまくやってもらいたい。とにかく、ジメジメした暗さと、のろいテンポは一切ごめんこうむって、歯切れのいい映画にするつもりだ。

 市川雷蔵 −何度も映画化された『鳴門秘帖』を又やるぐらいなら、この映画はストーリーがいいので、私が企画を提案し、まとまったもの。僕は今年になって、ユーモアのある二枚目半的な役がなかったので、その意味でも大いに張り切っている。二役ということで、その点むずかしく、よいお芝居をしてもマイナスになるので、それを心配しているが、結局は明るいということ、楽しい映画にしたいことだ。みなさんに楽しんで見てもらえば満足で、それ以上のことは望まないつもり。浦路君とは四本目、彼女ともだんだん呼吸が合ってきたので、とにかくがんばりたい。(よ志哉第2号より)

 山手文学のほとんどに登場する、いつも人生の明るい部分を信じて生きていく屈託のない主人公−あらゆる人間界の枷から開放されたように、暗い夜道も明るい大道のように、たった一人で胸を張って歩いていく青年侍。−それは、複雑な人間社会に疲れた現代人の心を一緒にとき放ってくれる願望も背負っている。ここに永い人気の秘密が生まれるのだ。(文芸評論家 石井冨士弥)

 その山手樹一郎の作風を代表するのが、『桃太郎侍』。”桃から生まれ、正義のために鬼退治”

 山手樹一郎の同名小説を八尋不二が脚色、三隅研次が監督した市川雷蔵主演の娯楽時代劇。浅草蔵前通りを着流しの雪駄ばきで歩く浪人者は、自ら桃太郎侍と名乗り、無類の剣の使い手である。桃太郎は讃州丸亀藩若木家十万石の若殿・新之助と双生児だったが、双子を忌む武家の風習から里子に出され、成人しても武家のならわしを蔑すみ、仕官しようとはしなかった。若木家では大殿の病気をいいことに、次席家老の鷲塚が藩の実権を握ろうとしていた。

 東映京都が本紙連載小説「恋晴れ鷹」をクランクアップしたとき、こんどは大映京都が原作者も同じ山手樹一郎の『桃太郎侍』の撮影を開始した。

 この映画は二十七年に長谷川一夫、大河内伝次郎主演、衣笠貞之助監督によって『修羅城秘聞』の題名で製作されたことがあるが、こんどは市川雷蔵たっての希望で再映画化されることになったもの。監督は若手で将来を期待されている三隅研次で、特異なムードと新 新鮮なタッチで、会心のメガホンをとっている。

 二役主演の雷蔵にからんで浦路洋子、小暮実千代、堺俊二が出演するほか、河津清三郎、植村謙二郎が五年ぶりに大映に顔を見せている。

 三隅監督に演出の抱負を聞くと、「全体にセリフの間隔をつめ、現代劇の調子でテンポのあるものをねらっている。こんどはアグファ・カラーだが、色を演出の計算にくりこんでゆき、雷蔵さんの二役を生かしてゆくつもりだ」とのこと。

 また主演の市川雷蔵は、主人公の桃太郎侍と若木新之助という兄弟二役を演じることになったが、ラストでこの二人が手をとりあう感動的なシーンがあり、同じ人物が劇的シーンを演じるというので、雷蔵は頭が痛いという。彼はこんどの役では珍しく明るい、いわば二枚目半的な役にはじめてぶつかるわけだが、それだけに雷蔵の張切りぶりもまた格別のようである。(西日本スポーツ10/31/57)


大映映画「桃太郎侍」鞍馬ロケ

 

男装姿の浦路洋子さんと雷ちゃん

おしゃべりに花が咲いています

 

  

とんだりはねたり、六尺棒をふりまわしての大タチマワリは、雷ちゃんの独壇場です。でも少し疲れたそうです。


 冬の陽はツルベおとしに落ちて、二時半をまわるころには、陽もだいぶかたむいてきます。なにしろこのロケ現場は、京の洛北鞍馬山のずっと奥深いところとあって、山肌が幾重にも重なったまるで人里はなれたところだけに、いつものロケにはつきものの群衆には悩まされないのですが、そのかわりお天気の移りかわりがはげしく撮影も思うようにいきません。監督の三隅さんも空をながめたりカメラをのぞいたり、神経の使いようも、ひととおりでないようです。

 さて今日の撮影は白装束に身をかためた雷ちゃん扮する桃太郎が、十数人の浪人におそわれるという大タチマワリのくだり。こんなにたくさんの人におそわれたらどうしよう。なあんて、ひとごとながら気がもめますが、そこは映画、ここでカンジンの主人公が死んじゃったら、話になりません。とどのつまりは浪人たちが尻尾をまいて逃げのびメデタシメデタシということに決っています。

 雷ちゃんも、スクリーンではずいぶんいろいろの役に扮してはいますが、金毘羅参りの六部姿なんて役は今度がはじめて。おまけに剣ならぬ六尺ボーをふりまわしてのタチマワリは、サッパリ見当がつかず、いささか戸惑い気味のてい。でも、さすがは雷ちゃん、颯爽としたタチマワリもイタについてきました。

 たき火をかこんで待ち構えている浪人エキストラの機先を制してエイヤア!先んずれば人を制すのたとえ通りいや浪人のおどろいたのなんの。その機に乗じて、アガリ気味でうろたえる連中のひとりをバッサリ、つづいてもうひとり。斬られた人はここぞとばかりに、大ゲサなしぐさでバッタリ。合計十人を斬ったことになる雷ちゃん、おかげで汗がビッショリ。主役もラクではないようです。(「明星」58年1月号より)

★昭和二十七年に同じ大映で『修羅城秘聞』(監督衣笠貞之助主演長谷川、大河内)の題名で映画化したことのある山手樹一郎の代表作の一つを、八尋不二のシナリオ、監督三隅研次で大映カラー総天然色。

★姓は日本一、名は桃太郎と名乗る無類の剣の使い手、実は若木十万石の大名の家に生まれながら双生児の為、幼くして里子に出されたという、明朗快活な主人公が生家興亡の危機に、兄君の身替りとなって奸賊を倒すという娯楽篇。

★若木十万石の双生児兄弟を市川雷蔵が二役で演じ、コンビ浦路洋子が純情武家娘に、木暮実千代が鉄火の女スリ、その他、河津清三郎、植村謙二郎が久方ぶりで大映作品に登場する。

★着流し姿の雪駄ばき、懐には小判が百両、男っぷりはいいし剣も強くて浪人暮しの桃太郎侍を主人公に、軽快颯爽なる痛快篇。(「時代映画」57年12月号より)

←クリック!中身が見られます!

■ 物 語 ■

 江戸は浅草。蔵前通りを着流しの雪駄ばき、しかも懐には百両の小判を投込んでゆうゆうと歩いて行く浪人者−不敵にも姓は日本一、名は“桃太郎”と名乗る無類の剣の使い手でもある。これを狙って尾行を続けるのは狼の異名をもつ伊之助。そこへ二人の間を割ってさりげなくつける仇っぽい女、表面は日本画の閨秀作家だが、実は女スリの花房小鈴である。

 折から小鈴が田舎侍に挟み撃ちに会ったところを桃太郎が助けたことから、小鈴の家に招かれ、酒を勧められた上、桃太郎は激しくいい寄られたが、そんな口説きに乗るような彼ではなかった。その場の様子をじっと押入れの中で覗き見ていた伊之助は、桃太郎の気性に惚れ込んで、自分の長屋で居候するようにと引張ってきた。が途中、覆面の一団が武家の籠を襲うのを見た桃太郎は、ここでも鮮かな太刀さばきで一味を撃退してしまった。助けられたのは若木家の江戸家老神島伊織の娘百合と供侍たちであった。伊之助が桃太郎を伴って長屋に帰ってみると、そこには小鈴が自分の家のような顔をしてちゃんと座り込み、桃太郎に仕官の話をもってきたと言ったが、何処の家中かもわからぬようではと相手にならなかった。

 若木家では大殿の病気をいいことに、次席家老鷲塚主膳が江戸の若殿新之助を退け、側室お梅の方と自分の間に生まれた不義の子万太郎を擁して、藩の実権を握ろうと企んでいた。そこで江戸家老の伊織は国許の奸臣どもの策略を粉砕するため、若殿が菩提寺に参詣するのを機会に、その足で不意に帰国を願い、一挙に始末をつけようと計るとともに、百合を通じて桃太郎に若殿の道中の護衛を依願した。伊之助の家には先客の小鈴が来ていた。鷲塚にその才智を買われている陰謀家伊賀半九郎の指し金で桃太郎を味方に引き入れようというのである。一方、百合から若木の世嗣新之助の護衛ときいた桃太郎は、何故かサッと顔色を変え、百合の折角の頼みだが断ってしまった。

 それには複雑な理由があった。−というのは新之助と桃太郎はもともと若木家に生まれた双生児であったが、双児を忌む武家の風習から乳呑児の間に里子に出されて成人した桃太郎は、おろかな武家のならわしを蔑むとともに、何人にも仕官しようとはしなかったのである。伊之助は桃太郎の身の上を知って言葉もなく首垂れるのだった。しかし若殿が敵の計略から毒薬を飲まされたことを百合の訴えで知った桃太郎は、生家の一大事とばかり兄新之助の身替りとなって、若殿に化け、国許の急使と称する伊賀半九郎に引見した。毒を盛ったはずの若殿の姿を見て半九郎が驚いたのは勿論であるが、彼は不敵にも露骨に正体を現わし、大殿の命令と称して、若殿は隠居して万五郎に家督を譲るように奏上するのだった。若殿に化けた桃太郎は、いづれ国許で黒白つけようと答えて下らせた。長屋に帰った桃太郎は、伊之助に事情を打明けて彼の協力を求めた。一方小鈴はかねて憎からず思っていた半九郎の頼みでもあり、また半九郎が大悪人であることもつゆ知らず、桃太郎を一味に加える算段からさらに彼を訪ねたが頭からフトンを被って病気だと偽った。もち論敵の目をくらませるためのお芝居である。

 舞台は東海道へ移った。若木家の行列が行く。それを叢の中から冷たく光る銃口が一斉に火を吐いた。しかし駕籠の中で絶命していたのは伊織の用人でありながら裏切って半九郎に通じていた進藤であった。半九郎は完全に裏をかかれてくやしがった。桃太郎は敵の計略を見破って少数の供とともに先行していたのである。桃太郎が若殿になって鞠子の宿で旅籠をとっているところへ、百合といつわって小鈴が現れ、もう一度味方になるか、さもなくば手を引くようにという半九郎の言葉を伝えたのだが、かえって小鈴は路銀を渡され、半九郎の片棒担ぎを止めおとなしく江戸へ帰れとさとされた。ところが平侍姿に変装して宇都谷峠に近づく桃太郎の行手には半九郎の配下の覆面達が待ちかまえていた。たちまち乱闘、しかし林の中から構える高垣勘兵衛の短銃に桃太郎はもんどり打って転落した・・・。(公開当時のパンフレットより)

『桃太郎侍』出演を告げる雷蔵からファンへのレター

book.gif (2631 バイト)

 [時代小説]は発生期の荒唐無稽(チャンバラ)時代に始って歴史味を加えたものから、剣豪・忍術(村山知義、山田風太郎出現辺りまでは忍法・忍者(しのび)の語は使われなかった)・侠客、そして吉川英治「宮本武蔵」(昭和10)が代表する求道精神物といったような、要するに喜怒哀楽すべてを含みつつ面白く進行する分野、すなわち、人によって悲愴味が、あるいは登場人物の御都合主義(バカバカしさ)が等々、その他いろいろな理由で、単に“娯楽小説”の一ジャンルとはいえ、その支持されかたも好き嫌いが分かれた。

 ところが、ここに、知的教養人にも格好の[消閑の具(アタマのやすめ)]に、そして町々の一般生活人にも、まず、第一に明るくって、それから懐かしく心温かくって、さらに人間社会の悲しさなど、人情の機微も充分捉え、しかも肩なんぞ絶対にコらさないという、まったくの“娯楽”時代小説が現われたのである。

 エンターテインメントの醍醐味を包丁捌き鮮やかに読者に調理してみせてくれたのが、山手樹一郎だ。その作風を代表するのがつまり「桃太郎侍」。

 “桃から産まれ、正義のために悪鬼退治をする”桃太郎サンの童話(おとぎばなし)、その正義の味方を文字どおりヒーロー題名にした本篇は地方新聞にひっそりと連載(昭和15)され始めたのにも関わらず、新聞社の印刷工から朝の配達少年たちまで、きのうの続きはどうなったか?と挨拶代りに伝え合ったという伝説的ヒット作となった。

 物語は讃州丸亀藩若木十万石に双生児の若殿が生まれ、跡取りが二人いては騒動のもとと、侍女の一人に育てられ素浪人生活を愉しんでいたのが若殿新二郎君ことわれらの桃太郎侍で、ひょんなことから気っ風に惚れて手下として働くスリあがりの伊之助、ゾッコン参ってる踊りの師匠坂東小鈴・・・・。ここから若木家のお家騒動が開始。

 善玉派家老の娘百合の純情恋まで加わって、読み出したらやめられない、世にいう山手明朗時代長篇小説タイプの典型となるスタート痛快篇。(石井富士弥、平凡社別冊太陽「時代小説のヒーロー100」より)

 『ゼンダ城の虜』のコピーである『桃太郎侍』は、『修羅城秘聞』というタイトルで昭和27(1952)年大映が前後篇で製作した。長谷川一夫主演だが、戦前時代劇のチャンピオンだった大河内伝次郎が伊賀半九郎になり、初の敵役を演じたのが注目された。その堂々たる大敵ぶりは印象に残る。

 市川雷蔵VS河津清三郎もなかなか格調があったが、あとのリメイクはみな小ツブ。本郷功次郎など似合いの役柄なのに売り出し損ねた。(永田哲朗、平凡社別冊太陽「時代小説のヒーロー100」より)

  春陽文庫山手樹一郎長編時代小説全集=1「桃太郎侍」で読める。詳細は春陽文庫時代小説を参照。

  

YaL.gif (2580 バイト)

Top page